私の生まれた村。

記憶が正しければここであってるはずなのに。

何故、誰も居ないの?



「お嬢さん、どうされた?」

近くを通った商隊のご老体に声をかけられた。
「ここら辺に村があると訊いたのですが。」
「村・・・?ああ、あった、と言うべきだろう。」
「あった?今はもう無いのですか?」
ご老体は寂しいとも哀れともつかぬ顔をして、「消されてしまったのだ」と言った。

消された・・・?

「お嬢さんもご存知だろう?あの先王の無くなった戦いを。あの時死んだ盗賊の青年が最後、全て死んでしまった。」

「何故、ですか?」

「私も噂程度にしか知らないが・・・生贄といわれている。」

生贄・・・?

「国を守るために亡くなったとな。
所詮彼等は盗賊。国の為に役立ったというべきなのだろうか・・・
いや、寧ろあんなことさえ起きなければ、先王もなくならずに、
あのような残虐な性格にはならずに済んだものを・・・。」

おっとすみません、いやぁ年をとると話が長くなってしまってね。

ご老体は柔らかく笑ったが、少女の心には届かない。

「いえ・・・そうですか。では私の気のせいだったようです。」
「どうされますか?一緒に街へ参りませんか?」
「彼等の話を聞いたのも何かの縁、立ち寄ってみることにします。」

少女は深く礼をして、去っていった。

少女の白い肌に気づかなかったのは彼が世界を巡る商隊だったからである。




生贄に?
産みの父も母も生贄に?
そのせいで、あの人が死んだ?

一体、なぜ?
何故?
どうして?

ユウギの足は自然と駆け足になっていた。
溢れてきた涙は風とともに散った。

やはり、そこは廃墟。
誰も居ない。
何も居ない。

ユウギは記憶を手繰り、自分の家を探した。
近所の少年と遊んだことがある気がする。
角の、階段がある家の子。
確かあの子の斜向かいが私の家・・・?

そこで見たもの。
壁に残る血痕が惨劇を物語っており、
既に白骨と化していた兵士の兜は王宮の門番のものに良く似ていた。

王家が・・・生贄にしたの?
そのせいで、あの人は死んだの?

『父のことは誇りに思っている』

あなたは・・・それを知っていたの?

その場の殺戮の跡に気も止めず、その場に寝そべって、
歩きつかれた足を癒す。
石畳の冷たさは、悲しみに似ていた。

余りにも皮肉ではないか。
余りにも無実な先王の死をユウギは憂えた。

恐らく理由があるのだ。
生贄、王家の殺戮、王の死。
全ては国を守るためだったのだ。

哀れな王。

生きたい様に生きられず、私如きに愛を求め、
王家の業を全て背負って死んだ王。
あなたの守った国は、セト様が何とかしてくださいますから、
ですから冥界で、今度こそ自由な人生を過ごして頂きたい。

だが、セト曰く、王の命は冥界へ行くことも許されず、
千年錐の中に閉じ込められたままだという。

余りにも惨い仕打ちではないか。

そう、だから恩を切り捨ててでも街をでたのだ。

やるべきことは忘れていない。

ユウギは思い出した家の庭を掘った。
案の定出てきた金の箱。
こんな高価なものを持っていたのは自分の親が盗賊だったからなのか。

だが、丁度良い。
私の器として持っていってしまおう。
最早持ち主は居ないうえ、盗賊の娘である自分もまた盗賊なのだ。
拾ったものは自分のものだ。

ユウギはそれを持って王墓へと向かった。
途中にあった川で自身と黄金櫃を洗い清める。
死者の前に黄金は失礼であろう、全ての装飾品を外し、
白布を身にまとっただけとなった。
「王の指輪・・・」
出来ればもっていきたいが、最早自分ではなくなるのだ。
ユウギとしての自分はここで終わりにしよう。
その指輪に口付けをして、そこへ置いていった。


王墓には見張りが2人立っている。
見つかっては追い返されるか捕まるかのどちらかだ。
王墓への侵入となればファラオの前に突き出される。
そのときのファラオはセトなのだろう。

恐ろしい。
だが、やらなければならない。

ユウギは布で頭まですっぽり隠し、長い階段を上っていった。

「貴様、何者だ?」
「ここは王墓だ、貴様が来るところでは・・・」

自分は娼婦だ。
身体を売って食べていたのだ。
今更出し惜しみする必要などない。いや、今こそ必要なのだろう。

ユウギは纏っていた布を艶っぽく脱いでみせる。
顔こそ幼いが、悪い作りではないし、身体は充分熟れていた。

所詮下級の兵士は一瞬で陥落した。

鼻の下を伸ばし、此方へとやってきたところで足をかけ、二人とも階段へ転がしてしまった。
上手い具合に転がっていったし、階段の一つ一つは結構低く、小さい。
頭は打っているかもしれないが、死んではいないだろう。
ごめんなさい、と言い捨てて、再び布を纏うとユウギは奥へと走っていった。






その数時間後、セトは川辺で貴金属を見つけた。
それは残酷は判決のようなものだった。

王の指輪。

何があっても手放さないと思っていたあの指輪が、
何故ここにあるのだ。
周りのものにも見覚えがあった。
踊りこそ出来ないものの、格好は踊り子であったユウギには、
一応髪や耳にも飾りが付けられていた。
金の輝きなど、ユウギ本人の輝きの前では鉛のようなものであったが、
寧ろ鉛で彼女を隠すことは出来ていたのかもしれなかった。

セトは再び馬を走らせた。

間に合え。
何があっても失いたくは無いのだ。



もう二度と失いたくないのだ。



王墓には近辺から呼び集められた兵で溢れていたが、
この大量の罠仕掛けを無事抜けるのは楽ではなかった。

「侵入者は見つかったのか?」
「いいえ・・・ですが、番兵が見たところ侵入者は女、いや少女だったそうです。」

どうして、お前で無い可能性を作ってくれないのだ。
あの細い腕でどうやって兵を撒いたのだ?
だがそれよりも、王に会うことすら叶わず罠に命を奪われては居ないだろうな。


「だがここはそう簡単に抜けらる罠ではないはずだ!」
「そ、それが・・・罠が全く作動しなかったそうで・・・。」
「本当に侵入したのか?」
「はい、見たものがおります。」

罠が発動しない?

そうか、そうかもしれない。
何せ自分を犠牲にしてでも守りたかった女。
自分の墓で傷付けるなどという愚かなことはしないだろう。

「セト様!安全経路の確保が出来ました!」

罠で死ぬ可能性が低いことに安堵したが、
何故ユウギがここへやってきたのか解らない。

ただ今は無事で居てくれ。

俺はそれだけを願い、踏み入れた。


中は数人が罠にかかり怪我を負っていたが、
多くのものが先へ進んでいる。

「侵入者に手を出してはならん!」

俺は叫びながら、兎に角先へ進んだ。
早く、俺を安心させてくれ、ユウギ。
寂しくなって王に会いにきてしまっただけだと俺にそういってくれ。











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(08.02.13)AL41