祓魔師
Ep.4 「俺が死ぬかと思ったぜ。」
「すっかり忘れてたよ。」
登校中、遊戯は楽しそうに、エアメールの差出人の名を眺めていた。
日本へやってきて、漸く10日になろうというところで、
遊戯はダンボールを全てつぶし終わった。
一方、アテムはそんなものはすっかり終えていたのだが、
彼の愛用のソファが実家から届き、これで漸く日常生活が戻ってきたといえる。
アテムの朝といえば、このソファで珈琲を飲みながら新聞を読むことで、
ソファが来たことで、新聞の定期購読に申し込み、さっそく今朝から受け取ったのだが、
「ポストの存在なんか、ほんとに忘れてた。」
新聞と共に郵便受けに、1通の手紙が入っていたのだ。
その手紙、それがいま遊戯の手にあるそれである。
「相棒は一人っ子だから、ママさんも余計に心配なんじゃないか?」
「キミだって一人っ子だよ。」
「そういえばそうだが、うちは放任主義だからな。」
遊戯には非常に偏った集中力というものがある。
ただそれが勉強に発揮されないだけで、興味があるものに対しては周りが見えなくなってしまうのは、
もう子供の頃からだ。
なので、登校中に開封することはアテムが許さず、
学校での楽しみとなったのだが、
「(信号無視しそうな勢いだな・・・)」
ニコニコと笑顔の遊戯を見て、苦笑した。
学校の席に着くなり、丁寧に封を開けると、
中からは5枚に渡る手紙と、3枚の写真が姿を現した。
アテムと遊戯の母親は“知り合い”と言うよりも寧ろ、家族のようなもので、
同い年の割りに精神年齢が二倍違うアテムは遊戯の母親から見れば良いお兄さんである。
今回親元を離れる仕事に就く許可を出した理由のひとつにアテムの存在があるのは、
今更説明するまでも無い話だ。
と、いっても個人的な情報に関しては侵害する気はない。
アテムは遊戯が手紙の文面に返事をしながら読んでいるのを、隣の席から眺めるだけだ。
文面に目を通し終えるとキミにだって、とアテムに一枚差し出す。
マメな人だ。
内容は、息子が世話になっている礼その他心配する言葉だとかで、
親しい者の母としてアテムを気遣っているのが解る。
信頼されていると感じる一方で、遊戯への複雑な心境を目の当たりにする気分だ。
文末には『懐かしい写真を添えます、部屋掃除をしていたら出てきました』と書いてあって、
それが同封されていた三枚の写真なのだろう。
遊戯は写真をとった。
1枚、2枚、そして、
3枚目を見たとき「えぇっ!?」と声をあげ、ささっと机の中へ隠してしまう。
・・・からかう他無いだろう?
「相棒、どうかしたのか?」
「え、あ、なんでもないよ!」
アテムが悪戯に笑っているというのに、遊戯はそれに気づかないほど動揺しているらしい。
机に残っていた写真をひょいっとめくれば、
一枚は遊戯の母と大好きな祖父の写真、もう一枚はアテムの家系を含む集合写真。
この二枚で一応面子は揃っている。
もう一枚はなんなのだろう。
そもそもこの二枚は、掃除して出てきたものではないだろう。
つまり、遊戯の隠した一枚が、掃除して出てきたものだと考えられる。
「相棒。」
「だめっ!」
顔を真っ赤にして、必死なようだが、気になったら譲れない。
しかしまぁ今では無くても構わないか。
アテムは「仕方が無いな」と折れたフリをして、一度向き直り、
教科書を机の中へと仕舞う。
それをみて遊戯も気づき、同じように鞄を開けて、
机の中へと教科を確かめながら仕舞っていたのだが。
その時、机の中からヒラリと落ちた。
そして遊戯はそれに気づかない。
アテムだけが目ざとくそれを見つけ、ニヤリと笑って、光の速度で取り上げた。
「本当だ、懐かしい写真だ。」
「え?」
遊戯が振り返れば、ニヤニヤしているアテム。
その手には、写真。
裏には12年程前の日付。
「あ、あああああーーーーーーーー!!」
「遅いぜ相棒。」
「何で!?」
「いや、落し物を拾っただけの話だが?」
「だめ!返して!!」
「いいじゃないか。俺宛だぜ。」
「何で!?」
顔を更に真っ赤にして、返却を要求してくるが、そう簡単に返せるものではない。
それに、
「俺宛の便箋に書いてあったんだぜ?懐かしい写真だってな。
つまり、この写真は俺宛、じゃないか?」
ニヤニヤと笑ったまま、そう丸め込もうと試みるが、
「やだよ、そんなの、恥ずかしいもん!!」
手を伸ばしアテムの手から取り替えそうと躍起になるが、届かない。
アテムはそんな様子を笑いながら見ていたのだが、
「なんだぁ?アテム、何の写真だ?」
さっと手から写真の感覚を失う。
固まった2人がふとして見上げれば、城之内が写真を持っている。
遊戯の机の上にエアメールが置いてあるのを見て、
はーん、彼女か?といたずらっ子のような声で茶化し、写真を見ると。
「・・・妹か?」
不思議そうな顔をした。
少し古いその写真には、紅葉頭の少年。
そして隣にいるのは、何処か似ている少女。
可愛らしいドレスを纏って、資産家のお嬢様といった感じだ。
「これは、アテムだろ?目つきとか。」
「ああ。まぁそんなところだ。な、相棒。」
「う、うん。」
遊戯は自然と話をあわせて、更に城之内から写真を取りかえそうとするが、
取り返せる見込みは無い。
「ったくなんだよ、アテム。こんな可愛い妹?がいるなら最初から言えよ。」
「かっ・・・」
「可愛いか?」
「可愛いじゃねぇか。しかも金持ちそうだし。アテムっておぼっちゃまなのか?」
「そんなガラじゃないが、地主だからな。そこそこ、というところか。」
「じゃあ、何だ?妹じゃないなら従兄弟か?それともまさか許嫁とか・・・?」
「いっ・・・!?」
アテムをからかっているつもりの城之内の言葉に一々反応をする遊戯が可笑しくて、
アテムは写真を取り返す気も無く、楽しんでいる。
俺にも妹がいるんだぜ?と話が膨らみ始めた時に、
何かがひょいっと城之内の手から写真を取り上げたことに気づいた。
「どけ。邪魔だ。」
塔もとい、背の高い珍しい男が立っている。
「か、海馬!?なんでんなとこに居んだよ!!」
「俺の席だからだ。」
確かに海馬の席ではある。
遊戯はチャンスだと言わんばかりに、
海馬君、その写真返して、と言おうとしたのだが、海馬は鞄を持ったままその写真を眺めては、
一度紅葉2人を一瞥し、
「成程な」とだけ呟き、
アテムの手へと返してしまう。
「なぁーにが『成程な』だ!」
「貴様にはわからん話だ。」
「はぁ!?」
城之内がイライラと睨みつけている一方で、
海馬は席に着き、鞄を置いて携帯電話の着信等を確認している。
「海馬が居れば、今日は楽そうだな。」
そんな様子を傍目に、アテムが写真をヒラヒラしながら満足げに呟くが、
遊戯は膨れるのも疲れたのかダラリと机にうっつぷしていた。
「お願いだから、誰にも見せないでよ。」
「わかってる。俺だけのものだぜ。」
アテムは丁寧にファイルへはさんで鞄へとしまった。
遊戯が流石に人の鞄を荒らすような性格でないことは解っていた。
家に帰れば遊戯とその話で盛り上がるだろう。
最近仕事疲れや友人関係で割かれている二人の時間だが、
今夜は今までのような時間を過ごせる気がして、
大人びた彼ながら、喜んでいた。
ただこの日アテムは、
遊戯が学校生活を送るのに、どれだけ大変なのか実感する羽目になった。
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