唯我論者の誤謬 -2.散る街知る人-



この手の話は酒場へ行けば良く聞ける。

「性行為等のみだらな行為は未成年にとって悪影響である。」と高らかにいう政治家が、
今夜も歓楽街へと黒塗りの車を走らせていき、がっぽり貢いで行く。

その相手は未成年、というオチである。

何故歓楽街で未成年が働いているのか?

詳しい説明は犬も食わぬので、省略しよう。
安直に言えば、政府の施行した通称『万戸冨民』政策の結果、
貧乏人の町は貧しい順に破壊されている。
その最中で両親や親戚を失い、行く当ての無い子どもは、親切な人に拾われない限り
業者に拾われ、取引される。
無論、大人も取引されるが、彼らは大体工場だのなんらの労働力にしかならない。

一方特にこれといって手のかからなくなる10歳くらいから17歳くらいまでの子どもは物覚えも良く、
色々と利用価値があるので、高値がつく。

ちなみに市場に行けばピンからキリまで色々取り揃えられている。
利用用途によってニーズが変わるから右から左まで色々そろえておくのが店としてはベターだ。

抵抗もままならぬままに売り出された子どもたちはそれぞれの場所で食べていくことになる。

こうして手に入る子どもは、多くが飲食店で働いたり、家政婦、として雇われる。
彼らの給料は安いものの、生きていけなくは無い。
ただ、命の保証の為に自由と彼らの自己を代価として支払うことにはなった。
なぜなら、彼らに代わりは山ほど居るのだ。
そして帰る場所もないのだ。
彼らが彼らである必要は無くなった。


飲食店や家政婦以外の子どもで、目利きに選ばれた者は、
歓楽街で身を売るのだ。

彼らこそ食には困らない、一見華やかな世界。

しかし何とか気に入って貰えれば金持ちの妾や愛人として自由は生活が手に入る一方、
盛りを過ぎれば職を失う。

12歳にもなれば店に出ていき、
20過ぎ、上手くいけば25,6で追い出される。

その間に何とか取り入って生きていくために、
子どもたちは必死になって身を売るのだ。
相手の希望に沿えば沿うほど拾われる確率は高い。

しかし売るものが売るものだ。
盛りで死ぬものも少なくなかった。







そんな世界に少年が身を投じたのは2年前だと思われる。







一人の暗殺者が喫茶店に入った。

そこは大して栄えていない町で、そういうところの方が取引というのは目立つものだが、
取引内容を知られたくない連中がやってこないからこそ利用し易い面もあった。

その取引前の男を殺すことが彼の仕事だった。

車は同じルートを通ることは調査済みだったため、
男はそれを確認しようと思っていたが、
立って待っていては怪しまれるだけだ。

そこで喫茶店に入ったのだ。

「いらっしゃいませ!」

元気良く声をかけてきた少年の髪型に僅かに動揺しながら、
珈琲とだけ注文し、外が見えるようにして座った。

そこ等辺に置いてある新聞をとると、
前にも見たような記事が一面を飾っている。
日付を見ても今日のものだ、日々新聞に載ることなど大体同じなのだ。

カウンターの向こうからさっきの威勢のよい少年の声が聞こえる。
「マスター、ボクが淹れちゃっていいんですか?」
「ああ、いいよ。」

ガキが淹れんのかよ。

店は小さい。
恐らくマスターと呼ばれる店主と少年しか従業員は居ないが、
マスターが忙しいほどは客が来ていない。

店主サボってんのか、最悪だな、ったくよぉ。

男は改めて珈琲の金額を見た。
どちらかといえば安いので、我慢することにしたのだが、
同時にこの金額でやっているいけるのか、ガラにもなく不安になった。

「お待たせしましたー!」

紫の瞳を持つ少年が自ら入れた珈琲を自ら運んできて丁寧に置いた。

妙なもんはいってねぇだろうな、と訝しげに飲む。

なんだか今日はあの印象的な髪型のせいで、何か変わってしまったのかと思うほど
ガラにもないことばかりだった。

「坊主、これ、てめぇが淹れたのか?」

配膳して戻ろうとする紅葉頭を呼び止めると、
少年はくるりと振り向いて、
にっこり笑い返事をした。

その時の出来事は良く覚えている。

こだわりなど殺し方以外は持っていなかったはずなのに、
その珈琲を美味いと感じたのは何故だろう。
ガキが淹れるというだけで不味いと考えていたからなのか?

だが、それ以降どんなに気をつけて味わっても、
あの珈琲以上のものにはめぐり合っていない。

別にあの少年が淹れたから美味かったわけではないだろう、
豆だの水だの、あのマスターの拘りがあったからだろうが。

「美味しかったですか?」
「ああ、まぁ。」

肯定するのもなんか癪で、適当に返事をしただけなのに、
えへへーと嬉しそうに笑った。

「子どもの癖に給仕だけじゃねぇのか。」

なぜこんなに話しているのだろう。
男は自分が暗殺者で、人に覚えられることほど拙いことはないというのに。

「マスターが脚を痛めちゃって。それで珈琲くらいなら今はボクが淹れてるんだ。」

少年は子どもらしく話すのが好きな様子で、
しかし子どもらしからぬ大人しさも持っていた。

「遊戯、ちょっと来てくれ。」

カウンターの奥から呼ばれて、遊戯と呼ばれた少年は呼ばれちゃったんで、失礼しますね!と
笑顔を振り撒いて去っていった。

万戸冨民政策が始まってから3年。
追いやられる人が増える中で、子どもたちが働くことは珍しくなくなったが、
何故か違和感を覚えた。

後になってわかったのだが、
少年が楽しんで仕事をしているのが珍しかったのだ。


男はその後、珈琲を全て飲み干してから去っていった。
彼は彼の仕事をするために。




翌年、新聞の一面には相変わらず同じ記事が載っている。
街の破壊状況を読んで誰が楽しいのかといえば、別に楽しいわけではなく、
廃品や人を拾いに行く為である。

そこに載っていた街の名前に、男はガラにもなく戦慄し、
思わず駆けつけた。



焼け野原以外何と言えばいいのか。



なにやら政府が新兵器の実験も兼ねていたというのだ、
無機質な破壊の前になすすべはなかったのだろう。
政府調査団がやってきて色々資料を持ち帰ったのちに男は其処へ入っていった。


「何だい、兄さん、見たとおり何にもねぇよ。廃品も人間もみぃんな持って行かれた後だ。」

突然声をかけて来た男に驚くこともなく、見ることなく、
「別に拾いもんに来たワケじゃぁねぇよ。」
と断って、振り返り、
「野次馬ってやつだ。何でも新兵器だったらしいじゃねぇか。」
とだけ言った。

仕事柄情報はあって損はないのだ。そう言うのは嘘ではないが、
本当に欲しかったのは、目の前にあったはずの喫茶店の珈琲だった。

それに気づいてか、いや偶然だとは思うが、
声をかけて来た旅姿の男は、まぁ俺もそんなもんだなぁと笑った後で語りだした。

「俺がこの街を出る前にな、ここには小さな喫茶店があったんだ。」

金持ちの次男が趣味で開いていたという。
次男といっても腹違いで、その親にとっては邪魔だったから、
彼が喫茶店を開きたいと言った時には、丁度良いと出資したらしい。

その喫茶店で一人の少年が働き出したのは3年前。
本当に子どもで、最初は色んな噂がたった。
隠し子だとか、店主の趣味だとか。
しかし現実は想像よりも普通なものだということは

少年の態度から解った。

「中々可愛い男の子でな、看板娘みたいなもんだった。」
「そいつ、死んだのか。」
「死体は出てない。・・・きっと拾われたんだろう。まだ12くらいだったから、良い値が付くだろうしな。」


その時に男はわかった。
自分が此処へきてしまった理由が。


「・・・今度、見つけたら拾ってやるか。」


そういい捨てて男は去った。








一度見たら忘れぬ髪形、
一度聞いたら忘れぬ名前。

「てめぇ、名前は?」


人の焼ける匂いと炎炎と燃える赤。
爆発によってほぼ崩れ落ち、
下の者は上の階の床の下敷きへ。
そして下から燃えてゆく。

誰も身内を持たぬものにとっては、此処で荼毘に付されたほうがマシかもしれなかった。


この殺戮の状態は男にとって相応だというものもいると思うが、
生憎男はこの情景は趣味ではなかった。
死の恐怖こそ殺されるものに与えられるものだと思っているからだ。


燃えゆく娼館に舞い戻ってきたのは、爆発に驚いたからだったが、
崩れ落ちた木材の間を歩いているのは、本能だった。

誰かが居ると感じた。

半焼けの押入れだったと思われる匣の中には、
少年が居た。


この少年を知っている。

知っている少年はエプロン姿のはずだが、
今はあでやかな着物を纏っている。


それでも男の知る少年に違いなかった。
だから名前を問いただした。

それに煙に咳き込みながら、少年は楓と名乗った。

「ちげぇよ。それじゃねぇ。」

苦しそうに呼吸しているだけだ。
それでも問い続ける。

「本当の名前を聞いている。」



一度見たら忘れぬ髪形、
一度聞いたら忘れぬ名前。



「ゆ、ゆうぎ・・・。」


火の粉が眼に入らぬようにと半分しか開かれていないが、
確かに其処には紫の宝石が埋め込まれていた。


「遊戯。」



男はそれだけ呟いて、小さな少年を拾い上げた。



それはあれから2年後のことだった。










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え?駄文の話?
ええ。まだ続きます。は、はいええ。

続ける必要もないんですけど、
脳から排出しておくか程度に続けます。
需要?無視無視

それにしても、遊戯の年齢を計算し間違えてる気がします。

遊戯の年齢

9・・・政策開始
10・・・サ店に拾われる
11・・・サ店であう
12・・・サ店崩壊 →娼館へ
13
14・・・バクラに拾われる

・・・あってるのか・・・?

まぁいいか。


(08.02.18)AL41