后を一度も抱かなかった、王。
性欲がいよいよたまっていたのか?
いや、そうではなかった。
王が消える数日前。
胸騒ぎがする。
いつもどおりやって来た王はユウギの顔を見るなりそういった。
どうかされたのか、聞いても特に何があったわけでは無い、という。
だが表情は暗く、覗き込むと、その瞳を強く見つめ、
一瞬で身体の自由を奪われた。
軽いユウギを抱き上げて、寝台へ連れ込むと、
まるで獣のように抱いた。
痛がるユウギに謝罪しながら、それでも止めず、
一通り終えると、
ユウギが責めもしないのに、王は謝罪の言葉を繰り返した。
ユウギが母親のように王を抱きしめると、
漸く落ち着きを取り戻したのか抱きしめ返してきた。
2,3度キスをして互いの体温と想いを確かめると、王は切り出した。
約束して欲しい。
「何を、ですか?」
今日のことで、お前は俺の子を生むかもしれない。
だがその時、俺はここにいないかもしれない。
「何故?」
解らない。だが、不安だ。
二度と、お前に会えないかもしれない。
その時俺がお前に残せるもの、それはきっと俺とお前の子だけだ。
俺は父の子に生まれたことに誇りは持っているが、王家に生まれたことは後悔している。
王の寵愛を受けるために擦り寄ってくる女、媚を売る男。
うんざりした。全てが嫌だった。誰も俺を見ていない。
ただ、お前は俺を見てくれた。
もし俺が平民の子であれば、お前を奪うことも出来たのに、それすらさせてくれない位など、
足枷でしかない。
俺は、俺がお前と出会えたように、
この子が本当に愛し合える人と出会い、自由に愛し合える為に、
あんな足枷を嵌めたくない。
だから、俺が死んだ後、この子は王宮に連れて行かないでくれ。
そうでなくても王宮側が感づいてやってくるかもしれない。
だから妊娠がわかったらこの国を離れ、どこか遠い国へ行ってくれ。
お前のように白い肌の民が住む国もあるだろう。肌の色など気にしない国もあろう。
お前は真面目だから何処の国でも愛される。
生きる場所がある。
そこで、子と共に平穏に暮らしてくれ。
その後、何度も確かめるように、
どこか遠くへ逃げるんだ、と繰り返し、
もう一度抱いた。
王の意の通り何とか子を宿そうとユウギも深く王を感じようとした。
夜が明ける前、王は部屋を出る。
「私は、貴方がまたここへいらっしゃる日をまっています。
ですから命を大事にしてください。」
頼んだ、だが、
俺は、お前の命を守るためには死ぬことさえ厭わない
俺が死んでも全てはいつか忘却の彼方へ・・・
俺の嫌いな自分が消えていくことに、どこか安堵しているんだ。
そして笑う。
乾いた笑い、自傷の言葉。
「そんな風に笑わないで下さい。
私は、たとえ何があっても、貴方のことを忘れません。」
私の大切な貴方を、傷つけないで下さい。
私は私の中で、永遠に貴方を守りますから。
絶対に。
何があっても。
どんな人が自分を抱こうと。
王は何も答えず、一度抱きしめて、
愛している、
そういったまま背を向けて去っていった。
その背は何時もの男の、じゃれあった背中ではなく、
国を背負った背中だった。
そこまで聞いて全てが解った気がした。
王はやはり人など愛していなかったのだ。
ただ、この女だけを愛し、そしてこの女を守るために身を捧げたのだ。
「お前は、その約束を守るのだな。」
「はい。」
「俺が王宮に告げ口をしたら?」
「逃げます。」
ユウギの目は強い光をたたえていて、
思わず見入った。
王が愛したただ一人の女。
そう改めてユウギを見る。
まずは紫の瞳。
紫は染めることが難しいため高貴なものしか手に入れられない。
そして王しか手に入れられなかった瞳。
今もなお、その目には先王しか映っていないのだ。
白い肌。
俺にとっては残酷な色。
死んだあの人を思い出させる。
まともに愛し合えなかった2人とちがい、王はこの女と身体を重ねた。
俺は、嫉妬しているのだろうか。
燃え盛る命の如き髪。
全ての始まり。
宿りうる魂の命。
優しく、甘い声。
王を呼び、愛の言葉を告げた声。
幼い顔と、それに反する豊かな胸。
娼婦としては幼すぎたのだろうか。
身体だけならば男を欲情させるには充分なのだろうに。
はっと我に戻る。
先王の人に一体なにを考えているのだ。
「どうか、されました?」
ふわりと笑う。
この笑顔に癒されたのだろう。
「いや、俺は安堵している。
王もまた人だったのだ、とな。」
「王は神です。」
「ではお前の愛した者は誰だ?」
「名前が、わかりません。ですが、私の愛した人は、王という職業についていた男でした。」
私が愛したのは、王ではありません、
あの人です。
「そうか。」
妙な言いがかりをしたのは女のほうなのに、
笑ったのも女だった。
このふわりと笑うところもまた愛されたところなのだろう。
思ったよりも普通の人間であった王。
それを知ってから俺の胸中は穏やかではなかったことに自分で気づいている。
渦巻くものは嫉妬。
愛する人と代わりの無い時を日々過ごしていた王。
ふわふわしたこの女と、他愛も無い会話をし、
くだらないことで笑い、文句をいい、
口付けを交わし、愛の言葉をつむぎあって
うらやましい。
俺には余りにも虚しい。
俺は、先王のように人を愛せるのだろうか。
自信が無い。
何時までも同じ影を追い続けるのだろうか。
ユウギ、お前は罪深い。
何故そんなに白い肌をしている?
何故そんなに穏やかなのだ?
他人の心をどうしてそんなに易々と受入れられる?
お前の罪は、
俺にあの人を思い出させてしまうことだ。
だが、そのお前は王に全てを捧げてしまったのだ。
王よ、
死してなお生きし者を縛る貴方が、うらやましい。
俺は
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