*長いです
*相変わらず死者あり?

唯我論者の誤謬 -4.死者の牙城-






直線でつまらない路をダラダラと進むと、
漸く門が見える。

「おつきになりましたよー。って、自動じゃ無ぇの?」
普通は開くはずの門が開かない。
「おかしいな。」

いくら剛三郎の牙城といえど、その後継者たる瀬人が来ると知りながら、
この様子であることは流石におかしかった。

「フン、使えん。何をしているのだ。」

そう携帯電話を取り出し、連絡を取ろうとする所をバクラは止めた。

「・・・さっきの車、怪しいな。」
「いきなりなんだ。」

そう返しながらも、先程のことを思い出した。
「・・・俺に早く行かせたがっていたというあれか?」
「ああ。どうにもキナ臭い。
さっさと殺ればよかった話なのに、何があってこんな回りくどいことをしてんだ?
どうにもおかしい。用心するだけのことはありそうだな。」

まぁ中に入ってみるか、と車を降り、手動であけようとした時のことだった。

「あっ!」

そう、遊戯が声を上げたのだ。

「なんだ?」
「あの車、かっこいい!」
「ったくなんだよ・・・。」

そういえばハンバーガーで喜んでいた様な少年だ。
車に興味があるだけ普通なのかもしれないが。

「あれね、今朝も見たんだー。かっこいいなー・・・。」

呟くようなセリフは驚かせた。

「今朝?今なんつった?」
「んー?」

車を降りようとシートベルトを外していたバクラは身を乗り出して、
後部座席に顔を突き出し、
にこにこと楽しそうに車を見ている遊戯に問いただした。

「何で見た、何時見た、何処で見たんだ?」
質問攻めにされながらも、遊戯は何だか嬉しそうな顔をして、
ぎこちない口調で話し出した。

「えっとね、今日は、朝、娼館のボクの部屋から顔を出してたら、
ブーンって来てね、中から出てきたんだ。うちの方にね?んー男の人かなぁ・・・
赤っぽい紫っぽい、こんな髪の人。」

遊戯はジェスチャーを交え頑張って説明している。
多分おかっぱと言いたいらしい。
それを愛でながら瀬人はその車を用心深く観察していた。

車は外車の、ボディはだいぶ前に流行った形だ。
中に人は居ないので、持ち主の姿は見えないが、
こんな車を持っているようなヤツはよっぽどの車好きか、
何かしらの思い入れがあるか、
廃車寸前だったものを改造しているか・・・

兎に角、滅多にお目にかかれる車ではない。
遊戯が気に入ったのも解る気がする。

「その車、初めて見たのか?」
「ボクは初めてだけど・・・いつも外見られるわけじゃないし・・・
見られるのは、いつものお客さんが来るっていう時に、上から挨拶する時と、
いつも顔出してる人が居ないときに、出させてくれたんだ。」
「割と頻度は低くはなさそうだな・・・。」
「だがバクラ、」
「ああ・・・あんなアンティークに乗ってるヤツは多くない・・・
“奇遇”にもこんなところでお目にかかれるとはな。」

含みのある言い方に、否定の言葉は無い。

遊戯が見たことが無かっただけの話で、
他の客の常連だった、という可能性が無いわけではない。
だが、不規則に覗いていた遊戯が初めて見たというのは、
少々しこりが残る。


何より今日と言う日は、
娼館が1つ爆発炎上し、ほぼ全滅。
目撃者という目撃者はおらず、
誰が車の持ち主なのか、正確に知っているものは1人もいない。

そう、遊戯以外は死んだはずなのだ。
では何故?


何故、娼館に来たその男が生きている?


そして、此処にいる?


「赤紫のおかっぱ・・・?男・・・。心当たりは?」
「・・・・・・無い。少なくとも俺の知り合いにはな。」
「遊戯も知らないのか・・・。」
遊戯はコクリと頷く。

「その上遊戯は、お前の客がどうなったのかも見てねぇんだよな。」
「うん。ボク、押入れでかくれんぼしてた。」

かくれんぼは、
鬼の姿が見えない。

「2人で・・・?だが・・・2人とも知らないやつってことは無い・・・?
チッ、この件考えるには、まだ情報が足りねぇな。」
「とりあえず、問題はあの車か。」
「車だけぶんどられた可能性があるか・・・だが、
鍵がどうなっていたのかわからないと・・・。」

調べる価値はありそうだな、と笑う。

「だがまぁ、俺とか社長さんの頭にある仮定が事実だとすると、
あの城には用意に踏み込め無ぇな。」
「では、どうする?」

此処で退くつもりか?まぁ死ぬよりはマシだが。と、
瀬人は疲れた様子を見せるが、
この運転手は退くつもりなど更々ないらしい。

「とりあえず、門開けて、死者の城へと乗り込もうぜ?」

闇の匂いに心が躍った。

バクラは外に出て、瀬人から預かった番号で扉のロックを解除し、
門をあけた。
車を門の真ん中辺りまで移動させると、
瀬人と共に歩きで屋敷へ向かうことにした。

「遊戯。」
「んー?」
「お前は此処にいて、あの車を見張ってろ。」

黒のコートを紅葉に被せて、リアガラスから覗かせた。
「何かあったら連絡しろ。」
そう瀬人が私用の携帯電話を差し出すが、遊戯には利用方法がわからないらしく、
リダイアルですぐにかけられる様設定してから説明をして、一度かけさせて確認する。

「いいか、車が動いただの、人が出てきただの、
少しでもなんかあったらすぐ連絡しろよ。」
「うん。」
「・・お前が危なくなっても、だ。」
「・・・・・・・うん。」
遊戯は携帯電話を不慣れな様子で両手に握り、コクリと確り頷いた。

すぐに発進できるようエンジンはつけっぱなしにして、
ドアもロックをかけなかった。

遊戯が確り外を見ているのを確認して、
2人は車を確認しながらも足早に屋敷を目指した。
車の男に目撃されては都合が悪い。

「とりあえず、茂みに隠れておくか。」

玄関ではなくその周りを囲う木々の中に姿を隠す。
人の気配はなかった。

「どうする気だ?」
気に入っているスーツが汚れるのは気に食わない。
瀬人は少々嫌そうな様子で聞いて来た。
だが、スーツにこだわっている場合ではない。

「あの車の男が、爆発犯だったとしたら。
またガス爆発なーんてことになりかねぇじゃねぇか。」
「それはそうに違いにないが。ではどういうことだ。メイドはどうなった。」
「人間なんかそこ等辺に縛って転がしておきゃ、さっさとガス中毒で死ぬ。
金のかかんねぇ大量殺人の完成ってな。その上爆発しちまえば、原因も何もよくわかんねぇし、
この通り人のいねぇ場所じゃ、目撃者っつー目撃者も居ない。
反対に居たら居たで目立つっていうリスクはあるがな。」

また、人が死ぬ。

「何の目的で娼館を狙ったのかわかんねぇが、
俺たちの知ってる娼館と此処との共通項は、海馬剛三郎だけだ。」

あの車があそこにあったこと。
あの車が此処にあること。

「危惧するにこしたことはねぇな。」
「ではどうする気だ。中に連絡してみるか?」
「いや、電気機器は危険だな。
ガス漏れにお気づきの際は、換気扇や電気に触れず、窓を開け換気をして、まずガス栓を閉めましょう、だろ?」
「そうだったか?」
「常識だぜ?」

ただこのだだっ広い屋敷のガス栓を探すのは時間を食いすぎる。
兎に角1階は危険だ、2階、いや3階にすっか、と、
バクラは屋根や窓格子を伝いながらあっさり2階へたどり着いた。
「バクラ!?」
「問題ねぇよ。ま、SP様にでも任せてろ。」

3階のバルコニーへと昇りきると
銃のグリップで窓を壊し、鍵を開ける。

「・・・今んとこ大丈夫そうだな。2階いけっか?」
独り言を言った後、ハイヤーの運転手もといSPは室内へと姿を消した。
暫くすると2階の窓が開き、格子が外され顔が見える。

「どうだ?」
「ヤバイ臭いがするが、まだそこまで充満してねぇみてぇだな。」
「ならばまだ間に合うか。」
「ギリギリセーフって感じだな。2階くらいならのぼれんだろ?」
「馬鹿にするな。」

瀬人は見た目以上に運動神経が良いらしく、
2階へは簡単にたどり着き室内へと入っていった。

「嫌な、部屋だ。」

そこ瀬人の持つトラウマの中心地。
早く出てゆきたかった。

「俺は3階の社長室でファイルを探すが、」
「3階は俺が見た限りじゃ、誰も居なかったぜ。だが、探しもんはパソコン関係か?」
「いや。あの男は紙のほうが好きだった、それにPCであればハッキング出来る。」
「だが、何時PC自体が壊れるかわかんねぇぜ?」

何といっても爆発の恐れがある屋敷なのだから。

「それもそうか。だが、何か問題があるのか?」
「俺はちょっくら1階へいって、様子見と、できればブレイカーを落としたい、だから、
PC使ってると拙いだろ?」

途中で強制的に電源を落とされては、ファイルが壊れてしまう。

「ならば10分だ。今から10分以内に俺はファイルをこちらへ移す。
お前は10分後に落とせ。」
「へいへい。」
互いに時計を出してずれていないか確かめてから、
瀬人は足早にその部屋を立ち去った。

バクラは妙に慌てた様子だったのが気になった。
それで辺りを少し見渡すと、埃っぽいベッドにしたあたりに
壊された写真立てが見えた、徐に拾い上げるが、写真は入っていなかった。
だがそれ以上に妙だったのは、

「埃が被ってない・・・?」

おかしかった。
メイドが数名働いていただろうこの屋敷に、埃がたまっているなど。
そうだ、そう考えればこの部屋は変だ。

まず、生活感がない。
生きた人間が利用していたとは思えない。
その上、掃除の行き届いていない部屋。
飾り机の上にも同様に埃が被っている。
だが、一点被っていない場所があり、それは丁度写真立てがあった場所だと思われる。
窓から誰かが侵入したのか?
いや、格子のついたこの窓が開くわけはない。
だからさっきだってバクラは2階ではなく3階へ行ったのではないか。

あまりにも不自然だ。

メイドであれば落とした写真くらいは拾うだろう。
だがそもそも掃除の入っていない部屋、人の使っていない部屋で、
窓から誰かが侵入したわけではない。
その上、倒れて間もない壊れた写真立て。


―誰かがドアから侵入し、写真立てを“あえて”倒し、壊した―


そして、若しかすれば、中の写真は・・・

「おーっとこんなことしてる場合じゃねぇか。」

まだ、生存者が居るかもしれない。
バクラは目撃証言を求め、1階へと降りていった。






社長室。

此処もまたトラウマだ。
悪趣味に飾られた部屋。
気持ちが悪い、吐き気がする。
「だが死者を貶すなど、小悪党でもしないか。」

そう、瀬人が勝ったのだ。
あの男はもうこの世に居ないのだ。

瀬人はそう言い聞かせ、PCの電源を入れる。
予想は出来ていたことだが、パスワードを求められた。
「くッ・・・」

考えていたものは全て試した。
此処でOSが起動しなければ何も出来ないではないか。
普段であれば冷静な判断が出来る瀬人も、
この剛三郎の抜殻に囲まれた世界では、狂わされた。

狂気。

剛三郎の狂気に踊らされた過去が、瀬人を追い詰め、
思い出したくない過去が走馬灯の様に脳裏をよぎっていった。

「巫山戯るなッ!」

足掻くも、時は過ぎるばかりだ。
その時、ふと思いついた名を、瀬人は無意識のうちに入力していた。

Enterキーを叩いた後、OSは起動を始めていた。




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うん・・・こんなシーンなかったはずだ。

本当はもっとあっさり終わっているはずなんですが、
色々と色々で、色々あったんです

ちなみに謎(笑)の車の方のイメージは、
アメ車のフォー●・マスタングのGTとか40年くらい前のデザインがイメージ。
妙にボンネットとかフロントが長くて、横幅がある車をイメージしていただければ良いかと。


そんなこんなでどんどん膨張しています。



(08.06.23)AL41