*表←セト(キサ)とでも表記すればいのか?



死神




先王は暴君だった。
だが、何故その暴君が、この国をその身と魂と名を犠牲にしてまで守ったのか。
俺は解せなかった。

亡き王が例え暴君で名を持てぬといっても、
その最期に残した偉大な業績の為に、なにかを残しておきたかった。
その為に国中に散布されたあの人の欠片をかき集めることにしたのだ。

それが次期王としての俺のサダメだと、一人決めていた。

部下に任せるだけでなく、王宮では自らも話を聞いた。

市井で得られたものは、醜聞ばかりであった。
訊きに行かせたのは俺だが、やはりそんなものは真偽の確かめようがなく、
結局得られた多くの情報はマナだよりだった。

以下はマナの話による。

先王は人が言うほど酷い人間ではなかったし、人を憎んでいるわけではなかった。
ただ、誰よりも人を信じていなかった、興味がなかった。
確かにマナとは仲が良かったが、何処まで信用してくれていたのかと思うと確信が持てない。
父親に対しては、本当に信頼、敬愛していたようだが、
崩御されてからは、笑うことも減っていたという。
さらに形の上では妻こそ娶っていたものの、まともに会話をしていないという。
確かに俺も后にお会いしたが、何も知らないようだった。
寧ろ名前どころか顔すら怪しいといっていた。

まぁ、そうだろう。
后と言う身分、食にも色にも困ることなど無いのだ。
夫が会いに来なかろうが大して気にならないのだろう。

信じられる者が居ない国。
王は、自ら死を求めていたのだろうか。
だから、その身と名を差し出してしまったのだろうか。
生きる価値などない、国、世界。
俺も、そう感じる時が来るのだろうか。

失ってから想いに気づいた俺など、もう誰も愛せなどしないのだろう。


今日も情報得られなかった。

名前と共に存在まで散ってしまったのか。

先の見えぬことに少し気が重くなったところ、
兵士が慌てて駆け寄ってくる。

「セト様!」
「どうした。」
「それが・・・」




「何故、貴様が王家の指輪を持っている!」

門前の空気は張り詰めていた。
兵士が取り囲んでいたのは、一人の男。
商人だろうか。

無駄な殺生が起こる前に、止めなければならないだろう。
何より、王家と接触があった人間だというのならば。

「武器を下ろせ。」

忠実な兵士たちは言葉に従い、武器を下ろすが、
男を睨みつけたままだった。

「そこの男は?」

「はっ、この男、王家の者しか持たぬ指輪を持って居りまして、
取り押さえたところです。」
「指輪?」
兵士がそれを持ってやってくる。

確かに、王家御用達の金細工。
輪の小ささは小柄だった先王を思わせた。


「そこの男、顔をあげろ。」

伏せていた頭が上がる。
商人といっても旅商人ではないようだった。

「お前が指輪を持っていたのは事実か?」
「はい。」

「何処で手に入れた。」


「先王から直々に・・・。」

周囲がどよめく。

「お前は先王と接触したのか?」

「はい。」

「それは高価なものだ。理由無しに渡すものではない。何故お前の手に渡った。」

商人の顔を見据えた。
嘘か、事実か。

嘘であれば、命の保証はむずかしいか。

「代金としていただきました。」

再び周囲がよどめいた。

「何時、何処でだ。」

「それは・・・。」
口ごもる。目が泳ぐ。
「言えないのか?」
「その、申し上げることは出来ますが、このような場所で申して良いものか・・・。」

嘘でもついているのだろう!兵士は怒鳴り、今にも首を切り落とさんとしていたが、
俺はそれを制して、王宮内へ連れ込み聞き出すことにした。
内心、俺は喜んでいた。
まさかこのような人間が出てくるとはな。

集まっていた兵士を元の位置に戻し、
神官となったマナと俺の2人で話を聞くことにした。

「それで、ファラオのことをご存知なんですか!?」
マナも知らない事実なのか。
「お前の条件はのんだ。此方が譲歩した限り、お前には答える義務がある。」
「はい。」
そう答えた声は震えてなどおらず、
この後口にされる言葉が、事実かあるいは事実だと思い込んでいる妄想のどちらかであるといえようか。

「この指輪は、先王が前金として渡してきたものです。」
「前金?」
「はい。」
「そうだな、この質問を忘れていた。」

お前は、何処で何の仕事をしている?

「私は、果物売りでございます。
先王はほぼ毎夜大体同じ時刻になるといらっしゃいまして、毎度同じものを一つお買いになられました。
私は先王に代金は要らないと申しましたが、今は王で居たくないと仰って、これを・・・。
私のように装飾品などと縁遠いものでも、これが如何に高価なものか等見れば解ります。
最初は断りましたが、王は代わりに、今後一切の代金を私が受け取らないことと、
絶対にお買い上げになる果物を切らさないことを条件にあげられ、その契約として私は受け取ることにいたしました。」

「マナ、お前は毎夜先王が出かけていらしたのを、知っていたか?」
「え・・・んー?毎夜、ですか?1、2度でしたら夜、『散歩に行って来る』と仰って抜けていくのを見ましたが。
何処へ行くのかと聞くと、庭園とだけで・・・毎夜だったのかは・・・。」
「商人、お前はその果物を持って、先王が何処へ行っていたのか知っているのか?」
「は、はい・・・。」
「何処だ?」

「酒場、でございます。いえ、酒場というより娼館と言ったほうが宜しいでしょうか。」

「しょ、娼館・・・!?」

後宮に一歩も行かなかったあの王が。

マナは唖然としていたが、俺は何となく理解できた。
どうせ誰も信じられぬなら、性欲の捌け口など、誰でも良かったのだろう。
王としてではなく・・・一人の男として認められるためには、
顔を見知っている相手では都合が悪かった、その程度のこと。

「それが事実であれば、そこへ行けば何かしらの情報は手に入りそうだな。」
「え、せ、セトさま、いかれるんですか!?」
「なんだ、お前が行くのか?」
「ええええ、私女ですし、ってでもセト様はファラオになられるんですよ!?」
「ファラオが通っていたのだ。俺が通ってもおかしくは無いだろう。」
「なんか、言い籠められてる気が・・・。」

商人から場所を聞き、解放してやった。
嘘は無いと信じた。
信じてみようと思ったのだ。


夜、街へ出る。
街が夜と昼で顔を帰ることを、平民育ちの俺は知っている。
だが、妙に新鮮な気持ちになった。
今、俺は次期王としての俺でなくていいのだ。
一人の男、愛する人を失った一人の情け無い男でしかないのだ。

この開放感が、先王の求めていたものだったのか・・・?


商人に言われたとおりの路を通ると、言っていた場所に本人の店があった。
男はそそくさとテントをでると、俺に一つの果実を渡す。
「これが、毎夜お持ちになられたのと同じものです。
何か、役に立たれるでしょう。それと、指輪を。」

男は言った。
きっと、王は一人を溺愛していたのだ、と。
果実を選ぶ時、「小さな口に合うものがいい」と言った。
珍しい果実が入っても、同じものを買って行った、「これが気に入っているらしい」と言って、
その人の話になると王は普段とは違う表情を見せ、「持っていかなくても怒るようなやつではないが。」と言う。
毎夜王宮を抜けて問題は無いのか?とたずねれば、「あの笑顔を見られるのなら俺は何度でも抜け出すつもりだ」と言う。

暴君が、こんな商人の質問に丁寧に答えるとお思いですか?
王はその人をとても大切にされていた。
だから、この指輪が、王宮に必要でないのなら、その人に渡して欲しい。

王が最も愛した人

同時に、
最も王を愛した人なのだと言って、
悲しそうに笑った。

人間不信だった王が、一人の女を抱き続けるのか?

半信半疑、いや殆ど信じないまま、言われた店へと入っていった。

店は、女の甘い匂いで満たされていた。






→次の回(02)



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背景素材:Gold Moon & Silver Sun

古代パロ?パロ・・・うんパロ。
現在の予定では6話程度で終わります。

多くの人が通過した、最早通過儀礼といわんばかりの古代編。

女体ネタ・死にネタ、微エロありになる予定。
濃いな・・・

シリアスなのかいてると本人がウツっぽくなってしまうので、
結構文章がやっつけ(いつもですが)になってしまう・・・

ただ、このパロは作者が最終回の悲しさを昇華すべく書いたものです。
きっと、王様だって幸せになったさ!な意識で書いているので、
最後は強引に幸せになるでしょう。


(08.02.03)AL41