*死者アリ、血表現アリ
*娼館に関することは、全て俺設定です。
*大量に修正+追加しました(08.05.13)
自分が死んだとき、
誰かに涙を流して欲しいとかそんな希望を持つのは自由だと思う
でも、
人の死に涙を流せないボクが、それを望んじゃいけないと思うんだ
唯我論者の誤謬 -3.中央分離帯-
「万戸冨民政策の産物・・・とな。」
恩恵を受けたのは、限りなく我々のようだ。
瀬人は、思いついたようにそれだけ言うと、
再びその産物へと手を伸ばした。
「淘汰しあうのは悪くねぇが、同時に淘汰されるってことだな。」
運転手の目はバックミラーを凝視していた。
「社長さんよぉ、ちょぉっと飛ばさせて貰うぜ?」
「スピード狂か?お前の趣味に付き合うつもりは」
其処まで言いかけてやめた。
膝に乗せていた遊戯をそっと降ろして隣の座席に横にさせると、
遊戯はきょとんとしたまま瀬人を見上げる。
「こういうことか。」
転がっているだけなのに、
幼さの残る容姿からは、色の香りがする。
だが、呆けている場合でも無いらしい。
「あんたも伏せろよ。」
相手がそれに応じる間もなく、
少々ガラの悪い運転手はアクセルを踏み込んだ。
トランク部分に銃弾がかすって、カランという音が届く前に何処かへ飛んでいった。
道はすでに繁華街をでて、郊外の住宅街に入っている。
メイドが居なければ掃除も行き届かないような、悪趣味にだだっ広い邸が陳列されている。
不思議な話だが、人は住んでいない。
彼らにとっては犬小屋のようなものだった。
見栄えが全て。
所有することに意味がある。
数年前には住宅街だった名残など、何もない。
邸がでかいだけのことはあり、
道は非常にわかりやすくなっている。
つまり、
追跡してくる車をまくのも困難ということだ。
幸い、人が住んでいないだけのことはあって、
歩行者も殆ど無い。
まるで廃墟だ。
いずれゴミのようなものといえば、妙にしっくりきてしまう。
犬一匹でもひき殺せば、こっちが殺されかねない世間だ、
そんな心配の要らないこの町は、
彼ら自身も、追跡する者にとっても、
恰好の戦場ではあった。
「飛ばしてもきりがねぇな。」
「追ってくるか?」
「ああ。ただ、攻撃してくる割には甘いな。」
そもそも、殺す気で後ろから追ってくるのは得策には感じない。
ハンドルを切りながら、バクラは追い込まれている感覚に陥った。
「別宅行きってんのは、誰が知ってんだ?」
「秘書と、邸の人間だけだ。
こんな世間とこの地位にプライバシーなど存在しないだろうがな。」
別宅。
それはこの住宅街の先にあり、
敷地のど真ん中にぽっつりと建っているのだ。
周りにゴルフ場があるといえば、その広大さは解るだろう。
亡き剛三郎が政治家を招待していた邸だ、
今では女中以外住んでいない。
瀬人にとって、
あの邸は1つのトラウマを抱えた城。
剛三郎の牙城。
亡き今であれば易々と足を踏み入れられよう。
「探し物があってな。
あの男は、用心深い。隠しているファイルの一つも見つけ出してやりたいところだ。」
「人間不信はお互い様か。」
どういういいつつ、
親子は似る者か。
いや、そうでなければやってこれなかったのか。
まぁ、どうでもいい。
問題は、それよりも手前にある。
この追われている現状を打開しなければ。
後ろを気にしつつも眼を凝らせば、
開けた路の先に、中央分離帯が見える。
「ったく、仕方がねぇなぁ。」
ハイヤーの運転手もどきはわらっていた。
何を嗤い、何を楽しんでいるのか、遊戯には解らなかった。
だが、楽しそうだった。
「社長、足で踏ん張ってたほうがいいぜ?」
「今度は何だ。」
「転回するわ。」
見やったメーターは180km/hを指していて、振り切れるのも時間の問題だ。
「生憎、まだ一日も天下を取っていないんだが。」
「死ぬ気はねぇよ。殺す気もな。」
折角、拾ったというのに、
失うには早すぎる。
僅かにアクセルを緩めて、相手との少し距離をつめる。
鏡越しに顔が見えた。
「恐怖の色を、見せてみろ。」
そう呟いて、ハンドルを握りなおす。
続く中央分離帯の最中にある横断歩道。
3秒前に悪戯にウインカーを出してみたりして。
それから、一瞬もためらわない。
そうでなければ嗤えない。
ブレーキを強く踏み込み、ハンドルを回す。
ゴムの焼けるにおいがした。
整備された灰色の道路の真ん中に、くっきりと黒くブレーキの跡が残っており、
この住宅街とは相容れぬだろう。
ボンネットの隙間から、白い煙が立ち上がる。
だが、
数秒後、
背後では爆発音とともに、
真っ黒な煙が立ち上がった。
何が起こったのかわかっている瀬人は、
遊戯に覆いかぶさったまま動く気などないのだが、
遊戯はもぞもぞとそれを抜け出して、
リアガラス越しにそれを見る。
中央分離帯に美しく見事なまでに突っ込んでいた。
白の乗用車のボンネットは、アコーディオンの如く潰れていて、
フロントガラスにはクモの巣が窺え、
部分部分、オレンジの炎が見え隠れしている。
ドアは拉げており、
液体が滴れているが、
それがガソリンであるとは思えなかった。
人間の姿は確認できない、
人間の形をしたモノだけが2つそこにあった。
彼らも煙へなって天へと昇るのだろうか。
そんな事をぼんやりと考えていた。
「遊戯。」
瀬人の手に視界を遮られて漸く振り向くと、バクラもこちらを見ていた。
視線が痛い。
何故だろう
死体を見たって、何も思わない。
殺す気で転回したバクラより、
何の反応も示さない瀬人より、
自分がもっとも残忍に思えた。
涙の1つも手向けられれば良かったのだろうか。
だが、そう思っても、どうにも涙は出てこない。
涙など、どこかに捨ててきてしまったのだ、
源泉は、すっかり蒸発してしまった、
あの、灼熱の中で。
遊戯がぽすんと座ったのを確認して、
バクラは再び車を走らせた。
「やつらは、なんだ、殺す気だったか?」
瀬人には敵が多い。
更に殺される理由は、敵の数だけある。
まぁ、瀬人は秘密裏に雇ったSPは、そこそこ優秀なようだが。
「俺の勘じゃあ、目的は他にある気もするがな。」
「聞き出すということはしないのか。」
「聞いたところで、何もいわねぇよ。
俺の思うところじゃ、あいつらは殺すのが目的じゃ、なかったみたいだな。」
大体、あんな至近距離で、タイヤの1つも撃て無ぇようじゃなぁ、と笑う。
「では、何が目的だ?」
「社長にさっさと帰宅してもらいたかったんじゃねぇの?」
帰宅、
今日瀬人は別宅へ行く予定だが、
それを知っているのは限られている。
「では何だ、俺が別宅に帰って奴等に何があるというんだ。」
「さぁな。」
とりあえず行ってみるかと、バクラは次の角を左折した。
呆れるほどの直線。
先は、見えない。
ただ左手に
屋敷森が有刺鉄線の向こうに見える。
故海馬剛三郎の別荘。
「相変わらずでけぇな。」
そう運転手がぼやくのに、
遊戯は思わず身を起こして窓の外へ乗り出すように視線を向ける。
少年にとっては全てが新しい世界で、
5畳の部屋でも、人の行き交う歓楽街の道路でもないのだ。
「遊戯はこっちに来たことは無いか。」
「うん。」
いや、そもそも、
「お前は、剛三郎に買われたことがあるのか?」
そうだ。
そういえば、遊戯は剛三郎の通っていた娼館で働いていたのだ。
少年を買うのに金は惜しまない男だったから、
遊戯を見れば買ったに違いないのだが、
「無いよ?多分。見たことも無いかも。」
と返答がある。
「意外だな。」
「ボク、1階には殆ど下りて無いんだ。
1階に下りてれば、色んな人と会えるんだけど、
ボクはずっと5階で外に出たこと無いから。」
「そんなもんなのか。」
バクラもなにやら話は聞いていたらしく、そう口を挟む。
「うちの娼館は女の人もいて、大体女の人の方がお客さん多いし、
一日に何人も買って行くらしいんだけど。
ボクは一日に2組だけだったからね。
下にいるより上にいたほうが邪魔じゃないからかな。」
「一日に2組なんてことあるんだな。」
もっと酷使されているのだと思っていたが。
「でも、絶対二人以上で来るんだ。」
「一元はお断りということか。」
「そうなのかな?」
秘蔵だったのだろう。
店のオーナーが溺愛していたのか。
「今日も客をとっていたのか?」
「うん。」
「っても、お前押入れの中にいただろ。」
だからこそ、生きてバクラに拾われたのだが。
「あれはね?かくれんぼ。」
「はぁ?」
「お遊びだよ。ボクも初めてだったけど。」
「お前相手に遊びとは贅沢なことだな。」
遊戯の顔にかかった前髪を除けながら、
瀬人はまるで子どもの話しでも聞くようである。
コロコロと表情を変えるのが愛らしいらしく、
さっき追われていたことなどすっかり忘れている。
それを見るバクラは、ゲンナリする。
だが金さえ貰えるのであればどんな人間でも構わなかったから、
文句を言うでもなく、
ただバックミラー越しに僅かに牽制をしつつ、
耳だけを傾けていた。
「もう1人は後から来るから、先に遊んでようって。」
あのお兄さんも死んじゃったんだね、と
まるで映画の感想でも述べているようだ。
「けど、遊戯はそいつがどうしたのか知らないんだろ?
押入れにはお前しか居なかったし、」
現場はあの惨状だ、恐らく死んだんだろう。
「お前を抱く気でいたもう1人の客も悲惨なものだな。
まさか店が爆発されるとは思っても居なかっただろうな。」
「店についてたら運のつき、だな。どーせいつかは死ぬんだから、
それが早かろうと関係無ぇか。」
「爆発の原因は何だ?」
「ガス、だな。じゃなけりゃあんなことにはなら無ぇな、恐らく。
まぁ爆発前にガス吸って死んでたやつも居ただろう。
死体も隠せるし、あれが芸術ってかねぇ。」
批判的な口調でそれだけ告げるとバクラは口を閉ざした。
遊戯も外の景色を眺めたまま黙っていた。
誰も居ない、心もない、
世界は灰色で、まるで廃墟のようだった。
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もっと展開が速いはずなんだが、なぜだ、切っても300行に・・・
車のシーンって読むのは好きですが、書けません。(ご覧の通りに)
転回するときは、30M手前でするんだっけ?
まぁ、きっと転回禁止だったんだろうけどさ・・・
脳内バクラはスピード狂です
(08.03.23)AL41
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副題やその他細々した修正・追加+大幅追加しました。
副題と内容が合っていなかったので・・・。
本当は合うはずだったんですが、そこまでいくのが長いの何の。
と、いうことです。
(08.05.13)AL41