*オチ見えすぎ(苦笑)
*ボクっ子
売約済み
遊戯は休日なのに何時もより早く目が覚めたので、
午前中から一寸商店街まで出かけていた。
そしてやっと気づいた。
「今日って、お雛様だったんだ。」
3月3日。桃の節句。
遊戯の家も、何といっても女の子1人。
子供の頃は母親と一緒に雛人形を飾ったりしたものだが、
賑やかな雛壇に対峙するとき、
自分が1人であることが急に辛くなるようになった。
それっきり、すっかり出さなくなってしまったのだ。
お陰ですっかり忘れていたのだが。
まぁ、今気づかずとも夕食は散らし寿司かなにかで、
結局今日中には気づくだろうとは思うのだが。
「(じゃあ、今日のおやつは雛あられかな〜。)」
などと思い、
スーパーへ足を向ける。
安くなるのは今日の夕方だろうけれど、
丁度甘い物も食べたいし、と食欲には正直。
スーパーへ来ると、色々なものが目に入る。
店というのに情緒はなく、
すでに「ホワイトデー」などという看板があり、
女の子が喜びそうなものが陳列されている。
恐らく、男子が買うより女子が買う数の方が多いのではないかとさえ思うのだが。
普段ならヒョロヒョロと流れてしまう遊戯だが、
今日は雛あられの日。
浮気はしないもん、と誘惑には流されない。
それに、どうせなら処分品になってからの方が安いに決まっている!
雛あられは安いから大した問題ではないのだが、
チョコレートは無駄に高い!
一般庶民の財布事情である遊戯は、
母親に似て賢く育ったらしい。
勉強の方はからきしなのだが。
何となく製菓材料の前を通ると、マドレーヌの写真が目に入って、
おやつにつくろうかな、と結局浮気。
思わず材料を探しにウロウロ。
ただ、それでも雛あられを忘れたわけではない。
それにしてもスーパーには、遊戯と同世代の人が余り居ない。
「みんなこんな時間には来ないのかな・・・。」
何してるんだろう、と考えてみても、
生憎友人の少ない遊戯には参考になる例が殆ど無く、
杏子がバイトに行っていることだけは解ったのだが。
一寸した誘惑には負けマドレーヌの材料を持ちつつも、
雛あられの間合いへ。
可愛らしいパステルカラーのコロコロとしたものが、
透明の可愛らしい袋に一杯詰まっている。
ただ甘いだけの雛あられだが、
この時期しか食べられない気がして、なにやら特別なものになる。
「(1人で食べたら太っちゃうかなー。)」
満足そうに手にとって、
レジへ向かうと、レジ自体はソコソコ込んでいる。
大人しく並んでいると、後ろに奥様らしいが、
2人ほど話をしながら並んできた。
「うち、やっと昨日、雛人形だしたのよ。」
「あなたのお宅は女の子だものね。
うちなんか男しか居ないから、さっぱり無縁よ。」
「うちもね、もう出さなくてもいいかしらって思ってたんだけど、
『出さないとお嫁にいけないから出して!』っていうものだから、ついね。」
お、お嫁に、行けない・・・????
「そういえば、何か聞いた事があるわね。」
「うちの子なんか、もうほんとに出来も悪いし、
せめて結婚くらいはさせてあげたいからねぇ。」
え・・・
うち、もう数年間出してないよ?
お雛様ずっとしまいっぱなしだし、
押入れの本当に奥のほうに入ってるだろうし、
でも、今日これから出すなんて、
ママにも迷惑だし・・・
お客様、と呼ばれる声にも気づかないほど、
無意味に落胆する。
手に持っていた雛あられでさえ虚しく見えた。
休日だったが、私事よりも仕事を優先してしまう癖は一生治らないだろう。
海馬は相変わらず車の中だ。
とは言っても、今日は午前中しか予定は入れていなかったし、
急ぎの仕事があるわけでもない。
海馬にとっては優雅な休日といえよう。
その為か気持ち悪いほどに機嫌がよく、
運転手も特別手当をいつも以上に期待したいほどだ。
笑う門には福来るというのだろうか。
遊戯を見つけたのだ。
だが、なにやら一寸ばかり表情が重い。
「俯いているのも絵になるものだ。」
その一言に、運転手は、止めろと言われる前に車を止める。
余りに知れている自分の性格に、苦笑しつつも海馬は満足げに車を降りた。
俯いている遊戯は海馬に気づかず、スルー。
ここで声をかけては、何時もと同じだ。
今日が余りにいい日だったからか、車から降りた海馬は、
普段の社会人から、割と普通の17歳へ変わっていく。
遊戯の後をつける。
どうしても遊戯の方が一歩が短いので、
海馬が普通に歩いては一瞬で追い抜いてしまうのは考えるまでも無い。
他から見れば怪しいだけなのだが、
とぼとぼと歩く少女の後ろを、無駄に背の高い男がゆっくりと付いていく。
その間ずっと観察していたが、
周りを見る様子も無く、
肩はがっくり落とされている。
このままでは信号さえ無視をしてしまいそうな気さえして、
海馬はとうとう遊戯に近づき声をかけた。
「アイスグリーンのカーディガンがよくお似合いですね。」
何時と声色を変えて、
まるで軟派でもするかのように声をかければ、
遊戯はビクリと反応し、
え、いや、と赤く染まった顔を此方へ向けて、
声の主を見るなり、紫の瞳をいつも以上に見開いて、
本気で驚き、転びそうになるものだから、
思わず手を伸ばし、支えてしまう。
「か、海馬君!?こんなところで何してるの!?」
「俺もこの町に住んでいるのだが、何か可笑しいか?」
おかしいよ!と
驚かされた恨みは消えていないらしい。
遊戯は、あんな風に驚かして、もう、人に変な目で見られるでしょ!?と
そういう意味でお怒りなのだが、
傍から見れば、
さっきの怪しい男はすっかり普通の男に戻っていたのは知らないだろう。
「車から見かけたお前が、俯いて歩いていたものだから、一寸からかいたくなっただけだ。」
タネを明かせば何時もと同じだった。
「もう。本当に驚いたんだから。」
「何だ、あんな風に声をかけられることはないのか?」
「無いよ。」
「ロクなヤツが居ないものだ。」
突然だいぶ話が逸れた気がして、遊戯の頭には疑問符が出現している。
「海馬君は、ボクがナンパされてた方が良いの?」
「お前ほどなら声をかけにくいということか。それとも俺の影でもあるのか?」
「意味わかんないよ。」
「まぁいい。」
まぁいいも何も、会話は成立していないのだが。
「遊戯、暇か?」
「暇、じゃないよ。」
暇、じゃ、ない・・・だと・・・?
「何故だ?」
「ちょっと・・・ね・・・。それに海馬君も暇じゃないでしょ?」
「俺は今日午後からは全く予定が無い。」
「珍しいね!」
海馬の用が無いなどと、一年のうちに数日あるかないかだと思っている遊戯は、
ちょっとそそられる。
でも。
渋る遊戯を
とりあえず、家まで送るという名目で遊戯を車にのせる。
着くまでに丸め込めば良い。
「お前は俺に退屈な午後を過ごせというのか?」
「そんなんじゃないけど、だってモクバ君も居るでしょ?」
「モクバもお前に会いたがっている。」
「うーん・・・じゃあ後で行くよ。」
「なんだ、そんなにやらなければならないことなのか?」
「やらないとボク、お嫁にいけないもん。」
お嫁?
言った後に遊戯ははっと、口を押さえるが、
すでにお嫁という言葉は空気を振動させ、海馬の耳へと届いていた。
「嫁、だと?」
「・・・非い科学的だよ。」
「意味が解らん。」
意地でも聞き出してくるだろう彼の性格はよくわかっている。
さっさと吐いてしまおう。
「今日さ、何の日か知ってる?」
「今日・・・?ああ、桃の節句か。」
「そうそう。お雛様出すじゃない。あ、海馬君の家は出さないと思うけど。」
知ってる?
「どうせ、単なる迷信だって解ってるんだけどさ。」
お雛様出さないと、お嫁にいけないんだって。
「ボクんち、もう何年も出してないから、ボクお嫁にいけないかもしれない。」
だから、これからだそうかなって。
無論言うまでも無い。
海馬はクツクツと大爆笑した。
「遊戯、お前は、何処までも可愛い奴だ。」
「なにそれぇ・・・。ボク本気だよ。迷信だって解ってるけどさ。」
「そうだな。迷信に違いない。心配するな。
そもそも仕舞うのが遅れると、婚期が贈れるというものではないか?」
遅れるも何も、早いかも知れんぞ?
遊戯、お前はどこまで鈍い?
「雛人形など出さなくて構わない。」
「何で?」
「お前はすでに売約済みだ。買手が誰かなどと言うまでも無いだろう?」
「えっ、って、ちょ、ちょっと、さぁ、待ってよ」
遊戯の顔を見れば、流石に伝わったと思われる。
「そうだな、結婚式には十二単でも用意してやろうか。俺は勘弁だが。」
「海馬君は、ボクと結婚する気なの!?」
「無論だ。できるならば今すぐにでも。」
「気が早すぎるよ!」
「まぁ、そうだな。暫く、恋人という関係を楽しむのも悪くは無いか。」
「そうじゃなくってさぁ・・・。」
何を言っても無駄だと、一番解っているのは遊戯だったし、
正直なところ嬉しかったのだが、素直にそういうのも悔しいので、
拗ねたフリをして黙っていた。
腕の中は、春の日差しのように暖かかった。
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ひなまつり
社長は結婚前提で遊戯と付き合ってる気がする。
アテムは兎に角今の幸せを願って付き合ってる気がする。
バクラは遊戯の記憶に最も色濃く残ろうとしてる気がする。
城之内だったら、兎に角青春の1ページとして、かな。
(08.03.03)AL41