Ep.3-03
「俺は、モクバが変わる瞬間を目にしていない。
調べた限りでは誰も見ていないようだ。
モクバが変わっていたのは一ヶ月前、俺がアメリカの仕事から戻ってきた時だった。
時間は遅かったし、モクバは寝ていると思っていたがそれでも部屋に立ち寄った。
モクバは起きていた。だが、まるで違う。」
―海馬社長、何であんたが来るんだよ―
「開口一番に出た言葉、それだけでおかしいことに気づいた。
モクバは俺を社長などと呼ぶことは無い。
俺は問いただしたが、激しい抵抗を受けただけで何もわからない。
名を呼んでも反応を示さない。
学校で、会社で何かあったのか、
俺が社長になったことに反感を持っているやつが会社にいることはわかっている。
奴らに何かを吹き込まれたのではないかと考えた。
だが、違ったらしい。
精神科医にも見せたが、明確な答えは出なかった。
ただ、二重人格の可能性があると言っただけだ。
確かに、モクバは子供の頃から過度のストレスを感じていただろう。
そのストレスから逃れるためにもう一つの人格を作った可能性はあるらしい。
しかし、今は特に当時のようなストレスなど無いはずだ。
第一、俺が家を空けることはよくあるが、今までこんなことは起きなかった。
モクバの口は日に日に悪くなっている。
暴れることも増え、手が付けられなくなった。
ここ3週間は部屋から出さないようにしている。
好きでしているわけではないんだ。」
話せば話すだけ、気が重くなる。
それを払拭するかのように、話をふった。
「貴様らに原因がわかるのか?」
まるで馬鹿だ。
何故、そんな力に頼らねばならぬのか。
「モクバ君が変わった原因は解るよ。でも、何の目的があるんだろう・・・。」
「目的?」
「むやみやたらに人に憑いたりしない。ということだ。」
「貴様らはモクバに霊がとり憑いていると言いたいのか!?」
「うん・・・。」
祓えばいいということか?
「でも、悪い霊じゃないよ。多分。モクバ君に会って見ないとわからないけど・・・。
海馬君、ボクと握手してくれる?」
「握手、だと?」
遊戯が何を考えているのかさっぱりわからないが、
言われたままに手を出してしまうのは何故だ。
差し出された手にそっと手をかざすと、遊戯は目を瞑るが、
次の瞬間にふと目を見開く。
「海馬・・・何とか工業?」
「重機工業のことか・・・?」
「・・・戦場?・・・とても、寂しい、一人ぼっちだ。」
「遊戯、わかるように説明しろ。」
海馬からそっと手を離すと、
以前の様に、まるで神にでも祈るように手を組んで瞑想している。
「相棒、何かわかったか?」
「・・・孤児。とても寂しがってる。多分。」
そっと開かれた瞳には、悲しみが映っている。
「多分とは、なんだ。」
「今ボクは、モクバ君から海馬君へ映った気配で読んでるから、
情報が間違っちゃうこともあるんだ。でも、凄く深い悲しみと寂しさ。
多分、それは間違ってない。彼は誰かに会いたいんじゃないかな。」
負の感情は強い。
それは人を揺り動かす最大の因。
負は砥がれたナイフ、人を殺し、己の心も殺す。
誰かを傷つけることさえ厭わぬ過ちの心。
「モクバ君が、これ以上海馬君を傷つける前に、
モクバ君の中に居る誰かが、これ以上自分自身を傷つける前に、
早く解いてあげなきゃ。」
「ならばこれから、・・・?」
海馬が携帯電話を取り出すと同時に、コールが鳴る。
「邸だ。」
戸惑い無くそれに出ると、
渦中の人物の名が聞こえる。
「モクバが消えただと!?」
「!」
海馬の声は、
恐らく誰も聞いたことが無いほどに動揺していただろう。
たった一つのもの、
永遠に代わるものが居ないもの、
それを己の過失で失う時、心は抉られる。
その恐怖に心が震えた。
海馬は電話を切ると、遊戯とアテムに告げた。
「モクバが消えた。邸からは出ていないようだが、
メイドが突き飛ばされ打撲を負ったらしい。
今すぐ俺は邸へ向かうが、お前たちも来い。」
「行かせてもらえるのなら喜んで。」
「ただ、道路は事故で渋滞している。ヘリを呼んだ、今すぐ荷物をまとめてくることだ。」
「わかったよ。その前に、海馬君ち、何処?」
「?」
これからヘリで向かうというのに、場所など気にしてどうするものか。
「先にいって、ちょっと様子を見てもらいたいんだ。
場所だけでも、教えてくれると嬉しいな。」
「・・・あそこに、緑が見えるだろう?」
海馬は遠くを指差すと、遊戯にもそれが解ったらしく、
ありがとう、と笑顔で礼を述べるなり、
突然空に向かって話しかけるのだ。
「ごめんね、ちょっと先にいってモクバ君の居場所と様子を見て欲しいんだ。
・・・うん、ありがとう、よろしくね。」
「流石に1人ではしんどいだろう。俺の方も行かせておくぜ。」
「ありがとう!もう一人のボク。」
そういう笑顔を見て癒されながら、
マナ、と一言呼ぶと、
フッと現れた黒き魔法陣から、ふっと姿を現した。
その時、丁度帰りの遅い2人を心配した城之内と杏子がやってきて、
海馬とともにそれを目撃した。
「ブラック・マジシャン・ガールが・・・!!」
「ソリッドビジョン・・・?」
「生憎違うぜ。」
『マスター、お仕事ですか?』
「ああ。セラエノと一緒にモクバの捜索をしてくれ。」
『はい、マスター。』
それだけ言うと、またふっと消えた。
「どういうことだ・・・??」
「後で説明するぜ。って、城之内君?杏子?」
階段付近で硬直していた城之内たちを見つけてアテムは何でもない顔をしている。
「凡骨が、何の用だ。」
「てめぇに用はねぇよ。俺達は遊戯とアテムを探しに来たんだよ。」
何やら仲の悪そうな2人に、遊戯が悲しそうな顔をするものだから、
アテムはどうにもそれを避けたくなってしまう。
「そうか、それはすまない、俺達はちょっと緊急の仕事が出来て、
今日は一緒に帰れなくなってしまった。」
「ごめんね?」
「構わねぇけど、仕事って、まさか海馬・・・?」
「うーん、まぁそんなトコ!」
城之内の気が逸れて、遊戯は再び笑顔を取り戻し、
これからの事に全く不安げではないのだが、
アテムは不安である。
「相棒、大丈夫なのか?最近はだいぶ体調を崩しているが。」
「何時までもキミに任せてたら悪いしね。それに、
無理やり成仏させるには、あまりにかわいそうだよ。」
「相棒はいつもそれだからな。」
遊戯は常に人に心を遣ることを忘れない。
それは人に対してだけではない、霊にもモノにも、
何にだって心を遣ってしまって、
自分の事が疎かになってしまうのだ。
心配するこっちの身にもなってくれ、と言いつつも、
そんな遊戯を守りたい。
「ボク、荷物とってくるよ!キミのも持ってくるから!」
遊戯はアテムの心配など他所に、さっさと城之内や杏子と共に鞄を取りに戻っていってしまい、
アテムと海馬だけがそこに残っていた。
「無償で仕事をするのは久しぶりだ。」
「金を払えと?」
「本当であれば請求するところだが、今回は相棒のワガママだからな。」
「そもそも貴様等はなんなのだ?」
二人揃って、そのうえオカルトの力で依頼を受けているようであるが、
1つの会社の頂点に立つ男にとっては、
余りに現実味の無い話だった。
「さぁな。自分の正体を知っている人間が、この世界にどれだけ居る?」
「そういう意味ではない。オカルトで仕事など、唯の詐欺ではないか。」
「そのセリフは、後で撤回する羽目になるぜ?」
解った。
確かにこの男はオカルト人間ではあったが、凡骨やそこ等辺の人間とは違うのだと。
守りたいものが居るからか?1つの信念をもし合わせているからか?
いや、どこか、冷静に自分自身を見ている。
何処か理知的なように見える変な人間だ。
非科学を信仰しながら、科学的などと。
「間に合ったかな・・・?」
遊戯が息を切らしながら階段を上りきった。
「何故凡骨共まで居る。」
遊戯の後ろについて来た姿を見て、イラだった様な声であるが、
「てめぇんとこに遊戯が行くなんて、遊戯が心配じゃ無ぇかよ!」
そう聞いて、呆れた。
「理由がわからん。」
「へっ!」
遊戯が何故か仲の悪そうな2人を、
アテムに鞄を渡しながら交互に見やっていると
「犬猿の仲っていうんだか、よくわからないけど、仲が悪いのよ。」
と、杏子は教えてくれた。
「なんでだろうね。」
「まず性格の相性が悪いのと、城之内が無闇に突っかかるのよ。」
海馬君は頭もいいし、人気もあるから、僻んでるのかしら、と
杏子も解らないらしい。
「海馬のどこが人気なのか俺にはさっぱりだが。」
「彼は、M&Wが強くてね。それで子どもたちには慕われているし。」
「ヤツも決闘者か。」
「大会優勝者よ。まぁ彼の会社がそういう会社だから。」
でもあれよねー、海馬君もスルーすればいいのに、とあきれているところに、
バタバタと騒音が近づいて来た。
一行はヘリに乗り、海馬の屋敷へと向かった。
「すげぇ・・・。」
屋敷。
正しく屋敷だ。
ヘリが着陸できるような庭があるだけで、
城之内の常識を越えた。
西洋建築のその豪邸は、慌しく主人を迎える。
「瀬人様・・・。」
「それで、見つかったのか?」
「それが・・・見当はついているのですが。」
家政婦たちが青い顔をしていた。
「・・・地下の方に逃げ込んでしまって・・・。2人追ったのですが・・・。」
そう見やった先には、男が手当てを受けている姿がある。
「刺したのか・・・?」
「いえ、フォークを投げつけられて、掠っただけのようです。
モクバ様がいけないわけではありません。ご安心ください。」
気を遣ってもらうことが厭なわけではない。
だが。
その攻撃的な姿勢、
兄に死ねと告げた弟は、本当に人を殺めるつもりなのだろうか。
海馬のうちの弟に対する信頼が、断ち切れてしまうのではないかと言う不安が襲う。
そうすればもうモクバが救えない。
いまは、兄の存在だけが、モクバがモクバで居られる理由なのだ。
「・・・地下に行こう。早くしないと、モクバ君が傷つくよ。」
「そうだな。」
ただひたすら眉を顰めている紅葉と、それをあんずる紅葉を見て、
メイドは不思議そうな顔をしているのが、
適当に言いつくろって、2人を連れ地下へ向かう。
その後ろに無関係者が2人ほどついてきたが、構っている余裕がなかった。
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