*傾城と似ていますが、別次元の話です
刺される刺客
瀬人の惚れ方は凄かった。
社長という地位が無くとも、そこそこ人気のある瀬人が、
あれだけ執着したのは恐らく青眼の白龍以来だと思う。
彼女の前となれば、色目でみやって、
彼女が居ないところであれば、まるで彼女が自分のものかのように振舞うが、
未だに告白すら出来ていない。
彼女はまだ高校生で世界も狭いからといって、
急ぐ必要は無いと思っているわけではない。
機会が訪れないのだ。
その上はっきり伝えても、何故か曲折するらしく、
本意が伝わらない。
もどかしいこの距離の間に、
刺客は潜んでいる。
瀬人は仕事で帰りが遅い。
だが、それでも何とか彼女、遊戯を呼び出そうと、
今夜は夕食に誘ったのだ。
夕方から邸へ招けば、モクバはいるので、
何かと時間は潰してくれるだろう。
易きところに難あり
モクバは早めにやって来た遊戯とゲームを、
正確に言えば、モクバもカプモンに遊戯が付き合ってくれたのだ。
遊戯は家がゲーム屋なだけあって、知識量がハンパで無い上、
感と頭の回転が恐ろしいほど良い。
成績は良く無いらしいがそういうのとは別の次元で、
鍛えようと思ってもそう簡単な話では無いだろう。
お陰で、一応大会優勝経験のあるモクバでも遊戯には歯が立たない。
色々、理由はあるわけだが。
まず、思わず目が行ってしまうのだ。
此方へ向ける紫の目だとか、
モンスターを掴む指だとか。
しかも、何やら楽しそうにニコニコと笑っている。
普段は健気な弟だが、
ふわりと笑う彼女が、兄のものになるのはなんか悔しい。
兄は何だって持っているのだ。
悔しいじゃないか。
そんな事を考えるから、尚のこと遊戯に瞬殺されている。
「遊戯は相変わらず強いよなぁ。
「モクバ君、本気出して無いでしょ?」
本気を出していないというよりは、出せていないのかもしれないが。
「ちぇー、兄サマにも絶対負けるし、連敗だぜ。」
ゲーム以外も連敗だ。
「兄サマはオレの誇りだけど、ある意味コンプレックスってやつ?
すぐに比べられさ、いっつも勝てないんだぜ?
そりゃ、兄サマに方がずっと上なんだけどさ・・・。」
モクバがそうちょっと拗ねると、遊戯は笑って、
その後に羨ましがるのだ。
「いいよね、兄弟とかいると、いつでも遊べるし、ボクは羨ましいよ。
それに、モクバ君には5年のハンデがあるんだからさ、
5年後のキミと海馬君を比べなきゃずるいよね。」
5年後。
今の兄や遊戯と同い年になる。
「なぁ、遊戯。」
17歳になったオレは、
「オレは兄サマと並べるかな。」
兄サマより上を行かなきゃ、
兄サマにさえ振り向かない遊戯を振り向かせるなんて無理だろ?
遊戯は、むーっと考えた後で、言ってくれた。
「別に海馬君と並ぶ必要は無いんじゃない?」
「えー?」
「モクバ君はモクバ君だよ。海馬君とは違うし、
二人とも同じだったらつまらないじゃない。」
でもね?
「きっとモクバ君も出来る人だよ。将来が有望だね!」
楽しみ、と笑う遊戯。
5年後、どんな形で接しているのかわからないが、
「オレは兄サマより出来る大人になってやるぜ!」
遊戯の期待に応えたいじゃないか。
そう、下心含め本気でそう思ったのに、
「頼もしいなぁ。
いいなぁ、こういう弟がボクにもいればいいのに!」
何でこうも微妙にすれ違うのだろう。
だが、
棚ボタ?
モクバがまだ小学生だから?
モクバは遊戯に背後からぎゅうっと抱きしめられた。
肌の柔らかさは薄着になり始めた服越しに伝わって、
しかもなんか、シャンプーだろうか、甘い香りがして、
小学生さながらドキリとする。
小学生といったって、もう高学年だ。
恥ずかしい。
「ちょ、ちょっと、遊戯!!」
逃げようとするとより強く捉えられて、
後ろへと転がった。
目線には遊戯の覗き込む顔。
気づけば遊戯の膝の上だ。
「(ひ、膝枕!?)」
遊戯の腕は肩を押さえ込んでいて、
本気をだせば逃げられるのだろうが、
逃げないのも選択肢だ。
「も、もう驚かせんなよー。」
「だって、こういうのはちょっとアコガレなんだよ。」
ボクにも弟がいればいいのに。
「海馬君が羨ましいな。」
遊戯の笑顔は、伝染るのだろうか、
モクバは恥ずかしさもありながら、思わず釣られて笑っていた。
偶にはこういう役だっていいよな。
役得ってやつ?
もうしばらくそうしていたいが、
兄はそんなに甘い人間ではなかった。
ノックのあとで、
開かれたドア。
兄。
兄の眼に映るは、
いとしの人に膝枕をされている弟。
双方凍りつく。
「あ、海馬君お帰りー。」
動いているのは遊戯のみ。
暖かな笑顔に融け始める。
「あ、ああ、遊戯、来ていたか。」
「うん。モクバ君が遊んでくれたんだ。」
瀬人もしてもらったことが無い膝枕上の弟。
「今ね、海馬君は羨ましいね、って話してたんだよ。」
弟の方がよっぽど羨ましいのだが。
「だって、モクバ君みたいな出来のいい弟が居るなんて、いいよね!」
ほう。
瀬人は漸く楽しそうに笑う。
「モクバみたいな弟が欲しいか?」
近くの椅子へ座り、そう意味深に問いかけてくるが、
遊戯はその意味深さは微塵も感じておらず、
うん、と素直に頷いている。
「モクバが弟に出来る方法があるんだが。」
膝上の弟は意味を知る。
義弟というやつだ。
兄と遊戯が結婚すれば、
モクバは義弟になる。
つまり、遊戯の弟になるわけだ。
ああ、兄にとっては最高だろう。
友人以上恋人未満であれば、
解りうる冗談。
恋人であれば、ちょっと本気の冗談。
だが、
瀬人の積極的なアプローチにさえ気づかない遊戯は
そんなことに気づくわけも無く。
うーん、と考えた後で、
「それじゃあ、海馬君が寂しいじゃない。」
どうしたらそこへ辿り着く?
「武藤モクバかぁ、なんか変だね!」
ゲンナリしている兄の隙をみて漸く体を起した弟は、
ちょっと勝ち誇りつつも、
落胆ぶりに同情してしまう。
その様子には流石に遊戯も気づいたが、
理由は誤って認識しており、
「海馬遊戯?・・・やっぱり変だね。」
とどめ、
その上2人ともにぐっさりと刺さった。
路は長い。
-----------------------------------
遊戯は最初モクバが武藤家へ養子に来ると考え、
違うんなら、自分が海馬家へ「養女」になるのか?と考えています。
駄目すぎる、遊戯・・・
前途多難。
(08.03.19)AL41