*ものすごくネタバレな副題
*別に知れちゃっても構わないんですけどね!

*短いです。

*・・・よくしゃべるやつだ





蛇の舌先は二つに分かれているという。



唯我論者の誤謬 -12.Dual Diplomacy-






「やはり、物騒ですね。」

運転手の死を聞いて放った言葉はお世辞のような口調で、
気味の悪さを覚えるが、それこそこの男らしいものであった。

「あのニコニコ笑っていた男が・・・アイツは一体何者なんだ。」
「さぁ。“暗殺者”あたりではないでしょうか。」

自分が何を話しているのか理解しているとは思えない、
ドラマの脚本を棒読みしているような印象を与える。

「政治家や企業家というのは命が狙われるものです。
むしろ・・・命を賭けてでも成し遂げたい目的がある・・・とは、
自分の生涯をかけるに相応しい職業、というべきかもしれませんね。」
「お前もまたそのうちの1人・・・か。」
「ええ。私もこの命を懸けています。もし、この目的が達成できるのであれば、
死ぬことは惜しくありませんよ。」

この男と話していると、何がおかしいのかわからなくなる。
自分の目的を達成する為に命をささげるといいながら、
それでもやはり他人事のような口調なのだ。

しかし大田はそれを問うつもりは全く無かった。
大田がこの男に求めているのは、
金であり、今後の自身の食い扶持であり、身の安全だけであって、
それさえ叶うのであればこの男の命などどうでもいい。

だがついさっき、「身の安全」が危機に瀕した。
あのニコニコ笑っていた男がニコニコ笑いながらナイフを隠し持っていたというのだから。
とはいえ実際に殺されたのは運転手である。
自身に被害は及んでおらず、危険を回避出来たには違いないが、
自分を狙ってこないことが不可解であり、恐怖だ。

「何故だ・・・。」
「運転手ならこちらで用意しますが?」
「そういうことではない。何故私を狙わなかったのかということだ。」
「運転手というのは信用出来ないものです。
どんなにこちらが遮ろうとある程度の情報はつかめるものですし、
些細な情報でも売れる時代ですからね。
裏取引でもしていたのかもしれません。
そう考えると、これ以上の情報漏洩に繋がらなかったという面で、
誰かが殺してくれたのは都合がいいというものです。

全く、人間の欲というのは底なしですね、
そこそこの給料をくれてやってもまだ金が欲しいというのですから。」

蛇はまるで他人事のようだ。

「まるで他人事だが、取調べが起きればゴタゴタするかもしれんぞ?
そうすれば我々の関係も知られるかもしれない。」
「知られても漏れなければ大丈夫でしょう。いえ、
漏れてもたいした問題にはなりませんよ。
実際、政治家と軍需企業が知り合いだということはよく知れた話ですし、
個人的に家に招いて、ワインを味わうことの何を問題に出来るのか・・・。
マスコミというのは何でもネタに出来る、という面では非常に優秀です。」

はぐらかされた感覚を覚えつつも、
実際に運転手のリークによって追放された政治家もいることを思えば
運転手とは怪しい存在である。それに幾らでも変わりはいるし、問題ない。

「・・・とはいっても貴方ご自身の危険が回避されたわけではございません。
ご帰宅の際はこちらでSPをお付けいたしましょう。
今度は本物ですよ。後でご紹介いたします。」

長い長い廊下の先にある応接室へと通された。
家具もあまりなく、装飾品もなく、窓の外には広大な屋敷森が見えるだけの、
まるでどこかの聖堂のような雰囲気を持つこの邸は、
何故か落ち着かない。
社会から遮断されたように感じるのだ。

それはある種の「あの世」、である。
嘗て山をあの世としてきた時代があったが、それもうなずけてしまうような、
世俗からの隔離がここにはある。
車で一時間もしない場所には高層ビルの立ち並ぶ1番街があるのだが、
走っても走っても帰る事が出来ないのでは、という恐怖に襲われた。

大田は促されるままに椅子に腰掛け、出された紅茶を一口飲んでから、
早く出て行こうと本題を口にする。

「あれの進行状況が知りたいんだが。」
「あれ、ですか。ああ、丁度良い。お聞きしたいことがありました。
あの図面、確かにその能力は過去のものとは比べようがありませんが、
どうにも不完全ですね。というよりも未完です。」
「未完だと!?」

重役達の命綱である設計図、すなわち、瀬人の取り返したいそれである。
途中まで順調に設計されていたのだ。

それまでは彼が敬愛していただろう剛三郎に期待され、
それに応じるために必死になって創り上げていたものだ。
だというのに、ある日、
『これは実現不可能であると判断しました』と、
取りやめてしまったのだ。

その様子がおかしいことに側近の大門は気づいていた。
だが、瀬人は何かを中途半端で終えるのを嫌う人間であり、
剛三郎もまた、莫大なコストをかけたにも関わらず結果が出ないことは許さなかった。
そこで大門は剛三郎に告げ口し、
何とかそれを形にしたうえで、こちらに寄越すようにと、
瀬人から取り上げたものである。


「製作者が考えあぐねたような形跡がありまして、
完全な状態ではありませんね。
そこの補完の為に少し時間はかかっていますが、
おおむね順調ですよ。」

「実現可能なのか。」
「我々の技術をもってすれば・・・。
とはいえ、流石は剛三郎様のご子息、
これだけのものを創るのは並大抵の能力では不可能でしょう。
倉庫に眠らせておくにも勿体無いものに違いありません。
貴方方のご判断は賢明でしたね。これは造るべきものだ。」
「当然だ。」
「あれの前には全てがひれ伏すでしょうね。
そうすれば・・・漸く“粛清”が出来ますよ。」

立ち上がり窓を開けると、緑から清清しい風が入ってくる。
それに蛇は気持ちよさそうにしながら、
珍しく安堵したように言うのだ。

「私は貴方方からあの設計図を買い、本当によかったと思っています。」
「我々も最善だったと思っている。」
「ええ。・・・これで私の目的に大きく近づきました。」

窓の外の緑を眺めて、また大門の向かいに座った。

「おかしな男だな。
お前自身も政治家じゃないか。」

「ええ。・・・ですが、私はまだ新参で、染められていないので特にそう思うのでしょう。
・・・いえ、何年経っても、私にはそう感じる理由があります。

私には・・・どうにも今の政治家というのはおかしいと感じるのです。

それは矛盾を孕んでいるから、などという小さなことではなく、
彼らは彼らの欲望を満たすことしか考えていない。
それでは決して何も良くは成らないのですよ。

情けないことです。
国というものの存在意義がわからないのです。

彼らがああやって欲を満たすためには、この国というシステムが不可欠だというのに、
この国をやせ細らせているだけ・・・。

確かに労働者を甘やかしてはなりませんが、
苦しませすぎて殺してもいけない。
それは歴史の忠告にあるままです。
労働者が減ると、コストがかかるようになりますからね。
それでは折角の収益が減ってしまう。

今のこの構造を保ったままで・・・しかしあの野蛮な『義民』の行動を押さえつける必要がある。
そして・・・あの政治家を一掃する必要が・・・ね。

・・・よく言ったものでしょう?
根本的改革、構造改革・・・と。
確かに根本的な改革は必要です、しかし、それは別に労働者が政権を握るという意味ではありません。
過去を振り返っても、労働者が政権を握りうまくいったことなど無いのです。
彼らは今こそ団結していますが、
いざ権力を握れば、今の政治家と同じになるでしょう。
血眼になり私利私欲の為に駆けずり回り・・・
あの野蛮な義民では、再びこの町は血で赤く染まるかもしれませんね。

こういえるわけです。
政治家というのは、最初からどうかしている人間が政治家になるのではなく、
政治家になることでどうにかなってしまう・・・と。
厄介なことはその自覚が無いということ。

そう、自覚が無いことこそ、この根本的問題。
つまり、我々のように政治家になることの危険性を知っているものであればこそ、
政治家に相応しい存在であるわけです。

我々が政権を握ることさえできれば、
全てが変わります。変える事が出来るのです。」

「だが労働者など、放って置いても自滅するだけだ。
崩壊したところに入ってゆけば良いだろう?」
「確かに・・・放っておいても自滅すると思いますが、
私は非常に温和な人間です。
血を流すなどと勿体無い、それに、労働者が減れば問題が増えます。

血を流さずに政治家を撤退さえ、労働者を黙らせる方法・・・。」

「それが今回のこの兵器ということか。」
「ええ。」
「血を流させたくない、などといいながら、
運転手が死んだことにはあまり興味が無さそうだな。」
「小さな被害は割り切るほかありません。
今は、誰かの死に左右されている場合ではないのです。
この機会を逃せば、今度は何時機会が訪れるのかわかりませんからね。」


謎の深まる男。

何が本心なのか。
明らかに表情を崩して話し出した内容か、
或いは運転手が死んだ時の冷酷な反応か、
それとも。

だが、あの未完全な設計図に
大門達が満足出来るような莫大な金を支払って来たうえ、
その開発費用の半分を負担していることを考えれば、
話の内容が全くの嘘ではないように思える。


「そろそろお帰りですね。新社長が会社に戻られるころでしょうから。」

その時の顔は、既に最初の顔に戻っていた。
これが彼の割り切り方なのだろうか。
もう戻ると返答すると、彼は電話をかける。すぐにドアがノックされた。

「入りなさい。」

そういって入ってきた男はガタイのいいSPで、
丁重に大門に頭を下げた。
「彼はラフェール、私のもっとも信頼する部下です。腕も立ちます。
貴方をご無事にお届けしましょう。
あと、運転手の死体のほうですが・・・こちらで処分しますか?」
「それはありがたい。」

大門は屋敷から逃げるように帰っていった。
やはりこの空間は苦手であった。


窓の外、車が走り去っていくのを見送って、僅かに笑った。


「狸にしては知恵が無い。」


すると再びドアがノックされる。
入室を許可すると、姿も確認せずに蛇は問う。

「ヴァロン、運転手の死体は?」
「処分済みだ。」
「お前にしては仕事が速いな。」
「・・・なんで俺はそんな仕事ばっかなんだ、先生?
俺としちゃあもっと、派手にやれるようなのが得意なんだけど。」
「お前は確かに派手なことが好きなようだが、
今は慎重にことを進ませる必要がある。暫くの我慢だ。」

すると再びノックされ、1人の女が部屋に入ってくる。
蛇はやはり振り向かずに問う。
「そちらの用意はどうだ?」
「今夜会ってくるわ。12番街に彼の顔馴染みの店があるから、
そこへ行って来るわ。・・・ヘマはしないわよ。」
「ああ。信頼している。」
「光栄ね。」

用件の済んだ女が出て行くと、ヴァロンもそれについて部屋を出た。

後釜のこの女は信頼され、自分は信頼されていない。
そう感じるのは嫉妬であったが、
それよりもこの女が他の男のところへ潜り込むことの方が余程、気に食わなかった。

「最近ちゃんと休んでるか?」
「大丈夫よ。自己管理くらいできてる。」
「その癖に仕事ばっかで休んでないように見えるんだけど?」
「気のせいよ。」

さっさと先を行き、媚びようとしないこの女が気になる。
派手なことが好きなのは事実だが、
それ以上に手柄を立ててこの女を振り向かせたい、
それがヴァロンという男の行動する理由であった。

「あんたも人のこと気にしてる暇があったら、やれることはやっておきなさいよ。」
「解ってるって。自己管理くらい出来てるぜ。」
「・・・やな男。」

吐き捨てて女はさっさと出て行ってしまった。

「暫くの我慢・・・だな。」

消えた姿を思いながらまた自分も仕事に戻る。


全ては着実に進んでいた。












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だんだん登場人物が揃い始めて参りました。

あと4、5人くらい・・・かな?






(09.06.07)AL41