Ep.4-03





「にしてもよ、遊戯もどってこねぇなぁ。」
「海馬のヤツに捕まったんじゃねぇだろうな!助けにいくぜ!」
「ちょっと、待ちなさいよ!・・・どうして海馬君が遊戯を捕まえる必要があるのよ・・・まったく・・・。」

何処と無く過保護にも思える友情に熱くなっている城之内だったが、
噂をすれば影、というわけではないが、
遊戯ではなく、遊戯の使い魔であるサイレントマジシャン、名はセラエノ、がふっと姿を現した。
城之内は青くなり、本田はぎょっとしていたが、彼女は初対面の本田に改めて自己紹介をし、
アテムのほうへ向き直った。

「どうかしたのか?」
『遊戯様が、「モクバ君が今度ご飯でも食べようっていってくれたんだけど、行っていい?」と。』
「そうだな。容態も気になるところだ。それに、まぁ多分大丈夫だろう。伝えておいてくれ。」

使い魔と称される霊を糸電話扱いしている彼らに、
一般人3人は少々驚きながら、
しかしどれだけアテムと遊戯が霊や精霊というものと自然に付き合っているか、ということは解った。
同時に、そこまで恐れる必要が無いということも何となくだが感じる。

「相棒の様子はどうだ?」
『今のところ問題ありません。ただ、』
「ただ?」
『・・・いえ、また改めてご報告します。では。』

そう一礼し、さらに3人にも挨拶をしてからすっと、
「消えたっ!」
「一々怖がらないでよ。だらしが無いわねぇ・・・。」
杏子は呆れている。
その様子を苦笑しつつ、
「怖がっている城之内君には申し訳ないが、」

と、今度はアテム自身の使い魔が出てきた。

「マナか。マハードは?」
『お師匠様、さっきから見当たらないんですよー。』
「そうか。相棒の護衛を頼もうと思っていたんだが・・・。まぁ、今のところは大丈夫だろう。
ただ何が起こるか解らない、とりあえずマハードを探しておいてくれ。」
『はーい!』

セラエノとは対照的な明るい使い魔は『お邪魔しましたー!』と消えた。

「大変なのね・・・なんだか・・・。」
「彼らがいないともっと大変だからな・・・感謝してるぜ。」

そうこうしているうちに、予鈴が鳴った。








何故こんなに気になるのだろうか。

海馬は自分でも不思議なほど、遊戯のことを尋ねていた。



「ボク、携帯電話って初めて使ったかも!すごいよね、こんな小さいのに色々出来ちゃうなんて。」
「持っていないのか。」
「うん。ボクはすぐ壊しちゃいそうだし。それに
もう一人のボクも持ってないから、ボクだけってわけにもいかないし。」

一見弟よりも幼く見える少年は、はっきりとそう言う。
恐らく人に言われたのではなく、自分で思っているだろうことが読み取れるような口調。

彼の不思議なところは、幼いようでそうではないことだ。
見た目が大人でも中身がガキという人間は見たことがあるし、
見た目は子どもで大人びているようでもませているだけ、というのも見たことがある。
勿論、ませているわけではない者も見たことはある。
弟なんかはそんな典型だ。

ただ、遊戯はそれとも違う。

感性は子どものようだ。使う言葉も子どもらしいし、漏らす感想も無邪気さが残る。
だが、遊戯には子ども特有の恣意的な要求がないように見える。
ワガママではないのだ。だから、ガキっぽくはない。
なんだか、人間らしくない。

ふと、今朝のことを思い出した。

「今朝の写」
「あー!海馬君、見ちゃった!?」
「あ、ああ。」

まるで百面相だ。
酷く驚いたかと思うと、
あー、うー、と唸りながら、口の前に指を立てて、秘密にしててね?と頬を染める。
「気にするな。なんとも思わん。」
「よかったー・・・。もう、ママってばあんなの送ってきちゃってさ。」
「お前たちは2人で住んでいるのか?」
「そうだよ!もう一人のボクが居るから不安なことなんか無いんだけどね。」

もう一人のボクは、食事の仕度はさっぱりだけど、
他の事は何でもしてくれるんだ、と得意げに言う。

それで思い出す。

もう一人のボク、ことアテムという男のことを。


あの男のだいぶ変わった人間だったが、
割と冷めた態度と口ぶりだが、遊戯に関することになると、すぐに自分が取って代わろうとする。


考え至り、海馬はポツリと問いかけた。

「少々甘やかしすぎではないのか?」


携帯電話を珍しそうに眺めている遊戯は少し驚いたような顔をしてから、
僅かに寂しそうな顔をして、更にそれを誤魔化そうとするように笑った。
「ボクが・・・確りしてないから・・・仕方が無いんだ。」
「そういう問題なのか?」
「・・・仕方が無いことなんだ。」

携帯電話をそっと机に置いて、
寂しそうな顔で言葉を続ける。

「彼はね・・・ボクに対して、責任を感じちゃってるんだ。だからだと思うよ。
彼はボクを守るように言われてるんだ。仕事の後だと憑かれちゃったりするからさ。
それに、ボクにとって初めての学校だし、彼も緊張してるんだと思う。それで、
もしかしたらキミにも強く当たるかもしれない。でも、悪気があるわけじゃないんだ。
ただ、真面目すぎるだけなんだ。ごめんね。」
「構わん、そんなことは。お前が謝るようなことではない。」
「ありがとう。」

今度は優しく笑う。
一転明るく振舞う。

「でもね、これもあと2,3年で終わり!
そうすれば、彼は自由になれるんだ!」
「お前も自由になるんだろう?」
「うん。まあね。」
「お前はヤツのことばかりだな。」
「だって、ボクより彼の方がつらいから・・・」

その時見せた表情は、子どものものではなかった。
かといって大人が見せる作り物の同情でもない。
どうしてそんなにアテムを気にかけるのか。

遊戯という人間は、まるで、


他の誰かのために存在しているようだった。



暫くすると予鈴がなり、
アテムと取り巻きが姿を見せて、遊戯が大きく手を振る。
渦中の男は一度鋭い目つきで海馬を一瞥してから、遊戯に微笑む。

「セラに行かせちゃってゴメンね?なんだか、触ったことが無いものを持ってると不安で。」
「ああ、大丈夫だぜ?それより、」
「セラには調べものに行ってもらったよ。アルにはモクバ君の様子を見に。」
「相棒の護衛が居ないのは不安だな。まぁ俺が居れば大丈夫か。」
「大丈夫だよ、ボクはボクくらい守れるって!キミだって楽じゃないんだからさ。」

心配しないで、と笑う遊戯に、
アテムの心は曇った。



教室の誰が望んでいるのか知らないが、午後の授業が始まる。




解りきっている内容の授業など改めて聞く気は無く、
アテムはぼんやり考えていた。

遊戯はすっかり海馬になついている。
大切な友人と思っているところもあるのだろうが、
恐らく海馬のあの負の力を気遣っているところもあるのだろう。

弟のことが一段落ついたことで少しマシになっているかもしれないが、
始業式の日に家で遊戯が語ったことを考えれば、そう簡単に解かれるものでないことは想像に難くない。
海馬にかかっているのは、ある種の呪詛。
凡人であればすっかり寝込んでいるだろう凶悪な呪いだが、
あの男を普通たらしめてしているのは並ならぬ精神力と、オカルトを信じないという強い意志、そして、
あの心を占める、前向きなもの、希望だの目的といったものだと思われる。

しかしそれにも限界は有る。
遊戯はそれを危惧しているのだろう。

だからといって。


ガキみたいだ、とはわかっているが、
余りにも寂しすぎる。

開き始めた距離は一向に縮まらない。

遊戯はどこか、自分を突き放そうとしているように見える。
ただ気を遣っているだけの話だとおもうのだが、そう見えてしまうのは、
自分が原因だとしか思えなかった。
遊戯が目新しいものに夢中になっていることで、それらに嫉妬しているのだ。

ふぅっとため息をつき、思わず机にうつぶせた。
遊戯はコチラに顔を向け、すっかり寝ている。
子どものような寝顔に少し安心する。

遊戯を見ていると、心が前向きになる。

広がった距離は、また自分で縮めればいい、とそう思えてきて、
さっきまでのネガティブな自分が情けなくなるほどだ。

暫く寝顔を見ていると、大きな瞳がゆっくりと開かれて、目が合った。
「(キミが寝てるなんて珍しいね。)」
そんな事を言いたそうな顔をして、ふふっと笑った。

早く家に帰って、独り占めしたいと思わせる。




しかし、だからやはり今日はそうもいかない1日だった。





授業が終わり、掃除ももう終わろうとしていた。

箒を片付けて、
「ボク、ゴミ捨て行って来る!」
元気良く飛び出していった遊戯に、思わずついていきそうになったが、
このくらい1人でできるもん!と拒否された。

「・・・子どもが親離れをする感覚ってこういうことなのか・・・。」
「アテム、どうした・・・?」
「いや・・・。」

遠い目をしたアテムには何の言葉も届かなかった。









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