遊戯をどこかに連れて行くなど、動作も無いことだ。
飛行機やホテルの予約などいれずとも、簡単に連れ出せる。
だが、そうはできない理由はひとつ、
時間が無い。
室内旅行
時は金なりとはよくいったものだ。
だが、その命題に対偶は成立しない。
それを体現していると言えた。
連休ともなれば、会社まで遊びに来る遊戯を、
時間が無いために近くの別荘に連れて行くことすら出来ないのだ。
その上まともに相手をすることも出来ず、専ら弟とばかり遊んでいて、
時間になるとまたねといって帰り、不満の1つも言わない。
出来すぎた恋人に物足りなささえ感じる始末。
己の貪欲さにゲンナリしながらも、
より多くを求めてしまう。
「遊戯、お前は行きたいところもないのか?」
何時ものようにパソコンから目を放した先には遊戯が居て、
何時ものように遊んでいる。
声をかけられ、ひょこりと顔をあげるが、
小さくうなった後で、「ないよ」というだけだ。
「お前は無欲すぎないか?」
「そんなこと無いよ。邪魔だと思っても遊びに来るくらいにはあるよ。」
「ならせいぜい邪魔したらどうだ。お前はさっきから、俺が話しかけない限り、
俺に声をかけることすらしていないんだが。」
「だって邪魔になるじゃん。」
「邪魔しにきたのではないのか?」
「邪魔して欲しいの?」
「お前が何かしたところで大した邪魔にはならん。」
邪魔だと思ってくるのが間違っている。
そもそもさっきの「無いよ」の前のうなり声はなんなのだ?
「何か言いたげだったように見えたんだが?」
「えー、何かすっごく因縁つけてるようにしか見えないよ。」
そうに違いないわけだが。
「じゃあね、海行きたい。」
「泳ぎたいのか?」
「違うよ。何となく。」
予想以上にまともな返答が帰ってきて拍子抜けしそうだったが、
要望があれば、時間をとって連れて行けなくも無い。
無論今の仕事を片付け終わる春先のことになるのだが。
「春なら足くらい入れるかな。」
「場所によっては泳げるだろう?入りたいのか?」
海に行く目的など、
入って泳ぐか、人のよっては焼くくらいしかないだろう。
「足くらい入れたいなーと思って。海って偶に行きたくなるんだよね。」
義父の買ったプライベートビーチが残っていたはずだ。
売ろうと思っていたが、まだ止めておこう。
「海馬君は海行きたくならないの?」
ならないと言ったら機嫌を損ねるだろうか。
「海にこだわりは無いが、羽は伸ばしたくなるな。」
海馬君でもなるんだー、などと笑って、
「ほら、人は海から上がってきたとかっていうじゃない?」
確かに進化の過程をたどれば、海洋生物という話はある。
だが、所詮は解明されていない話だ。
「第六感というやつか。理解の範疇ではない。」
「海に行くとさ、行くっていうより還るって気がするんだよね。」
だから、無性に行きたくなるんだ。
泳ぐつもりじゃないんだけどね。
遊戯はそういうが、
でも忙しいから時間取れないよね、というのだ。
「すぐにと言うわけには行かないが、春になれば時間もとれるだろう。」
「期待しないで待ってるよ。」
すっかり此方のことは読まれていて、立場が無い。
遊戯の持たぬものを、多くの人が欲しがるものを持ち合わせているというのに、
海馬はまともに遊戯を喜ばせることも出来ず、
彼の希望をかなえることも出来ず、
いつもこうなって終わってしまい、無意識のうちに心持落ち込み気味になっている。
反対に、
こういう話題が出るたびに、遊戯は居た堪れなくなるのだ。
遊戯は海馬と何処かへいけないことを其処まで苦に思っているわけでもない。
ガツガツ働いている海馬は嫌いではないし、
彼にとって仕事がどれだけの存在であるかはある程度理解しているつもりなので、
仕事と自分を天秤にかけろ等と言う気はさっぱり無い。
「絶対に連れて行ってよ」と言えば喜ぶには違いないのだが、
性格が性格なだけに、無理をするのは当然で、
ばつが悪い。
そして苦心するのだ。
海馬が遊戯に笑っていて欲しいと願うのと同じ、
遊戯だって海馬にはこれ以上気難しい顔をして欲しくない。
読んでいた漫画を机に置いて、また仕事に取り掛かろうとしていた海馬の元へ近寄って、
膝の上に乗っかってやった。
珍しい行動に、嬉しいやら不思議やらで海馬が動けずにいるのを良い事に、
知識と余計な心配が無駄に詰め込まれている頭をがっちり両手で掴み、
珍しく見下ろしてやるのだ。
見上げてくる遊戯が、弱弱しい小動物であるのなら、
見下ろしてくる遊戯は、猛禽類にも見える。
此方が虎のように啼き吼えたところで気にも留めず、
どう足掻いても攻撃できぬもの。
「ゆ、遊戯・・・?」
目を逸らすことは許されず、
兎に角全ての感覚で以って備えるだけだ。
遊戯はただ海馬を目を見ている。
淀んでいると感じた。
いつもであれば、
「海馬君の目ってさ、青くて澄んでるよね。
普段、こうしてる時は結構穏やかでさ、暖かい感じなのに
割と荒々しくて、すぐに他人を巻き込んで被害を出すんだ。」
海に、似てる。
「さっき言ったでしょ?偶に海に行きたくなるって、海に入りたくなるんだ。
でも、キミは忙しいことくらいボクにだってわかる。」
それでキミが一々必要ない責任を感じちゃうんだ。
でもね、
「キミはどこでだってボクを海に入れてくれる。」
キミの瞳には今、ボクが映ってる。
青い、海のような瞳の中に、ボクがいる。
ボクは海の中に。
「これはキミにしか出来ないことなんだ。」
お金も時間も要らないよ。
遊戯が何を思ってそんなことを言い出したのか、
海馬には何となく解るが、それがあっているのか自信はない。
ただ兎に角海馬を気遣ったことだけが確かだった。
「遊戯、1つお前は勘違いしている。」
向こうが低空飛行してきたときだけが攻撃の時。
「俺の目には何時だってお前が映っている。お前は何時だって海の中だ。」
「そんなこと無いよ。仕事だって映ってるじゃない。」
そう言われてしまえばそうなのだが。
やはり空飛ぶ敵には攻撃が当たらないらしい。
「パソコン壊れちゃうね。」
「大問題だな。」
そうクスクス笑って、
ごめんね、重かったでしょなんていいながら降りた。
遊戯の重たさなど何でもないのだが。
海は穏やかになっていて、
晴天と言った模様。
だが遊戯もそんな苦肉の策で海馬の妙な責任感を拭えるとは思っていない。
「海馬君に時間が出来るまで、これで我慢するよ。体調は崩さないでね。」
と、頼っていることだけは示しておいた。
気遣いなのだろうが、頼られると嬉しい。
心にも無い冗談でからかってしまう。
「旅費は溜めておくんだな。」
「え、おごりじゃないの!?」
一瞬本気で慌てた遊戯が面白かったが、
向こうも真面目なのだ、本気にしないうちに交通費と食費はかからないと訂正した。
「って、ホテル代は?」
「さぁな。まぁ、現金でなくとも構わないぞ。」
海馬のことだから何処かに私有地を持って居そうなものだ。
恐らくかからないのだろう。
海馬が言っているのは別のことだと解ったが、わからないフリをして、
ボクは日帰りだね、といってやった。
上手くかわした遊戯に、腹も立たずクスクスと笑って、
再び仕事へと戻る。
時間が無いというほどなのだから、
一ヶ月や二ヶ月なんてすぐに過ぎてしまうはずなのに。
春が待ち遠しかった。
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よくある目の色ネタ。
色んなサイト様で見かけるわけです。
触発されつつも、何かもうおなか一杯だったわけですが。
そういえば“海馬”ってセイウチとかタツノオトシゴとか読むらしいですね。
王様「このセイウチ野郎!」
後書きらしさの欠片も見せずに終了。
(08.02.29)AL41 閏年!