*読まなくても大丈夫な回
*既出のキャラは殆どいません。
*死表現アリ



嫌いだった。
今すぐ首を切りたいほど憎い。

しかし、それは許されない。
何もしてこない人間を消しては、此方が悪になってしまうのだ。

いうなれば、お互い、銃を持っている状況である。
持っていること自体は合法だとしよう、
もし誰もそのトリガーを引かなければ、平穏である、共存である。

だが、一人が銃口を他者に向ける。

どうなる。
まだ問題ない、銃口を向けるだけでは悪にならない。

では。


銃口を向けられた人間が焦って発砲したらどうする。

それに対しわが身を守るために発砲で応じたらどうなるのか、
誰が悪いのか。

最初に銃口を向けた人間か?それとも、トリガーを引いた人間か?
引いた人間だ。
危険な人間としてシステムから排除される。

排除したいのだ。
あのぶくぶくに太った腐ったヤツ等を排除したくて仕方が無い。

だが、トリガーを先に引く気などない。
だから、銃口を向けてやるのだ、起こしてやるのだ、
事件を、転換点を。
この変動のトリガーを。

昨日事件は起こった、だが、まだ殆ど何も変わっていない、


この男の転換点は、  今 。




唯我論者の誤謬 -10.反目の公示-







「本日の話は二点。」

もし、事実が知れているのであれば、劇団からスカウトが来るだろう。
それほど瀬人は完璧であった。

まず、世間を騒がせた父の最期を詫び、巻き込んだ人々に哀悼の意をのべ、事の真相を解き明かすことを誓う。

あの娼館と別宅が爆破されたことは非常に都合が良かった。
他者をも巻き込む死は、剛三郎の権力の強大さを謳い、
瀬人が別途に暗殺依頼していたことを霞ませる事が出来た。
それは世間の人間に対して、だけではなく彼自身に、でもある。

内部の暗殺とされた場合、後継者の瀬人が狙われるのは考えるまでも無い。
しかし瀬人には逃れられる自信があった。

暗殺者を雇っての殺害だとされた場合、
実際此方は事実であるのだが、
バクラが暗殺したかどうかはもうわからないだろう。
発見された剛三郎の遺体はほぼ焼け落ち、剛三郎の面影を僅かに残していただけだった。
骨に痕が残ると、凶器は特定されてしまう確立は高まる。
バクラ本人の証言によれば、出血多量を図り、骨に痕が残らないよう考えたという。
お陰で燃え尽きてしまった体から、刺殺の痕を見つけることは不可能だった。

それに何よりあの爆発だ、たとえ剛三郎が完全に息絶えていなかったとしても、
あの爆破のせいで死んだのだ、と言えた。
そう言えば自身の罪から逃げられると思った、そしてその通りだった。

では、
死因は爆死ということと決定されたとして、
その爆発を起こしたのではないか?と疑われた場合。

こちらも視線を逸らすことが出来る。
瀬人が子供好きというのは知れた話であったのだ。
年に何度も孤児院や養護施設に通っているのは報道されていた。
最近は養護施設も孤児院も殆ど機能していないのだが。

本当に瀬人が子供好きかどうかは怪しい、
彼は愛するのは少年であり、子供という生命ではないのだから。

だが、世間がそれを知ることは無く、
幾ら剛三郎を殺すためとはいえ、幼い命を一度に何十もまき沿いにするなど、考えられない。
それが共通認識だ。

瀬人には逃げ道があった。
だから自信があった。

そう、問題のない話。

問題は、これから。




さあ、武器を取ろうかご老体。

「海馬剛三郎の元、武器の開発をしてきた。だが、それも終わりだ。」

殺したいだろう?

「今日、この瞬間に全ての受注を中止し、軍需から完全撤退する。」

我が銃は、既にあなた方を捉えている。

「そしてこの場を持って、海馬重機は海馬コーポレーションに生まれ変わる。」

怯えながら引き金を引け。
この俺を撃てば良い。

そして敵と散れ。




瀬人の発言は攻撃的だった。

たとえ政治を、経済を知らぬ人間だとしても、それが攻撃とわかるほどに。
では何を攻撃しているというのか。

そんなことは判らない、
ただそれが一枚岩で無い事、そして、

それが対立しているということ。





「軍需からの撤退だと!?正気なのか!?」
「そうでかい声を出すな。計算のうちだ。」


社の会議室でそれを見ていた。

撤退の表明に会場はどよめき、記者は首をかしげる。
それにも動じぬ瀬人の目は、
確実にテレビを越えて、自分達を睨みつけていると判った。

「ふん、あの小僧め、剛三郎様の恩を踏みにじるような真似をするなど。」
「ガキだからこそ、だろう。まだ事実を知らないからこそでかい顔をしていられる。
あの設計図は既に蛇に送ってある。
海馬瀬人が何をしようが、我々には命綱が付いているのだ。
手のひらの上で踊らされていることにも気づかんようでは、リーダーとして不適格だな。」

煙と一緒に言葉を吐き出す。
目は笑っていない。

「こちらとしては、だからこそ海馬瀬人には永遠に開発を担当していて欲しかったのだが・・・。
爆破事件の件はどうするんだ?我々のところにも調べが来るだろう。」
「あれは我々が考えたことではない。」
「だが、もし蛇がそれを警察に言うようなことになれば、どうなるか判らないぞ。」
「そうしたら黙らせれば良い。
現時点では生産タスクは機能している。まだ我々は武器を使える状況にあるのだ。
海馬瀬人には剛三郎の敵と伝え、世間体を守るために蛇を糾弾するように仕向ける。
『事件の真相追究を望む』と公言したのだ。その上この方針の転換。
不安定な状況におかれた海馬重機・・・いや海馬コーポレーションがこの社会の中で存在を守り抜く為には、
何か1つ筋が通っていなければならない。
世間からの評判さえ良ければ暫くは持つだろう。
世間とは愚か者の群れでしかない。
少し良い事を行ったりしたりすれば、前の悪など忘れてしまう、鶏のようなものだ。
騙す騙さないの問題ではないのだ。
義を重んじ、剛三郎の件を確り片付けるように見えれば、世間はそれだけで海馬コーポレーションを評価する。
問題がひと段落した後に、我々は機会を見てこの船から降りるまでの話。」
「それもそうか。蛇の話どおりに行けば、我々は国家における地位を確保できるはず。
今は子供のお遊びに適度に付き合ってやればいい・・・そういうことだな。」

自分の足場が平面であれば安定しているという。
少しはなれたところに足場があれば絶対に安全だと考える。
自信の身にとって最悪の状況が起こる可能性があるとしても、
それが起こる可能性の低さに安堵して終わり。


「ふう・・・さて、私はこれから蛇のところへ行って来くことにする。
現在の進行状況と今後のことを確認してくる。
海馬瀬人はコンピューターの扱いに長けているからな、
インターネットを介した連絡は出来るだけ避けた方がいいだろう。今はヤツは記者会見の会場、テレビの中。
あの男が雇ったらしい高性能のSPも会場に居るだろうからな、今が良いチャンスだ。」
「詳細の報告はよろしく頼んだ。」

一人の男が部屋から出て行った。
会議室に残された二人はまたテレビの向こうの新たなリーダーに視線を戻した。


玄関までやってくると、既に車が待機している。
だがその手前に、帽子を目深に被りニコニコと笑う一人の男がたたずんでいた。

「大田宗一郎様ですね。」

妙に馴れ馴れしい様子で話しかけてきた。
ただ表情が読み取れずに、大田宗一郎は訝しげであったが、
運転手が何も言わないのは、彼が怪しい人物ではない証拠であったのか。

「誰だ君は。」
「蛇からの使いです。いやはや、少々騒がしいので、護衛をしろ、と。
まぁ直接面識はないのですが、頼まれたもので。
最近は車を荒らす愚民共も多いようで、大切な取引相手のあなた様に何かあっては、との気遣いです。」
「そうか。そうだな物騒だからな。腕は立つのだろうな。」
「証拠を残さない程度には。」
「ならば結構だ。」

男は後部座席のドアを開け、大田を乗せると、
助手席に乗り込んだ。

「行け。」
「はい。」

運転手は馴れているらしい、目的地を言わずとも走り出した。

街は閑散としている。
気持ちが悪いほどに整備された街を抜けると、大きな邸が立ち並ぶ。
ミラー越しに男を観察したが、これといって怪しい仕草はない。

「お前は瀬人の記者会見を聞いたか?」
「いえ、外でお待ちしておりまして何も。何か問題が?」
「ああ。全く・・・あの小童、兵器開発から撤退すると言い出した。
愚か者の独り言にしか聞こえん。
武器は売れる。それも商売相手は国だ。輸出も出来る。
この世で戦争が絶えることなどないのだから不必要になるわけもない。
だというのに撤退などと愚かにもほどがある。
あの男は自分が聖人だとでも思っているのだろうか。下らん。」
「そのようなことを・・・。武器の開発をおやめになって、何をなさるつもりなのでしょうね。」
「さぁな。あの男は所詮技術者なのだ。経営者でも帝王にもなれぬエンジニアでしかない。」
「畑違い・・・ということですか。
虹の中に居るものがそれと気づかぬのと同じように、
自分が経営に携わっているだけで経営者だと勘違いしているのかもしれませんね。」
「そうだその通りだ。・・・そちらの具合はどうだ?」
「申し訳ありませんが、ワタクシは詳しいことは存じ上げません。
それこそ畑違いというものです。ワタクシに出来ることは護衛だけ。
あの方のなすことを全て把握しているわけではございません。
ただこの世の中で、仕事を与えてくださる方、というのみでございます。」
「なるほどな・・・。あの男は政治家だが、経営者としては目を見張るものがある。
話がわかり、物の価値がわかる政治家が居ると助かる。
あの兵器は今までとは根本的に違うのだ。
それを理解しようとしない政治共には腹が立つが・・・その内知ることになるだろう。
あの男に雇われているのならこれからは安泰だな。」
「ありがとうございます。」

大田の高笑いにもニコニコと応じるだけで、
車は問題なく一軒の邸宅の前に止まった。
インターフォンを押す前に門が開く。
ドアを開け玄関まで送り届けると、帽子の男は背を向ける。
「お前はあがらんのか?」
「ワタクシは次の仕事がございまして。ここで失礼致します。」
「そうか。ご苦労。」

深く礼をすると、駐車場の方へ立ち去っていった。

2メートルを超える荘厳なドアがゆっくりと開き、
邸の主が迎えに現れる。
エメラルドグリーンの髪、端整な顔立ちをしている。
ただ蛇のようなその目だけがこの男を異様たらしめている。

「ミスター大田、ようこそ。」
「相変わらずだな。」

外に誰も居ないことを確かめてゆっくりとドアは閉められる。

「特に問題は?」
「ああ。何にも遭遇しなかったぞ。お前が護衛をつけてくれたことだし、愚民が来ても大丈夫だったがな。」
「護衛?」
「そうだ。お前がつけたのだろう?」
「そのようなものを呼んだ記憶は。」
「何?まさか。」
「まさか、でしょうね。」

家の主は使用人に、駐車場に不審者が無いか確かめてくるよう命令じ、
大田を部屋へ連れて行く。

「瀬人は記者会見に行っているはずだ。SPも同伴していると聞いているのだが。」
「ええ、私もそうだと思いますが。海馬瀬人という男は、ただのエンジニアでも経営者でもないようですね。」
「どういうことだ?」
「さぁ。ただ。」

蛇はニコニコと笑う。
一体何が面白いのか知る由も無い。
やはり気味が悪い。

「彼の手には良く磨かれたナイフが握られているようですね。」




数分後、大田の運転手の刺殺体が発見された。



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はい。まぁ。
これといって面白みの無い回でした。
要は、KC内での対立がはっきりしてきましたよ、ということ。
労働者対経営者、以外として社長対重役の対立がありますよ、と。
ついでに蛇を一寸出してみたのですが。
次も色々出てきますが、遊戯主体なので読みやすいというか、一寸動きが出てくると思います。



















(09.03.24)AL41