*バクラが居るならもう1人出てくるのが常
*メイン?サブ?解らん

*妙に文字数が多いいな。



それは秒針の無い時計。
常に音を立てるわけではない。

耳を欹てようがふさごうが、
何も変わらない。

唯我論者の誤謬 -8.静かなる凶兆-



「あったかーい・・・。」

なんでもない、寧ろ品質としては下の布団だったが、
温かいと感じる。
人間に匂いがする。

いつの間にか出ていた足を再び布団の中へ潜らせて、
見た夢を思った。

男娼として売られた。

それは事実ではある。だが、
遊戯にとっては同情をひく為の道具ではない。
生きるためには仕方が無かったし、そこで得たものは大きい。
珈琲が淹れられる人間よりも、啼き方を知っている人間の方が少ない。
そして珈琲を売るよりも効率的に稼ぐことが出来る。
あの娼館でそれを学んだ。



「寝すぎちゃったかも・・・。」

久し振りにぐっすりと眠ったように思う。
騒がしさも無く、人も無く、車の音も目覚ましもない。

しかし何時までも寝ているわけにも行くまい。
遊戯は誘惑を振り切ってのそのそ起き上がった。

思いっきり伸びをして、酸素を取り込む。
目をこすり辺りを見回すが、
「ここ、どこかな・・・。」
見慣れない場所だった。

ああ、そうだ、そもそも自分は寝るつもりなどなく、
しかしやってきた睡魔に抗う力も無く、
自分の着物を布団にソファに寝たはずだ。

まさか見知らぬ場所で寝ぼけてやってきたということも無いし、
誰かの力であることは間違いなかった。
「バクラ、起きてるんだ・・・。」


床はコンクリートそのもので、
足を付けると、その冷たさで目が覚める。
布団を適当に直し、自分の衣服を整えると、そっとドアを開けた。
小さな廊下に明かりは無いが、どこかに窓があるらしい、明るく照らされている。

階段の下からテレビの声が聞こえて、
遊戯は安心をして、階段へ向かった。
手すりの無い階段は一段一段が高く怖かったが、壁につかまり足元をしっかり確認しながら降り切った。

「良くお眠りになられたようで。」

皮肉の割には嫌味ではない口調になんだか笑いそうになって、
まだ少し寝ぼけた目でバクラの方を見た。

「あれ?」

一度こする。

「あれ?」

まだ寝ぼけているのか、それとも夢なのか。

白髪頭が机の周りのソファに2人座っているように見える。

大きなソファで浅く腰掛けテレビを見ているのは、
昨日も会ったはずのバクラだ。

では、
斜向かいのソファでコチラに笑いかけている男は、
誰なのだろうか。

「てめぇが気味の悪ぃ愛想笑いしてっから、びびってるぜ?」
「愛想笑いのつもりじゃないんだけど。」

やはり2人居るらしい。声は違う。
遊戯はそのもう1人をまじまじを観察する。
髪は白く長く、バクラに似ているが、
バクラが言うほど愛想笑いという感じではない、優しい感じがした。

遊戯がゆっくりと近づいてゆき、さし伸ばされた手にそっと触れると、
男は一層優しく笑って、迎えた。
「こんにちは、君が遊戯君だね。」
「うん。ボク遊戯。こんにちは!」
人と会うのは苦手ではない。
遊戯はその横に座った。

「あなたはだれ?」
「僕は獏良。」
「バクラ?同じ?」
「こんなのと一緒にすんなよ。」

斜め前からいちゃもんが入る。
獏良と名乗った人物は苦笑するだけだ。

「どっちのせいなんだか・・・。でも紛らわしいね。
僕のことは了って呼んでくれればいいよ。」
「了・・・君・・・?」
「呼び捨てでいいぜ、こんなやつ。」
「朝6時に電話かけてきておいて相変わらずだね君は。」
「どうせ暇なんだろ?」
「おかげさまで仕事があってね。昨日も徹夜だよ。」

遊戯君が居なかったら来ないところなんだけどね。とまた優しく笑う。
多分、悪い人ではない。

「ボクのこと知ってるの?」
「朝一番の電話でバクラから聞いたんだよ。150cm位の服を用意しろってね。」
「え?」
「んなかっこで居る気なのか、お前は。」

遊戯は改めて自分の着ているものを見る。
金糸と銀糸がふんだんに使われた赤い派手な着物。
外に出られる服ではない。
最早服というよりは衣装というのが近いようだ。

「どんなのがいいんだって聞いても全然答えないで一方的に電話切っちゃうから、
適当に持ってきたんだけど・・・」
了は鞄をガサガサと漁るが、
ここで着替える必要も無いね、と遊戯の手をとり、鞄を持って立ち上がる。
「じゃあ着替えさせてくるね。」
「勝手にしろよ。」

全く愛想が無いよねーと遊戯に笑いかけてから、小さな手を引いて部屋へと姿を消した。


ただ強いていえば、この着物が嫌だった。


テレビのチャンネルを変えた。
どこも灰になった娼館を映している。
誰が楽しんでみるのだかわからない。

東の歓楽街での娼館の爆破は大きく取り上げられているものの、
剛三郎の屋敷爆破の件に関してはマスコミは一切触れていない。
それは海馬重機工業の権力の大きさを物語のに十分であった。
おそらくガス爆発として片付けられているのだろう、そして事実であるわけだ。
ただそれが故意的なものかどうかが焦点である。

ただ、事件自体は知れているのだろうし、
それにより娼館爆破事件が剛三郎に絡んだものであることは火を見るより明らか。

この難所を新社長が如何に越えるのか、それはバクラの仕事のうちではなかった。


何か飲むか、と立ち上がると、
壁の奥で起動音が聞こえる。
壁の向こうはエレベータ。
つまり。

「渦中の人物此所に来たり、か。」

薬缶の中のお湯でインスタントのコーヒーを淹れ、ソファに座ると丁度ドアが叩かれた。

「バクラ、居るか?」
「返事する前に入るってよ、ノックの意味ねぇだろ。」
「お前にプライバシーの概念があるのか、まあいい。」

書類を右の脇に抱えている。
左手の使用を避けているのを見て、何かあったのはわかったが、
どうでもいいことだった。

「遊戯はどこだ?」
「開口一番それかよ。」
「当然だ。どこに居る。」
「部屋。」

ニヤリと笑う。

「まだ起きていないのか?ならば起こしてきてやろうか。」
「さっき起きた。俺の分までぐっすり寝てくれたらしいぜ。」
「無理をさせたんではないだろうな。」
「だからなんで俺が遊戯に手ぇださなきゃいけねぇんだよ。」

事実だというのに、目の前の男は眉間に皺を寄せる。
普段から楽しそうな顔というものとは程遠いのだが、
いっそうひどい。

「遊戯が居て手を出さんほうが間違っている。」
「お偉いさんは自分の価値観にすぐ人を当てはめる癖があるのか?」
「ではなぜ遊戯を手放さない?譲らないのかが理解できん。」

それはバクラ自身も分からないことだ。
なぜ遊戯を拾ってきたのだろう、いや、さっさと海馬に引き渡してしまえば、
遊戯にとっても自分にとっても良い選択のはずなのに。

「ま、俺様の気まぐれってやつだな。
それよりこんなとこほついてていいのか?
これから記者会見だろ?義父を暗殺された悲劇の社長さんよ。」
「ああ、そうだ。だがその前に仕事の依頼だ。」

仕事といわれれば、ふざけている場合ではない。
金が絡む仕事に関しては、真面目であった。
それは別に理由があることではないが、
彼なりのポリシーといえばいいのか、
彼の非公式な人生の中で培われた価値観であった。

「またなんか処分すんのか?」
「いや、今は派手な行動は避けたほうがいい。
記者会見は別にSPをつける。お前は来なくていい。
その代わりに、大門 小五郎と大田宗一郎の人間関係を完全に洗い、
蛇と呼ばれる人物の特定をして欲しい。」

瀬人は抱えていたファイルの中からステープラーで閉じられたファイルを差し出した。
それを受け取り、文字を見やる。
「メールか。」
「昨日持ってきたファイルの中にあったメールのバックアップの中に残っていた。
それはごく一部だ。」
「それだけ連絡を取っている相手でありながら社長も知らねぇのか。と、なると会社の人間じゃねぇんだな。」
「恐らくな・・・。」
「急ぎ・・・だな?」
「ああ。緊急事項だ。」
「問題でもあんのか。」

ピタリと止まった。
僅かに目の色が変わる。
それは誰も寄せ付けない、冷酷な色だ。
恐らくこれが瀬人の本来の性格であり、自分の養父を殺すことをためらわなかった本性。

「昨日から俺が探していた資料、それは見つからなかった。
考えたくは無い最悪の状況は、
我が社の豚共が蛇にある資料を手渡している、ということだ。
俺があの男に渡してさえいなければこんなことにはならなかったが、それを許す男でもなかった。
さらに、それによって俺があの男に敵対心を持っていたことを、大門小五郎は感づいていた。
その為に、俺がそれを完全に破棄しないよう、蛇に渡した可能性がある。」
「蛇と豚の関係は予想以上にでかいようだな。・・・兵器か。」
「もしあれを完成させたとすれば、この町、いや、

この国は終わる。確実に、な。」


「どんなもんなんだ?」
「それは機密事項だ。」

瀬人はソファから立ち上がり、
蛇の素性を調べるよう改めて言いつけた。

「記者会見の時間に遅れる。」
「分かったら伝えに行く。何時もの手段でな。」
「分かった。」

スーツを直し、ファイルを手にした丁度その時、
ゆっくりと階段を下りてくる存在に気がついた。

「遊戯君ゆっくりでいいからね。」
「う、うん・・・。」

壁に掴まって下りてくるのが遊戯だと知るや、
男の目は何時ものものに戻り、
嬉々として歩み寄っていく。

「遊戯。」
「んっ、え、あ、社長さんだぁ。」

狭い階段に立ち止まって、こちらをみてニコニコ笑う。
急いで降りようとすると、抱きかかえられた。
「どうだ具合は。」
そっと床に降ろしてもらい、改めて笑う。
「全然ヘーキだよ!」
「そうか、それは良かった。お前は笑っているのが一番似合う。」
瀬人は屈んで、人目も憚らずに小さな唇にキスをせがみ、
少年は馴れたようにそれに応じる。

頭をそっと撫でるとふと思い出した。
「お前にこれを。」
スーツの内ポケットから取り出されたのはチューブの軟膏。
「火傷の薬だ。折角の美しい肌が勿体無い。」
「ありがとう。」
それよりも、と遊戯に一回転させて問う。
「この服はどうしたんだ?とても似合っている。」
「えへへ、ありがとう。あのね、了君が、」

誰だそれは、と視線を上げると数段上でこちらもまた穏やかに笑う青年。
思わずソファで嫌そうな顔をしている男を一瞥したが何も言わなかった。

「中々悪くないセンスだ。」
「お褒めの言葉ありがとうございます海馬社長。まぁ一応プロだからね。」
「ぷろ?」
「あ、遊戯君にも言ってなかったね。僕は一応服飾デザイナーなんだ。」
ちゃっかり名刺を取り出して瀬人へ差し出した。
ついでに遊戯にも差し出す。初めてもらったのか楽しそうに眺めている。
瀬人も悪く思わなかったらしく、それを潔く受け取り、目をやり、思わず問いかけた。
「内側に居られるとは、それなりに腕が立つのだな。」
「良くしてくれるお客様が居て何とか。」
「ほう。」

それからまた遊戯を眺め、
「遊戯、お前が欲しければ幾らでも頼んでやるぞ。」
とすっかり囲いはじめている。
遊戯はそういったことに馴れているらしく、うまい具合に流し、
「社長さんもうどっかいっちゃうの?」
「これから記者会見だ。」
「そっかぁ。」
「またお前に会いに来る。」
「うん!」

もう一度キスを与えてから、そのまま去っていった。
遊戯はその姿が見えなくなるまで手を振っていた。

それから気づくのだ。

「あれ?」
「どうしたの?」
「入り口ってあっちじゃないの?」

そう幼い指は暖炉を指した。
すると了はクスクス笑い出して、
「バクラに騙されたんだよ。」
「え?」
「騙してねぇよ。別に他に入り口がねぇなんて言ってねぇだろ?」
「えー!?でも秘密基地・・・。」

了はぷぅっと膨れたのを宥めながら、バクラに私服をお披露目した。

ゴシック調のブラウスにズボン、サスペンダーがされている。
短いズボンの下は黒いハイソックスに革靴。
いかにも海馬やその同胞が喜びそうである。
バクラはもっとラフなものを予想していただけに少し驚いたが、
了が相手にしている客層を考えれば不自然ではなかった。

個人的に気に入ったわけではなかったが、
客観的に見れば似合っているのだろう。
そもそも何の要望も出さなかったのがいけない。

「似合う?」
遊戯はひょこひょこ歩み寄ってきて、少し媚びた調子で聞いてくる。
それが娼館時代の名残かと思うと、何となく嫌だった。
「アレよりはよっぽどマシだな。」
「こんなものしか見つからなかったんだ。時間をかければまだ見つかると思うけど。
変えようか。」
「いや、いいだろ。こっちを歩く分には問題ねぇだろうな。」

バクラは立ち上がり一度大きく伸びをして、
「俺はそろそろ仕事行って来る。御贔屓さんのお仕事だからな。」
「バクラ、ご飯は?」
「適当に食う。お前らもどっかで適当に食え。」

バクラはじゃ、と軽く手を上げて、海馬の消えたドアに消えていった。

「僕達はどうしようか。遊戯君の好きにしていいよ?」
「え?うーん・・・あ、ボク外行きたいなぁ。」
「そうだね、買い物にでも行こうか。僕も今日は時間があるから。」

遊戯はうれしそうに頷いた。





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バクラが遊戯を騙したか否か。
一応それらしき発言はした気がする。させるつもりは無かったのに。

前回の記述のバクラの部屋の椅子の数が間違ってる気がします。
低めのテーブルを挟んでソファが二つに、お誕生日席に一人掛けが一つ、です。



(09.02.10)AL41