染めの一手  





パチリパチリと、白を黒へと染めてゆく。

碁盤目の緑の板はすっかり黒に塗りつぶされていた。


「意外だな。」
「ボク弱いんだよ、これ・・・。」

海馬君は何でも出来るね、と苦笑いしている。


決闘では勝てないのだが、
これだけは全戦全勝だった。

別に遊戯が悪いわけではないのだ。
自分であればそこを狙うと思うところへ置いてくる。
ただ、ふと判断を誤るために、
あっさり隙をつくことが出来る。

「これくらいは勝たせてもらわないとな。」

2人のゲームにおける勝率は半々で、
海馬でもそこそこ楽しめた。

負けることは悔しいのだが、
遊戯がゲームにおいて、面白いほど先を読むのが手に取るように解る。
海馬が一瞬でも己の手に溺れれば、
それをあっさり出し抜いて、
気づけば土俵に取り残されている。

気が抜けない。

世間的にはゲームなど、息抜きなのだろうが、
海馬は一切手を抜けず、頭は働かされている。
しかしそれでも仕事による疲れはふっと癒されるのだ。

恐らく、楽しんでいる。

「だって、ゲームだもん。楽しまなきゃね!」

遊戯はいつだってそうだ。
いつだって楽しんでいる。

そういう性格がふと羨ましくなることがある。


どこの誰かが言う。
恋愛はゲームだ、と。

それは駆け引きのことを言っているのだと思うのだが、
ゲームほど容易ではないと感じる。

ゲームであればどれだけ楽なことか。


「・・・?海馬君どうしたの?」
「いや、どうもしていないが。」
「何か、考え事って感じ。」

遊戯の強さは観察力なのだろうか。
よく言い当てられる。

だが、その観察力でもう少し此方の胸中に向けて欲しいのだが。

「単純なのに、凄く疲れるんだよね・・・これ・・・。」

遊戯はそういって、
7割がた黒に染まった板を眺めている。

「単純なものを難しく考えようとするからだ。」

そんなこといったってさー、と膨れてから、
もう一戦挑んできた。

「じゃあ、もう何も考え無いね!」

そういう話でもないのだが。

遊戯はまめまめしく石を同じ数だけ戻して、
4つ置き、
もう一度。

パチリと黒が増えるたびに、
遊戯は難しい顔をして、
あうー、と唸りながらあの手この手で何とか攻めてくる。
その様子に魅入りつつも、
白の懐へ潜り込む。

海馬の手を探ろうと色々考えている。

時々、あ、とか、でも、と声を上げて、
1人でも充分に楽しんでいるのだが、
その様子を見るだけで、海馬も楽しくなった。

真剣に挑んでくる、真摯な態度が、海馬の心を擽る。

自分だって何時も真剣だというのに、
遊戯の心には届いていないらしい。

そんな風に、気が散っていたからだろうか。

遊戯は中々良い場所へと石を置いた。

「そう来たか。」
「えへへー。海馬君が難しく考えるなって言ったからだよ。」

恐らく海馬の言葉だけではないのだろうが。

「だが俺はお前の上を行く。」

パチリと置けば、
再び白は黒へ染まる。

逃げの一手だったのだが、
なにやら言葉に翻弄されたらしく、
また難しい顔をして、海馬の手を読もうとしている。

塩を送ってしまったか、と笑いつつも、
そういったのは自分なのだが、
若しかしたら自分もそうなのかもしれない。
そう、思い至るのだ。

遊戯を振り向かせるために、
色々試行錯誤してきたのだが、
だが、それは反対で、遊戯に伝わりにくくしているのかもしれない。

もっと単純な言葉で単純な行動で、
遊戯に伝えればいいのだろうか。

単純な言葉。
単純な行動。

それだけで遊戯の心へ伝わるのだろうか。

結局考えすぎた遊戯が、
またまた判断をミスして、
そこをついた海馬にあっさり攻め込まれる。

板の上は、再び黒く染められていた。

「また負けちゃったよ。」
「俺も早々負けられん。」


遊戯は駒を見てそういう。
海馬は遊戯を見てそう思う。

海馬のゲームは板の上ではない。

さっきの遊戯の会心の一手、
それを、今度は海馬が、海馬のゲームのうえで返して見せたい。


行動力だけは無駄に良い海馬は、
すっと立ち上がって、不思議そうに此方を見上げていた遊戯の隣に座る。
「遊戯。」

海馬が突拍子もない行動をすることは、
最近慣れてきて、
まぁ自分には考えられない何かがあるのだろうと遊戯はそう思う。

そしてそれは本当に考えもつかなかった。


いきなり背中から抱きしめてきたのだ。


「海馬君!?」
「単純な行動に出たまでだ。」
「え・・・?」


海馬の顔も見えず、動きも封じられ、
そのうえ行動が理解できない。

「単純なものを複雑に考えるからだと言っただろう?」
「単純に考えればいいのかな・・・?」

うーん、と気恥ずかしさの中で考えて考えて、
だが答えは出ずに。

「・・・わかんないって。」
「遊戯、これはゲームだ。お前は逃げるのか?」

ゲームといわれてしまうと、逃げにくい。

「うーん・・・寒いとか?」
「違う。」
「・・・考えるから、ちょっと離して・・・?」
「何故だ?」
「恥ずかしいじゃない。」

「何故恥ずかしい?」


どうして恥ずかしいのだろう。

思えば城之内なんかにはしょっちゅう抱えあげられたりしているというのに。


「・・・わかんないよ・・・自分でも・・・。」
「成程な。俺は解った。」
「?」

遊戯は知らないのだ。
遊戯自身が海馬をどう思っているのか。

「遊戯、お前にとって俺は何だ?」
「・・・言いにくいけど、友達。」
「貴様の“お友達”とこうしたって恥ずかしくは無いのだろう?」
「え、あ、う、うん。」
「つまり、俺はお友達ではない。」

普段なら意識ないことが、意識される。

「じゃあ、何なんだろう・・・。」

遊戯は知らないのだ。
友情以上のものを。

「教えてやろうか。」


遊戯を腕に閉じ込めたまま、そっと耳元に囁いた。

単純な言葉。


海馬の一手で、遊戯は赤く染まった。





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甘め?

海表久しぶりですが。

初々しい感じはもっと久しぶりかもしれません。





(08.03.28)AL41