*アテムが本当に駄目な子
*長いです
続・彼はファラオ -7-
勝負は早々とケリがつけられた。
チェックメイトといわれても、海馬にはすでに逃げ場など無く、
王はあっさりと、キングを奪い去った。
勝負に決着がつくと、
海馬の消えていた体は気づかぬうちに戻っており、
しかし、その場に座り込んだまま、敗北はその背にのしかかっていた。
「罰ゲーム!」
王はそう叫んで、人差し指を敗者へ突き刺す。
それからのことはアテムの目には映らなかった。
ただ、海馬は、海馬らしからぬ叫び声をあげて、崩れ落ちたまま、
気を失っていたらしい。
アテムはまた、自分の中に王の気配が消えたことに気づいた。
「ここは、何処だ!?」
「迷宮、王家の墓だ。」
突然突き落とされた感覚に陥ってから、意識がはっきりとしてきたかと思うと、
石造りの廊下に跪いていた。
「敗者には罰だ。」
「罰・・・だと・・・?」
海馬は見下ろしてくる王を睨みつけたが、
そんなものは何にもならず、
王は愉しそうに笑うだけだった。
「遊戯を傷つけた刑だ。
出来ることならば、このまま貴様の精神を破壊してやりたいところだ。
だが、遊戯は貴様の死さえ悲しむだろう。」
如何にも繊細なんでな。
王はその人を想い笑う。
「俺は貴様を許すことなど出来ない。
だが、遊戯は貴様を信頼していた。貴様がどういう人間か知らなかっただけでない、
遊戯はたとえ貴様がどういう人間であれ、貴様を受入れるだろう。」
しかし、そんなことは許さない。
「貴様が遊戯に受入れられるのではない。
貴様が遊戯の中にある貴様になれ。」
そうであれば、遊戯のとなりに立つことを許可してやろう。
その、遊戯を欲する醜い心を壊すこと、それが本来であれば最も早い。
だが、
それではつまらない、俺が。
貴様は、俺の前に赤絨毯を敷く役目を担え。
「つまり、」
「貴様は永遠に遊戯の影を追いながら、永遠に手に入れられない苦しみを味わえ。
僅かでも触れれば、」
薔薇は確実に貴様の指に棘を刺す。
「俺がそれを拒否すれば・・・?」
「弟もその間目覚めることは無い。」
「なに・・・!?」
「貴様が指示、いや示唆したんだろう?
弟に、名前は、なんだったかどうでもいいが、
遊戯を他の奴等から隔離して、1人楽しむためにな。
出来のいい愚直な弟だ。
貴様の命令を愚かにも守ったために、俺の怒りを勝ったわけだ。」
俺は非常に機嫌が悪い。
「貴様、モクバに・・・!!」
「己を呪うんだな。貴様がこんなことを企みさえしなければ、
今頃あの連中と楽しく食事をしていたのだから。
だが、救えるのも貴様だけだ。
この迷宮を抜け出せば、弟も貴様も目を覚ますだろう。
心優しい遊戯が、貴様を案内に出てくるかもしれないが、
棘に刺されぬよう、気をつけるんだな。此処は王墓。侵入者を拒む場所。」
王は高らかに、愉しそうに一頻り笑った後、
ふっと姿を消した。
海馬が目を覚ますのは、2日後のことだ。
突然倒れた海馬も気になるが、
何よりぐったりしたまま動かない遊戯が、酷くアテムを苦しめた。
恐ろしくて近づけないのだ。
何が恐ろしいのかも解らなくなってきて、
前後不覚になりかけた時、
すぐに王の気配は戻ってきた。
そしてアテムは逃げるようにあっさりと王へ体を譲った。
「遊戯。」
倒れた海馬のことなどつゆ知れず、
アテムの恐れさえ持っていない王は、すぐに遊戯へと駆け寄り、
その身を束縛していたものを外して、
そっと目隠しを外す。
自身の上着、正確に言えばアテムのなのだが、それを脱いで、
寒々しい肌を覆ってやった。
「遊戯。」
もう一度、その者の名を呼んで、
そっと額に口付けると、
紫の瞳はゆっくりと開かれた。
「ふぁ・・・ら・・・お・・・?」
「遊戯、遅くなった。」
遊戯はその存在とその笑みにフッと笑って、
しかしすぐに事態に気づく。
「あ、ぼ、ぼくは・・・。」
遊戯の目は、真っ赤で、どれだけ泣いたのか、考えるまでもなく、
海馬に対して与えた罰は余りに軽いとそう思いさえした。
涙は、枯れぬものなのだろうか。
それとも、その理由さえ違えば、
いくらでも流れるものなのだろうか。
遊戯はまたポロポロと涙を流して、余りに悲愴だった。
王は何も言わずにただその涙を拭って、
懺悔をするその口をそっと塞ぐ。
「恐れる必要などない。守れなかったのは、俺のせいだ。」
「違うよ・・・。」
「俺のせいにしておいてくれ。でなければ、俺が許せない。」
「ううっ・・・。」
遊戯は重たい腰など意に介せず、王の首へを腕を伸ばして、
王もそれを支えながら、そっと抱きしめた。
肌の冷たさは、王に罪悪感を押し付けてくる、
どれだけ遊戯が此処で屈辱的な目にあったのか、
お前がいけないのだ、と。
「遊戯、体が冷えている。早く帰ったほうがいい。」
「うん・・・。」
王はベッドのシーツで、遊戯の肌を汚すものを拭い取り、
恥ずかしがる遊戯が着替えるところを見ぬように気遣った。
アテムは、ただそれを、ばれぬようそっと見ていた。
海馬をどうかしてしまったあの時の王と、
この遊戯を守ろうとする王と・・・
一体何故、こんなに違うのだろうか。
これが、
人の側面というものなのか?
遊戯は脱がされた服を何とかまとって、
ふと、倒れている海馬に気づき、近寄ろうとするのを王は制して
逃げるようにその部屋から遊戯の手を引きさった。
遊戯にとっては、なんでもない、ただの闇の部屋だった。
問いただしたあのメイドが動けずにへたりこんでいるのを見て、
家の主人は地下の部屋で寝ているとだけ言い放ち、
それから一切振り向くことなく、邸を去った。
道は知らなかったはずなのに、
どうやらアテムが歩いた道は確り把握したようで、
とりあえず邸が見えぬ場所までつれてきて、ひと息付く。
「生憎俺は、道がわからない。」
「そうだよね。大丈夫。ボクは解るよ。」
「ならば兎に角、お前の家まで行け。」
「でも、ボクの家の方が遠いし、キミはそこからわかるの?」
「後は行かせる。」
「?」
意味は解らなかったらしいが、
遊戯を1人にさせたくないという王の気持ちは汲み取って、
遊戯宅へ歩みだした。
会話は、なかった。
話すことが好きな遊戯は、何かと話題をふってくれたが、
その日ばかりは俯いて、
王は遊戯のその様子を隠すようにして歩いていた。
会場から駆け出してきてからどれだけの時間が経ったのか検討はつかなかったが、
日はだいぶ傾き、
オレンジ色の暑い日差しは、居た堪れない2人と、
遊戯の心さえを照らしているようだった。
闇に、隠れてしまいたい。
いや、隠してしまいたい。
すれ違う者に、2人の事情などわからないのに、
まるで罪人が見せしめで歩かされているような、
人の視線が、矢の如く遊戯を貫いた。
漸く亀のゲーム屋まで辿り着くと、
遊戯は王の腕を取って、そっと裏道へ入った。
「遊戯?」
「今日は、有難う。」
「当然だろう?俺が助けるなど。寧ろ、助けられなかったのだ、俺が謝罪すべきところだ。」
「駄目だよ。」
「何故?」
「王様はそんなに簡単に謝っちゃ駄目。」
そう人差し指を立てて、唇の前へ置く。
「ボクは、充分なんだ。キミが来てくれただけで。」
「だが、」
お前は、
傷ついてしまった。
繊細な心は、鋭い爪で抉られてしまったではないか。
「違うよ。そんなこと無いよ。
ボクは最初からそんなに綺麗な人間じゃないし、
それに、キミが守ってくれたんだ。
ボクは海馬君がどうして変わっちゃったのか解らない。
あれはね、ボクの知らない海馬君だったんだ。
声も違ったし、別人だったんだ。
正直に言えば怖かったよ。
でも、
キミが来てくれるって思ったんだ。願ったんだ。
たとえ来てくれなくても、構わない。
ボクがボクで居られたのは、
キミが居たからなんだ。
キミが遠くから、何処に居ても、ボクを守ってくれたんだ。」
違う、
そう言おうと思ったのに、
優しく微笑む遊戯の前に、言葉はなかった。
「ありがとう、ファラオ。」
遊戯はそっと僅かに背伸びをして、
王へと口付けて、
またにっこりと笑った。
「遊戯・・・。」
「なに?」
かけたい言葉は一杯あった。
だが、本当に伝えたいことは、言葉じゃ伝えられない。
「体を温めて、ゆっくりと休むんだ。いいな?」
「うん。」
割と一般的な命令に、ふふふっと笑って素直に頷いた。
「じゃあ、おやすみなさい、ファラオ。」
「ああ。」
遊戯がドアの向こうへ消えると、
じいちゃんただいまー!という元気な声が聞こえた。
「居るのだろう?」
呼ばれているのが自分だと、アテムは解った。
『何だ?』
「生憎帰り道が解らない。」
『そうだとは思ったけどな。』
「・・・何を考えていた?」
「別に何でもいいだろ?」
さっと体を取り返して、
アテムは家路へとついた。
その胸に1つの覚悟を決めたまま。
自宅へ帰る途中、漸く携帯電話の存在を思い出し、
慌ててみると、
大量の着信履歴とメールが届いていた。
名前など見る必要もないのだが、
一応確認すれば、やはり友人の名が残されていて、
本来であれば連絡するべきなのだが、
事態が事態なだけに、
言い訳を考えながら、自宅へと戻っていった。
やるべきことがあるのだ。
それによって、自分が消えるかもしれないが、
それでも、やらなきゃいけないのだ。
海馬邸からの帰り道、
アテムは自身の心の部屋にいた。
そこは酷く様変わりしていた。
黒が基調には違いないのだが、
真っ白な壁には焼けた跡があり、
そこには
武藤遊戯という名が刻み込まれていた。
確かに大事な人間であるし、
諸事情ゆえに、関わりがあるのは確かだが、
何故だろう。
そしてなぜ、焼け焦げているのだろうか。
そして気づくのだ。
己の心に。
遊戯が自分を見る瞬間、
見ているのが自分ではないと思う度に、
焼けていたのだ、此処が、心が。
それは、いうまでもない、嫉妬。
それがどういった立場から来るものなのかは解らなかった。
自分にとって大事な友人を奪い去った男が憎いのだろうか、
大切な仲間が仲間によって傷つけさせる結果になったからか、
それとも。
だが、いずれにせよ、
王が自ら言ったように、責任は王にあるべきなのだ。
王が、間接的に遊戯を傷つけたのだ。
そう思ってしまうのは必然だった。
アテムは、守りたい、遊戯を。
それは王と同じだった、だが、
アテムは遊戯が王によって傷つけられることを阻止したいのだ。
闘いを決意した。
←
前のターン! 次のターン!→
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次回、決戦2
アテムは未だに気づいてないんですね、駄目な子。(誰の責任よ、それ)
とりあえず社長は粛清されたんですが、
思ったより魔王様がSになりませんでした。
迷宮のイメージは、影牢とか、刻命館とかのイメージです。
幻像の遊戯が逃げるので、追うとトラップ・ギミックみたいな。
マイクラにしようかと思ったんですが、
魔王様は社長をキレイにする気はないみたいです。
赤絨毯を敷く掛かりなので。
それにしてもモクバがかわいそう過ぎる。
(08.03.31)AL41