初めてユウギに会ってから3週間ほどした。
俺はもうすぐ王の地位に着く。
その前に気になることがあった。
ユウギが懐妊したか否かだ。
心のどこかで懐妊していないことを願っていた。
子どもがいないのであれば、王宮へ招こうと思っていたのだ。
なじられるとは解っている。
だが、あの店にいる限り、ユウギが他の男に抱かれる可能性はあり、それは好ましくなかった。
ならば先王がそうしたように、
俺が、形式上側室として抱えることで彼女の時間を守ろうとおもうのだ。
本心は、彼女と愛した人を重ね合わせていたからだ。
あのあと、何度かユウギの元をたずねた。
最初は先王について聞くためであったが、
段々と特別な存在へと変わった。
だが、何をするわけでもなく、ただ、下らない話をする。
「先王は俺のことを言ったと言っていたな。何といっていたのだ?」
女は可愛らしく笑って、
「背が高くて、目は細くて、青い瞳。」
なんと、思ったより何でもない話だったのだな。
「『真面目で神官としての知識や実力があるには違いないが、俺とそりは合わない』と。」
そんな風に思っていたのか。
闇に心を奪われていたといっても、あのような態度を取った俺を。
結局、結末はゾークによって奪われた。
だが、解っている。負けたのは俺なのだ。
神官でありながら己の力だけを愛し、
国を救うことを考えられなかった俺は、既に闇に己に負けていたのだ。
愛する人を守るために命を捧げたあの王には叶わないのだ。
ユウギは王から多くの話を聞いていた。
恐らく彼女は聞き上手なのだ。
嫌な顔せず愚痴を聞いてくれる性格が、王の気を引いたのだろう。
俺もまたそうだった。
だが、キサラのことだけは話さなかった。
また、彼女が王の子を宿す可能性があることは王宮に言わなかった。
彼女の信頼を裏切ることが怖かったのだ。
彼女は王のことを何度も繰り返し聞いてきた。
俺は一度王を裏切った身、話したくないこともおおいが、
彼女はたったの一度も俺を責めなかった。
この女が必要なのだ。
彼女を後宮へ迎え入れ、王となる。
王になることを拒んでいた心は、ユウギの存在によって王となる準備を終えた。
だからユウギに言わなければ。
何とか説得し来てもらわねば、俺の心は再び閉じてしまう。
その日は一週間ぶりであったが、何時もと同じようにユウギの店へと向かった。
何時もと同じだった。
なのに、
ユウギは居なかった。
仕切っていた女に問いただす。
「ユウギは何処へ行った!」
彼女は、王の子を授かったのか!?
「あの子は・・・。」
俺の剣幕がよっぽどだったのか、
女は突然泣き出した。
周りの給仕が慌てて駆けつけ、身体を支える。
女こそがユウギを買い、子どものように育ててきた店主であった。
可愛がっていたが、
四日前の昼間に神妙な面持ちでやってきて、ここを出るといった。
さすがは親として接していただけのことはあり、ユウギの王との約束は聞いていたという。
王もまた女主がユウギをいかに大切にしているのか知っていたため、話はしていたらしい。
だから子を宿したのだと思ったのだ。
なのに、そうではなかった。
子は出来なかったといった。
「でも、私はやらなきゃいけないことがあるんです。」
力強く、そういったというのだ。
何をなすというのだろう。
主のために、育ての親のために、手がボロボロになってもどうなってでも毎日店で働いた娘。
返しきれぬ恩を捨ててでも為したい事はなんなのか。
そこまで王を愛していたのか。
俺は思わずあの指輪を思い出した。
最初にあった日に商人の願いどおり渡したのだ。
彼女は断ったが、俺は「お前が一人去るときに充分な資金源になるだろう」と。
そうでなければ彼女はあれを預からなかっただろう。
無論、彼女があれを売れるわけもないのだが。
何故止めなかった。
何か不満でもあったというのか?
何故俺はこの女に怒りをぶつけているのだろう。
「あの子は誰よりも従順でした。
今まであの子が私に反抗したことも、いう事を聞かなかったこともない。
でも、あの子は自分の意見をいう事もなかった。」
その子が、
可愛がっていたお人形が喋りだし、自分の道を生きたいといったのだ。
「どうして止められますか。」
強い瞳。
強い声。
崩れ落ちた親を彼女は強く抱きしめて、
ありがとう、ごめんなさいを繰り返して、
手にはいつか客が自分に貢いだ金の指輪を預けた。
「あの子はどんなものにも代えられないものなのに!」
王が命の代償に守った少女の価値が、金の指輪一つ?
俺の心を救った彼女が、金に換えられるわけなど無いのだ。
「俺が探しにいく。」
「セト様!」
「向こうは徒歩だ。四日程度ならばそこまでいくまい。」
大急ぎで王宮へ戻ると、
王宮も混乱に陥っていた。
こんなときに、
「何事だ!」
「セト様、何者かが王墓に侵入を・・・。」
問うまでも無い。
見るまでも無い。
俺がいけないのだ。
先王の躯の話をした俺がいけないのだ。
お前が余りにも王を愛していたから、
俺は思わず全てを教えたくなってしまったのだ。
全てを受入れるお前の心の器なら、
王の死さえを正面から受入れるだろう、と。
受入れてなお、強く生きるのではなかったのか!?
お前は、
そこまで王を愛しているのか!
王墓には無数の罠がかかっている。
抜けることなど出来まい。
つまりそれは、
ユウギの死を意味した。
俺は神官に相談もせず、王墓へと馬を走らせた。
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Gold Moon & Silver Sun
女主が泣いたのは、
別にセトが怖かったわけではなく、
わが子のようなユウギを失ったことでの悲しみを必死に抑えていたのに、
セトが引き金になり感情が決壊したからです。
何という注釈(笑)