*ニョタい
*その時点で別体(もう書く必要ないだろ・・・)
*ボクっ子
Magician's hand
まだ22の日本人マジシャン。
鋭い眼光はクールな印象を与え、人を寄せ付けまいといわんばかりだが、
それでも彼がテーブルの前に立てば、小柄な彼が見えないほどに人が集まり、
その鮮やかな手つきにうっとり見入り、騙される。
彼に騙される時、何故か酔ったような感覚に陥って、
思わず見破りたくなる者でさえ感嘆し拍手を贈るだけだ。
ハリウッドであらゆる称号を手に入れた彼、アテムが日本へやってくるという。
インタビュアー達は彼を質問攻めにするが、
所詮はワイドショーで流すものだ。
ゴシップの一つも出てくれば良いといわんばかりの低レベルなものばかりで、
特に「恋人は?」という質問にはアテムはポーカーフェイスを崩すことなく、
決まったように言う。
「大切なものは全て日本に置いてきました。」
4年前、アテムは高校を卒業してアメリカへ渡った。
彼の父親はマジシャンだった。
だがそう簡単には食べていけず、多くの者は冷笑する。
『そんなもので食べていけるわけが無い』と。
今になって思えば確かにそういわれるのも仕方がないと思うのだが、
当時父の奇術に心酔していた少年は、そう哂う者が許せなくて、
しかし父もまた『趣味は職業に出来ないものだな』と笑うので、
親に意志を告げることさえままならないまま、父の死を見送った。
通夜の最中でも、父の友人たちは彼がマジシャンとしては有能だったが、
食べていくには難しかったのだろうなと零していた。
それらは彼を駆り立てるには充分だった。
いつか父を哂った人人を騙してやりたいという意志は彼を突き動かす。
その目的のためには日本では限界があった、
だから、去ることに決めたのだ。
結果、大切なものまで手放す羽目になったのだ。
伝えようと試みてもどうしてもいえなくて、
その旨を伝えたのは一週間前になってしまった。
渡米すると告げた時、
そう、と一言言ったまま、何も言及しなかったその態度が申し訳なくて、
思わず謝ると、怒り出した。
そしてそれっきり顔を合わせることは無かった。
4年。
自分が22になったのだ。
向こうも22になっているはずだった。
連絡の一つも入れていない。
だが、共にアメリカへ夢を追ってやってきた友人からは、
結婚したとか、新しい恋人ができたとか、色々な話を時折聞いた。
友人も人伝で聞いただけなので情報は信憑性が無いといっていたが、
その話を聞いたときには二つの感情が胸を一杯に満たした。
自分には惜しいほどの人だったのだ。
新しい相手を見つけ、相手が相手ならば結婚の一つもしていそうなものだ。
寧ろ、誰かが心から彼女を愛していればそれが良かった。
自分よりもずっと強く、彼女を。
それに、もし、彼女が付き合って居なければ?
自分がトラウマを作ってしまったのではないか、と考えられた。
そんなことにはなっていて欲しくない、だから、相手が他の男であっても、
彼女を暖めてくれていればそれでいい。
だが同時に、後悔と独占欲は彼を責めた。
もっとはっきりと別れて居ればよかったのだ。
彼女はだらだらと引きずる人ではないのだから、思い出に出来たはずなのに。
だが、そうできなかったのは、
どこかで縛り付けておきたかったに違いないからだった。
彼はその混沌とした心を昇華すべく、ひたすら奇術へのめり込んだ。
時はあっけなく流れてしまう。
気が付けばハリウッドで会員制のクラブで名をはせている。
今まで知られていなかったアテムと言う名は朝のワイドショーでさえ聞けるようになっていた。
テレビをつけると、
夕方と同じ映像でもって芸能ニュースを流している。
明日の夕方、日本へ帰ってくるという。
お陰でここ2,3日同じ話題だ。
そしてアナウンサーもインタビュアーも飽きずに同じことをいうのだ。
カッコよくて、
知的で、
人当たりは良くないが礼儀はあり、
何より手に入れた称号は確か。
日本が誇る、マジシャン。
インタビュアーなどまるで、
最初から知ってました!有名になる前からずっと知ってたんです!
といわんばかりの口調だが、
彼がマジシャンを目指した理由も、どんな性格なのかも知らないくせに、
最初に見せてもらったのは自分だったのに、と思うたびに、
不快になって消した。
だが、あの映像を見て、コメントを聞いて必死に納得させようとしている。
自分の知っている人ではないのだ、と。
自分の知っているアテムと言う人間は、
確かに頭もよく顔も整ってはいるが、
ワガママで女々しくて、機械音痴で、
人の気持ちなんか考えられなくて、
マジシャンとは思えないほど不器用なのだ。
「ボクの好きだった人とは違うんだ。」
大学へ行って彼が食堂のテレビに写るたびに彼の話題になる。
周りは皆褒めているので一見賛同するフリをするが、
心の中ではそれを否定し続けている。
それなのに、何故だろう。
何故か空港に立っていた。
多くの報道陣が駆けつけている。
一部のファンもその姿を一目見ようとしており、ごった返していた。
彼女、遊戯は2階からそれを見ていた。
あんな集団の後ろにいては低身長故に見えるわけも無く、
かといって前にいては見つかってしまうかもしれない。
それに、周りで彼を噂する声は聞きたくなかった。
遊戯の側からは良く見えなかったが、
大量のフラッシュは彼の帰国を意味していた。
高鳴る。
黄色い歓声とインタビュアーの声で埋め尽くされた空間の中でも自分の鼓動が耳に届くほど。
そして、警備員の真ん中に
爪の先から靴の底まで全身真っ黒に身を包んだ姿があった。
もう、遠い人。
その状況は彼女をそう納得させるには充分で、
彼女と彼の間には余りに多くの隔たりがあって、
ただ同じ空間に居るこの状況が至近距離なのだ。
相変わらず無愛想な態度で通過していくその背中を、
別れの言葉と共に見送ろうと思っていただけなのに、
インタビュアーが何か声をかけ、男が一寸見上げた刹那、
サングラスの向こうの赤紫の瞳とかち合ってしまった。
見えない、でも解る。
背筋から熱くなる。
こっちはキャスケットを目深に被っているのだから、解らないはずなのに、
男はマネージャーと思しき人物に鞄を押し付けて、駆け出した。
周りの人間の驚き方を楽しむ間もなく、遊戯もまた駆け出す。
女子トイレに逃げ込めば良い話なのに、
何故そんなことも考えられなかったのか。
心のどこかで捕まりたいと思っていたからなのか。
エスカレーターを駆け上がり、
相手は完全に此方を目視していた。
空港は複雑な形をしていない。
エスカレーターを駆け上がるも、距離は離せない。
上への道を失った時、あとは長い長い直線を追い追われ、
遊戯は足でアテムに勝ったこともなく、
4年の間に足が速くなっていることも無く、
漸く角に差し掛かったところで捕らえられていた。
逃げようとしてもその腕はぐっと掴まれ、
後ろから確りと抱きしめられている。
肩越しに聞こえる息は呼吸困難になりそうなほど荒く、
喋られる状況でもなかった。
その間、遊戯は何と言えば良いのかをひたすら考えようと試みたが、
伝わる熱に思考力は鈍り何も考えられない。
「遊戯・・・。」
まだ整わぬ息の合間にそう呼ぶ。
その名を呼ぶことさえ厭い続けた4年間。
自分のせいで苦しめたのだ、以前のように『相棒』とは呼べなかった。
「・・・久しぶり、だね。」
当たり障りのない言葉で切り返す。
言葉には出来るだけ感情を籠めないようにして、遊戯はこらえた。
「4年ぶり、だな。」
「うん。」
「悪かった、すまなかった、ごめん。」
「・・・キミが4年前に言った、ボクが聞いた最後の言葉もそれだったね。」
「会えたら言いたいと思ってた。」
アテムは飛行機の中でずっと考えていたのだ。
何と言う声をかければいいのか。
日本には長く居られないが、その間意地でも見つけようと思っていたから。
その時にどういえば良いのかと、そればかりを考えていたが、
考えれば考えるほど答えは出てこない。
そして結局決まっていなかったのに、
何も考えられなかった頭はそう告げていた。
それはきっと、一番に伝えたいことだった。
僅かに緩んだ腕を払って、遊戯は久しぶりにその顔をみた。
身長は、悔しいが向こうの方が少し高くなっていて、
だが驚いたのは、顔は余りにも青かったことで、
「ちょ、ちょっと大丈夫!?水とか飲む?」
嫌味の一つも言うつもりだったのに、
素が出てしまってただのいい人になっていた。
「大丈夫だ。」
いつもそうなのだ。
大丈夫大丈夫と、そう言って無理に笑うのだが、
ある時は大丈夫といっていたが、当日に胃潰瘍で入院したのだ、信憑性はない。
遊戯は近くに座れるところを探して、座らせる。
しかし水を買いにいこうとしても、つかまれたままの腕は放されなかった。
「そんなに必死に掴まなくても大丈夫だよ。ボクは逃げないよ。」
「違う、俺が放したくない。」
「手放したのはキミのほうだよ。」
相手が自分より酷い状態だと何故か落ち着くものか、
遊戯は気づけば冷静になっていた。
それでさっきは言えなかった嫌味を言ってみるが。
「だから今度は放したくない。」
大丈夫な状態ではないからか通用しなかった、それどころか、
意表をつく言葉で今度は遊戯が動揺し、言葉を失った。
「日本に帰ったら、絶対に見つけて言おうと思ってた。」
「目的は、それじゃないでしょ?」
「一つのことに目的は複数あっても構わないだろう?」
「じゃあ、もう一つはお父さんの墓参りでしょ?」
「ああ。」
父に、報告を。
アメリカでマジシャンとして成功したということを。
「きっと喜んでるよ。ボクは良くわかってないけど、
キミはなんだか立派な賞を貰ったんでしょ?テレビで言ってた。」
テレビ、それが2人をつなぐ唯一のもののはずだったのに、
こんな風に並んで座っているのは何かおかしかった。
「そういえば、相変わらずボク人称なんだな。」
「ボクの時間は止まったままなんだ。」
4年前からね。
付け加えられた言葉にドクリと鳴った。
「4年前から何も変わってないよ。大学生にはなったけど、
何も変わってないと思う。全然ね。」
「俺も変わってない。」
「キミは変わったじゃない。」
知らないうちに、こんなに。
ボクの知ってるキミは、あんなにクールな人間じゃないよ。
そういうが、
アテムは、そうであるかのように見せるのが仕事だ、と笑う。
「基本的には何も変わってないんだ。
より高みのマジシャンを目指しているのも、奇術が好きなところも、
父親を尊敬していることも、言葉が足りないところも、
迷惑かけて、心配かけて、なんだか空回りしているところも。」
遊戯のことが好きなことも。
4年間、
人の心は変わりやすい。
乙女心と秋の空などというが、
乙女どころか人の心は変わりやすい。
それでも変わっていなかったというのだから、
4年前から時が止まっているとは言えそうだった。
「遊戯。」
「何?」
「俺は止まった時を、俺が止めてしまった時をもう一度動かさなきゃいけないんだ。」
「どうやって?」
手品でも、するの?
遊戯は笑っているが、アテムは笑えないのだ。
真剣だと示さなければいけないから、
ポーカーフェイスはかなぐり捨てて、ダサいヤツにならなければいけない。
それでいい。
ダサいヤツに成れるのは遊戯の前だけなのだから。
「遊戯、俺はもう一度やり直したい。」
思いっきりお前が俺をふってくれれば良い。
中途半端に繋がったままの2人をつなぐ、細い鎖を断ち切ればいい。
だが、予想できない。
彼女は計算できない。
アテムは4年前と同じような衝撃を受けた、
そう、としか言って貰えずに困惑したあの時と同じように。
「やり直す?何を?」
「何を、って。」
「やり直すも何も、終わってないじゃない。」
キミは、終わらせたつもり?
「俺は終わらせるべきだった。」
「ボクも終わったことにしようと思ってた。
それでね、他の人と付き合ったりしたよ。二股っていうか浮気っていうか、
相手は秘密だけどね。」
キミを忘れようとしてたのかな。
キミが思い出になって美化されてたのかな。
「全然なんだ。何か違うんだ。」
旅行にも連れて行ってくれたよ、指輪もくれたよ、
結婚しないか、って言われた。
「でも、はい、なんて言えないじゃない。他に好きな人がいるのにさ。」
言ったでしょ?
「ボクも4年前から変わってないんだ。」
終わってなかったことにしたいんだ。
「別にキミがアメリカで浮気してたって構わないよ。」
「してない。」
人気あるのに勿体無いね!と笑い流すが、事実だった。
彼女の言葉がまやかしなのか、一流のマジシャンにもわからない。
「ずっとしてなかったから、キスの仕方も忘れそうだ。」
そう言い訳をつけて、腰ごと引き寄せると、
彼女はクスリと笑う。
ふとアテムは手袋を外した。
マジシャンは手を見られる仕事だから、何時もは手袋をして守っている。
日々技を磨こうとして手品のために変わっていった手。
だが、今はマジシャンとして接していたくない。
普段なら手段の一つとして利用する言葉が、今は本当の言葉なのだと、伝えたい。
遊戯はその手をそっととって呟く。
「キミの手はマジシャンの手だね。」
「今はマジシャンじゃない。」
「キミは何時だってマジシャンだったよ。
つなぐだけでボクを安心させることが出来る、魔術師のようなキミとその手。」
そうそっと手をつないでくる遊戯を一層手に入れたくて、
感情のなすがままに。
4年ぶりの感触。
「本当に忘れてたの?」
妙に手際がいいじゃない、と責めるような言葉は戯れの口調で告げられるから、
本能、とだけ答えて笑い返す。
「もう行かないと駄目なんだ。」
「いや、ホテルには自分で行くと言ってある。」
「日本にはどれくらい居るの?」
「一週間だけだ。」
「仕事でしょ?」
こんなに身分が違うと、会えないよね、仕方ないよねと笑う。
いつもそうなのだ。
仕方ない仕方ないと、そう言って無理に笑うのだが、
ある時は仕方ないよねと言いつつ上着を掴んでいたこともあるので、信憑性は無い。
「その時はお前を連れて行きたい。」
寂しいのはお前だけじゃない、
荷物なんて向こうでそろえればいい、といってみても、
「ボクだって就職先決まってるんだ。」
知り合いのゲーム屋さんで働いてて、そのままそこで働くことになったんだ。
ゲーム屋さんって言っても、販売だけじゃなくって、
カジノみたいな感じ、と説明して、気に入ってるんだよ?と付け加える。
「それでも俺が連れて行きたいと言ったら?」
「勝負しよう?」
M&Wって知ってる?
彼女が一流の勝負師。
ゲームの才能はうらやむほどだった。
だが、M&Wでは勝機がある。
「俺が勝ったら意地でも連れて行く。取材で公言してやるぜ?」
日本に置いてきた大切な人を連れてきました、と。
「じゃあ、ボクが勝ったら、指輪ね。」
「指輪?」
「そうだよ。」
左手の薬指にはまるような。
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ニョタで初闇表
これって別にニョタじゃなくてもいいんじゃね?なネタでした。
(08.02.23)AL41