Ep.1-02

新たな登場人物。

“もう一人のボク”

何なんだその表現は。

「“もう一人のボク”?」
「あ、うん。」
「???」
「見た目がね、ソックリなんだ。だから、子どもの頃からそう呼んでて、クセが治らないんだ。」

双子か。

とりあえず疑問は解決する。

だが、確かその前にもう1つ、謎めいた言葉があった気がする。

「仕事?」

「うん。」

この若さで仕事とは・・・
毎朝新聞配達に始まり、一発退学の可能性があるようなバイトをしている城之内にとっても、
この小学生(城之内はもはや遊戯を小学生認定している)が働いているとは、
よっぽどの家庭事情なのだろうと、同情を誘う。

借金に負われて引っ越してきた可能性もありそうだし、
まぁ、会ったが何かの縁だと思って、
出来ることなら協力しよう、と、城之内の思考はそこまでたどり着いた。

それにしても埠頭で仕事とは、辛そうである。
頭より体力勝負の可能性は高いが・・・
と、再び遊戯を観察する。

どう見ても、もやしだ。

古紙回収の新聞の束さえもてなさそうである。
寧ろペットボトル3本持てるのか?

いやはや、“もう一人のボク”がどういう人物なのかによるが、
ソックリであれば、もう一人のボクももやしの可能性が高い。

「あ、海のにおいがする。」

遊戯は楽しそうに、声を上げて、もうすぐだね?と一人考え込んでいた城之内に声をかける。

「ああ。」

コンテナが並べられていて、
如何にも体力勝負の様子である。

同情せざる終えない。
このもやし小学生は、どんな仕事なのか分かっているのだろうか。
いや、わかって無いかもしれない。

「遊戯、ここでどんな仕事をするか分かってるのか?」
「ううん。予想は出来てるけど、そういうのはもう一人のボクが担当だから。それで、
もう一人のボクは先にこっちにきてたんだ。」

「(もうひとりのボクの方が、年上の可能性が高いな。)」

隣で、磯の香りに少し楽しそうにしていた遊戯の足がピタリと止まる。
次の角を曲がれば、すぐ海が見えるはずだ。

「どうした?遊戯。」

そう、聞いてから城之内は一瞬息を呑んだ。

城之内は感じた。
8月末の暑い空気ではない、
涼しくも無ければ、暑くも無い、生温い風。
何処かで感じたことのある妙な感覚。

遊戯がそれを感じ取って立ち止まったのか、もう一度声をかけようかと思うも、
向こうは“仕方が無いなぁ”といったようなため息をつき、くるりと振り返った。


それから、不平そうな声を上げて

「もう、居るなら先に言ってよ!もう一人のボク!」

と。

待ちに待った“もう一人のボク”の登場は城之内の好奇心をくすぐる。
しかし、振り向くより先に、あった返答は、

遊戯よりも、少し低くドスの利きそうな声だった。

「悪いな相棒。」

城之内が振り向くと、そこには


紅葉。


ではなく、やはり紅葉頭の
遊戯とは正反対に全身真っ黒な服に身を包み、 腕にはシルバーアクセサリーが巻かれている青年が佇んでいた。
肌は遊戯同様白いし、瞳もまたアメジストであるのだが。

“もう一人のボク”という名称が理解できるほど、二人は似ていた。
その似ていたというのはぱっと見の話で、
良く観察するとだいぶ違う。

そもそも、小学生にも中学生にも見えない。
どこか堂々としていて、思わず怖気づきそうである。

可愛らしい遊戯と、気迫あふれる“もう一人のボク”。

似ているというより、丁度反対であった。
否定できない共通項が根底にある上での線対称。

いずれにせよ、無事目的地に着いたらしい。

なので、遊戯を護送する任務は完遂されたのだから、
此処に留まる必要は無いのだが、身動きが取れない。

遊戯ともって非なる鋭い視線が、城之内を不審な目で見ていた。


「あんた、誰だ。」


城之内克也です、とか、
遊戯くんをお連れしました、とか、本当のことを言っても、
ふっとばされそうな様子である。

「もう、もう一人のボク、そんな言い方しないでよ。」

女神の声だ。

「駅前で途方に暮れてたボクを此処まで案内してくれたんだから。」

そうだ、全くその通りだ。

天のお言葉に深く感謝すると、
目の前の鬼も気を許したようだった。

「そうか。此処らへんは少し荒れてるようだったから、心配したぜ、相棒。」

鬼の声は優しいものとなっていたし、城之内も漸く深く息をつけた。

元鬼は颯爽と歩み寄ってくると、城之内に手を差し伸べる。
「疑ってすまなかった。」
一瞬きょどるも、城之内も手を出し、和解の握手を交わす。

和解も何も、一方的に勘違いされたのだが、そこでそれを口に出しては、何が起こる分からない。

「いや、まぁ、驚いても当然だよな!気にしてねぇよ。確かに少し荒れてるからな。
ああ、俺は城之内。駅前で遊戯がキョロキョロしてたんで案内を買って出たんだ。」

念のため身分証明の変わりに名乗っておく。
名を聞くと、もう一人のボクは、漸く吊り上げていた目を元に戻した。
とはいえ、元から釣り目なのだが。

「そうか。」
「そうだよ、なのにキミはすぐに人を疑うんだから。」

仲裁をするように遊戯は拗ねたような声で宥める。

「城之内君、紹介するね?この人が“もうひとりのボク”だよ。」
「相棒、それじゃ説明になって無いぜ。」
と、注意ではあるが、遊戯が可愛くて仕方が無いかのような言い草だ。

やはり兄弟なのだろうか。
遊戯を見る目は、何だか保護者のようであるし、
どう見ても年上である。
並んでいるところを見ると、遊戯よりも背は高い。

弟が「遊戯」だと、
兄の名前は何になるんだろう、なんて
考える余裕が生まれていたほどだった。が、

「俺はアテムだ。」




「アテム?」






名前云々の前に日本人ですらなかった。






「アテム=イシュタールが本名だ。よろしく、城之内君。」
「お、おう。」

城之内の疑問は大きくなる。

兄弟じゃないのか?

聞けば早い話なのに、一人考え込んでいる城之内を他所に、
遊戯とアテムは勝手に話を進めている。
「城之内君にはお世話になったからお礼したいんだけど・・・。」
「そうだな。相棒に変なのが目をつけなかったのは城之内君のお陰だろうし。仕事が終わったら何か食いに行くか。」
「お仕事、どんなかんじ?」
「ああ。いつもどおりだ。俺で充分だろうな。」
「そっか。わかった。」

「城之内君!」
一人混乱状態だった城之内は、話しかけられ漸く正常な反応を見せる。
「今日、未だ時間ある?」
「あ、ああ。今日はもう何にもねぇけど。」
「相棒が世話になったお礼がしたいんだが、これから一寸仕事があるんだ。」
駅から此処まで案内しただけで、礼とは...。
アテムはどこまで義理堅い人間なのかと思うと、第一印象もふっとぶほどだ。

「お仕事が終わるまで待ってて欲しいんだけど・・・。」
「ああ、構わないぜ?でも、仕事ってどのくらいで終わるんだ?」
「俺も見てみないことには分からないが、聞いた範囲では大したことはなさそうだから、」
早ければ10分くらいじゃないか?
と、遊戯に同意を求めれば、「だといいね?」と笑顔で返される。

10分で終わる仕事?
埠頭で?






城之内は考えることを辞めた。







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