*リクエスト作品について

・主にキリバンを踏まれた方のリクエストに応じて書きます。
・リクエストされた方のみ転載可能です。
・その際、リンクは不要ですが、サイト名(H2A)と作者名(AL41 或いは 41)とだけはお添え下さい。
・一応、それなりに努力はしているので、改変・改編はお控えください。

・背景は自作です。転載の際はご自由にお使いください。
(転載のみ使用可能です。)
点線の下よりどうぞ。

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恐らく、安い。



650円




珍しく、遊戯が遅刻するという。

電話をしようとしたのだが、
電車の中で通話するのはダメなんだよ、と律儀なために、
メールでのやり取りを試みたのだが、
それすら途絶えてしまった。
遊戯が気づいていないか、電源を切ったかのどちらかだ。

確認したところ、
遊戯の乗っているだろう電車は、あと一駅まで来たところで、
他の駅で起きた人身事故の影響により止まったままらしい。
テレビでは箱詰めになった電車が時折映された。

事故か事件か知らないが、はた迷惑なものだ。

海馬は社長室から駅方面を見ていた。

見たところで遊戯が居るわけではないのだが。

折角時間が出来たというのに、こんな仕打ちがまっているとは、
理由が解せない。

確かに、少々突然すぎたということはある。
遊戯は今日、知り合いの見舞いに出かける都合が予めあったのだが、
海馬はそれを知らずに連絡した。

海馬としては折角出来た時間だから、会いたいと思うのは当然で、
その気持ちに遊戯が応じてくれ、
それで、遊戯は予定よりも少し早く切り上げて、此方へ来てくれるという。
駅前までは車を迎えに送っている。

1人が問題を起すと、こういう事態に陥る。
公共機関というのは不便なものだ、と、呟き、
遊戯が来るまで、出来るだけの仕事を終えようと机に向かった。


生憎、海馬は恐ろしいほどの集中力を持っており、
更に、自分が何時に仕事を始めたのかが解らないため、
結局何時間待っていたのかわからないが、
明るかった外は、すでに日が落ち始めていた。

「ごめんね、海馬君!!」

エレベーターを降りたところから走ってきたのだろう、
ドアを開けた遊戯は息が切れていた。

別に遊戯がいけないわけではないと、解ってはいるのだが、
一緒に居られたはずの時間を思うと、
悔しくてならない。
少し、機嫌が悪くなる。
我ながら子どもじみているな、と心の中で笑った。

「だいぶ遅れたな。」

いつも遅れるのは海馬のほうだ。
恐らく今まで遅れた時間を合計したら、
遊戯が今日、海馬を待たせた時間など、
足元にも及ばないほどだというのに。

それでも、遅刻した遊戯を一寸責めてしまう。

それに対して、遊戯は、自分に責任があるわけではないのに、
まるであるかのように、
申し訳なさそうな顔をして言い訳を述べるのだ。

「なんかね、事故があったあとで、また他で問題が起きたらしくてさぁ。
しかも、電車が詰まったらしくて、全然動かないんだよ。
もう、2時間近く閉じ込められちゃったよ。ごめんね。」

仕事をして待っていた海馬よりも、
ずっと遊戯の方が辛かっただろうと思うのだが。

「そうそう、それでね?」

遅刻しちゃったお詫びにね、
そう、遊戯は肩から提げていた鞄をゴソゴソさせて、
漸く出してきたのは、


「栄養ドリンク・・・?」

3本セットになっている。


余り見ないテレビのCMのうちから思い出したそれの、
売り文句を思い出すと笑ってしまった。

「海馬君のことだから、どうせ仕事詰めだと思ったんだよ。」

ボクなりに気を遣ってるの。
そうツンっとするのが可笑しくて、

「そんなに俺を働かせたいか。」

そうではないと解っているのだが、からかいたくなるのは、
遊戯の拗ねた顔さえ愛おしいからか。

そして案の定遊戯はより拗ねる。
「違うよ。」
「冗談だ。そんなに怒るな。」
机から離れ、遊戯の隣に腰を掛けて、
遊戯の愛情が篭った栄養ドリンクを取ってみた。
「そういうの、飲まない?」
「あまりな。」
「海馬君って飲み始めると止まらなさそうだよね。
それに毎日仕事漬けじゃあ、毎日飲む羽目になっちゃうもん。」
毎日飲むのはよくないって、じいちゃんが言ってたよ、と
そういう本人にはさっぱり無縁のものなのだろう。

「受け取っておこう。」

遊戯からの贈り物だと思えば、
それが何であれ嬉しいものだ。

ケースには値札が貼られたままで、398円と書いてあった。

遊戯の財布事情と彼の価値観を考えると、
自分のためには出さないだろう398円ではありそうだ。

遅刻した詫びと愛情をこめての398円なのだろうが。

一方、自分は遅刻しても何も渡したことはないと気づく。

確かに奢るのは自分だが、
それは言ってしまえば当たり前すぎる。
財力の違いでもあるのだが、
ボクは安いので良いという遊戯を強引に連れて行くのだから、
払うのが妥当ということか。

そう思うと、海馬は遊戯に、
遊戯が欲しいものを渡した記憶が無いのだ。
そもそも、遊戯は何が欲しいというのか。

知っているつもりで結構解らない。

知っているものは、1つだった。





数日後、海馬は他社へ出ていた。
仕事は一通り目を通し、時間が空いたので、外の景色を見ると、
1つの飲食店が目に映った。
そして、思い立つ。

仕事を終え、車に戻ると
さっき見かけた店に立ち寄るように注文を出す。
運転手は、普段であれば寄り道などしない雇用主が、珍しいと思った。

「瀬人様、何か買われるんですか?」
「ああ。お前はあの店を知っているのか?」
「ええ。アメリカサイズで中々食べ応えがあるとテレビの特集で言っていましたから。」
「そうか。」

この社長は、色々知っているようで世間知らずなのだ。
必要な情報を最大限に得ようとするが、
いらないものは本当にいらないらしく。
こんな飲食店に来る、寧ろ知っているとは、意外すぎる。
店先で問題を起すのではないかとさえ思ってしまう。

「私が買ってきましょうか?瀬人様は車でお待ちください。
お2つで宜しいのでしょう?」

思わぬ言葉に驚き、本来であれば自分で行くべきなのだと思いつつも甘んじて、
運転手が買いに行っている間に連絡をした。
頻繁に遊戯の家に寄らせているのだ。
海馬が何を考えているのか位運転手には知れているだろう。


「遊戯か?」
『うん。』
機嫌がよさそうな明るい声が聞こえる。

「暇か?」
『え?暇だよ。どうしたの?』
「今日も少し時間が取れそうだ。」
『え、ホントに?』
「ああ。今から社に来い。」
『解った。今から行くよ。』

今から、喜ぶ顔が目に浮かぶ。

運転手は割りと早く戻ってきて、
海馬の手にはまだ暖かい紙袋が渡された。
「いくらするんだ?」
「1つ650円です。」
「ろっぴゃ・・・あとで請求しておいてくれ。」
「はい。」

海馬社長の反応を見て、やはり自分が行ってよかったと思っていたことは、
運転手のうちに秘められたままだ。
思わず笑いそうになった口元は確り隠しておいた。



社にはすでに遊戯が待機しており、
モクバが居ないために1人で待っていたらしく、
ドアを開けるとまるで犬のように喜んでくれた。

・・・可愛いものだ。

だが、それでは足りない。
海馬はそんな遊戯を更に喜ばせたいと思って、
寄り道までして、運転手に買わせてきたのだ。

「どうしたの?海馬君。」

変な顔でもしていたのか、
遊戯は海馬を覗き込んでいたが、
手にしているものに気づき、
更にその紙袋に印刷されたロゴを見て目を輝かせた。

表情の豊かな遊戯だ、
見ればどんな気持ちなのかわかってしまう。

「待たせた詫びだ。」

「ほんとに!?」

今、遊戯に尻尾があるとするのなら、それは引きちぎれんばかりに振れていることだろう。

予想以上の反応に海馬も嬉しくなる。

「流石に好きなだけあって、知っていたか?」
「うん、知ってたよ。
此処らへんに全然なかったから、行きたかったんだけど、
でもうちから遠いし、行くだけで1つ分になっちゃうんだ。
だから、いけなくってさぁ。
それに安いやつでも380円するんだよ?」

人の為に398円払う割りに、
自分のためには380円払わないのだろう。

遊戯らしさに笑みがこぼれる。

遊戯に渡した紙袋から出てきたハンバーガーは、
海馬の予想以上の大きさで、
遊戯もまた同じだったらしく、歓声を上げる。

「おっきいね!パテが2枚も入ってるよ!?」
「そんなものを食べているからお前は小さいんだ。」
「えー?美味しいもの食べて体に悪いわけがないよ。」

どんな理屈だ。

「でもね、ここのは違うんだよ。いつも食べてるのとは一寸違うんだ。」
「高いだけあってか?」
「うん。」

高いといったって、
そんなに高くはない。
恐らくメニューにはもっと高いものがあっただろう。
ただ、高いと遊戯が恐縮するのは目に見えている。

予想以上に運転手は遊戯を知っているようだ。

解り易い性格だからか、或いは、
俺がそんなに遊戯のことを話しているかのどちらかだ。

遊戯はまだそのハンバーガーを観察している。

「絶対美味しいよ。」
「食べてみなければ解らないぞ。」
「だって、海馬君が買ってきてくれたんだからさ!」

そういわれて甘んじた自分を僅かに恨む。

「海馬君は食べないの?」
「後でな。くえるのならもう1つ食べても構わんぞ。」
「えー、自信ないなぁ。」

そういう顔は全く困った様子ではなく、
終始笑っている。

「じゃあ、いただきまーす!」

元気良くかぶりついた遊戯を、
海馬はただ見ているだけだった。

この笑顔が650円か。

お前の笑顔は、少々安すぎないか?

その前に、
650円で喜ぶ遊戯をみて喜んでいる自分も安い物だと感じた。

遊戯は何時だって笑ってくれるが、
今は特別だ。

そうだ、この笑顔に値段はつけられるわけがない。


そんな笑顔を独り占めしている自分。

「最高の贅沢だ。」

その呟きは必死にハンバーガーを頬張っている遊戯にも一応届いたらしいが、
不思議そうな目で見上げてくるのを、
「汚れている」と口の周りを拭いて誤魔化し、ただ眺め、
至福の時を過ごした。

遊戯がハンバーガーを平らげるまで。











(08.03.08)AL41


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2000Hit有難う御座いました!

栄養ドリンクの売り文句→愛情一本!
ちなみに一寸高いやつの3本パックです。
ただ、買ったこと無いので実情がよくわかりません。

ハンバーガー380円は充分安いと思うんですが、
遊戯の財布事情を考えて。

最近はあっさり1000円越えのものがあるらしいですけど、
アメリカサイズっていったって、アメリカで10ドルするわけも無いと思うんですよね。
でもでかいアメリカ的なハンバーガーが美味しいと思います。はい。







初リク作品だったわけですが。

文章の終え方ってわからないぜ。