Ep.4-04
「(ゴミ捨て場所くらい、ボクだって覚えてるんだから。)」
遊戯はアテムを撒いたことを確認してふぅ、と息をついた。
自分は全然だが、アテムは霊能力が無くたって充分に社会で役立てる人間だ。
いまは自分を守ることで精一杯だが、何時か彼は自立をするだろう。
「(ボクに構っている必要なんか無いんだ)」
何時も考えはそこに至る。
「もう、依存しあう関係は、終わりなんだ。」
自分の人生の半分以上、彼と共にあった。
体と記憶の半分を失ってしまうような恐怖があったが、
それもなにも、距離を置くことで馴れる事が出来る、受け止められるものだと信じていた。
自分が1人でも大丈夫だ、と証明できれば、
アテムもまた気楽な気持ちで彼の道を歩めるはずなのだ。
そうだ、やっぱりボクも自立しなきゃ。
遊戯は1人、誓いを新たにゴミを捨てて、
「ちょっと、遠回りして帰ろう。」と、
校庭をぐるりと回ることにした。
新学期始まってまだ一週間程度であって、
高いフェンスに囲まれたプールは透き通っている。
「プールかぁ・・・入ったことないなぁ。」
遊戯の肌が敏感であるという理由で水泳は見学、で通っているが、
これといって何があったわけではない。
そもそも水泳の授業自体が始めて、プールというもの自体もはじめてだ。
「(本当にプールに入れないのかな・・・)」
今の遊戯は園児と同じだ。
辺りを、特に教室の窓を確認してから、
遊戯は鍵の開いていたフェンスの中へと忍び込んで行った。
「うわぁ・・・。」
間近で見る初めてのプール。
「(指くらいいいよね。)」
ドキドキしながらそっと屈み、指を恐る恐る伸ばす。だが、
「(なんか大変なことになっちゃったらどうしよう。)」
何度も述べているように、遊戯はアテムの監視下、もとい保護下にある。
遊戯が何か問題を起せばそれは同時にアテムの責任になるのではないか?
幾ら自立しようといっても、アテムに迷惑をかけたいわけではない。
欲求と理性がせめぎあい、結果。
「もう一人のボクの許可を得ればいいよね。まだプールは残ってるだろうし。」
なだめるように諦めた。
しかし久し振りに1人自由にうろうろしている貴重な時間を
もう暫く甘受しようと、
プールの周りをウロウロしてみようと思い立つ。
プールを諦めたのだ、ちょっとくらいいじゃないか。
ゴミ箱を両手に持ったまま、ちょっと高い壁のある方へ歩み寄っていく。
「(何があるのかなー。)」
ひょい、っと覗く。
「うわぁ。」
人が数名いて、何やらたむろっていた。
さらに目が合った。
なんだか煙たい。
ペコリと驚かせた詫びをして、それでも壁を見上げると、
「(シャワーだ。へぇ・・・。)」
壁の裏にシャワーがあることを知ってなんだか満足。
そこでそろそろ帰ろうとフェンスの方へ向かっていったその時。
「おい。」
聞いたことのない野太い声で呼び止められた。
「はい?」
「はい?じゃねぇよ。」
振り向くとぞろぞろと男が3人ほどやってくる。
シャワーの下でたむろっていた男たちだった。
「どうかしt」
「てめぇ何見てたんだよ。」
「え?何をって?あ、ボクはs」
「とぼけてんじゃ無ぇよ!」
「!?」
遊戯はこの状態がなんなのか良くわからなかったが、
一般的には不良に絡まれたというのが適切だと思われる。
「てめぇ先公にちくったら許さねぇぞ。」
「チクル?」
「とぼけんのも好い加減にしろ!」
胸倉をつかまれて、突き倒された。
軽い遊戯は簡単に飛ばされて、しりもちをついた。
「こんななよなよしたの、うちの学校にいたか?」
「ってかコイツ、制服違うぜ?」
「転校生か。」
取り囲む3人は小さな彼から見れば巨塔で、
逆光で顔が良く見えないが、呆然と観察していると、
タバコを吸っていることに気が付いた。
このこととさっきの文脈で考えると、先生にタバコをすっていたと言ってはいけない、ということらしい。
漸く理解が出来た遊戯は「なるほどね!」と小さな声で呟いた。
「おい、転校生、正義ぶってちくってみろ、痛い目にあうぜ?」
「先にちょっと指導してやれば丁度良いパシリになるんじゃねぇの?」
「そーだな。」
おい、と呼ばれるまま目を合わせると、
いきなりシャツをつかまれて、
プツンッとボタンがとんで、プールに飛び込んでいった。
「あっ!」
「よそ見してんじゃ無ぇよ!」
ボタンに気をとられている間、後ろにいた男に羽交い絞めされ、身動きは完全に取れなくなっていた。
「なんだこれ。」
開かれたシャツの下、白い胸の真ん中に、
銀の鎖で下げられた銀の鍵があった。
「家の鍵か?」
「にしても、実用的じゃなさそうな鍵だな。」
確かにそれは一般的な鍵というよりは、骨董品のようである。
15センチほどもあるそれには楔文字が刻まれており、
その形も絵に描いたもののようだ。
「けっ、こんなもん首から提げやがって!」
「だ、だめっ!」
制止を聞くわけもなく、中心人物らしき男は鎖を引きちぎり
それを遊戯の首からぶんどった。
「どうせメッキだろ?水につけて錆びさせちまえば?」
「だな。」
と、そのままプールに投げ捨てた。
「だめだよ!返して!」
「口答えすんなよ!」
パシンっとビンタを食らい、痛がる間もなく
顎を無骨な指で持ち上げられて、強制的に目が合わせられる。
「ガキみてぇだな。」
「そこ等辺の女よりはかわいいツラしてんじゃねぇか。勿体無いねぇ。」
「てめぇ、名前は?」
「んーん、ん」
頬をつかまれうまく喋れない。
「今日からお前は俺達のパシリだからな。」
「ちゃーんと印をつけておいてやるぜ。」
1人の男が加えていたタバコを取って遊戯の白い胸に向ける。
もし、この状況をアテムだの城之内だの海馬が見ていたらどうなることか。
だが、残念ながらその誰一人も此処には居合わせなかった。
とはいえ、
彼を守る者はそれ以外にも存在する。
遊戯の肌に根性焼きなどさせるわけがない。
突き出したタバコは、
パサリと切り落とされた。
「え?」
「どうした?」
「火が、なんか落ちたんだが・・・。」
「はぁ?もっかいやr」
火をつけさせようと口を開くや否や、
リーダー格の男の体は、軽石のように吹き飛んだ。
それに驚いた火の消えたタバコを持った男もまた吹き飛ばされ、コンクリートに強く腰をうちうめいている。
「ちょ、ど、どうした?」
遊戯を背後から捕らえていた男が慌てふためき問いかけるが
「いま・・誰かに蹴り飛ばされたような・・・。」
「まさか。」
とはいっても、
彼らもまたこの学校に生徒。
怪異現象ではないか、と結論を出した。
流石に薄気味悪い。
「けっ、ついてたな!」
遊戯を開放し、3人はいそいそと走り去っていった。
去り際に力任せに遊戯を押して、またもやコンクリートに打ち付けられるところだったが、
何かがふわりと遊戯の体を支えてくれた。
無論、遊戯にはそれが何かわかっている。
「アル!」
『申し訳ありません。』
遊戯は使い魔、M&Wでいうサイレントソードマンに抱えられて、ゆっくりと立ち上がった。
『私がもう少し早く戻っていればこのようなことには・・・。』
「大丈夫だよ!どこも怪我してないし。」
そう遊戯は笑うが、その頬は先のビンタで赤くなっていた。
「それより・・・。」
遊戯が案じているのは、
『銀の鍵ですか。』
「うん。」
遊戯はプールに入るな、といわれているし、霊体のアルゴールは基本的にものに触れられない。
魔力を注ぐだのなんだのすればプールに入ることは出来るだろうが、
タバコの火を切り落とす時にすでに力を借りてしまったし、
突き飛ばされたり、尻餅をついただけではなく
1日授業を受けたあとで、頭も体も疲れているだろう。
負担をかけさせるのは好ましくなかった。
『アテム様に、』
「だめだよ!それは・・・。大丈夫。ボクが潜るよ。」
『ですが、』
「ボクがいけないんだ。寄り道なんかしちゃったから・・・。」
そう止めるのも聞かず、遊戯がプールに入ろうとしたところ。
ごぼり
自然的とは思えない気泡が浮き出た。
『遊戯様、お下がりください。』
アルゴールは強引に遊戯を引き寄せ庇う。
驚いたままの遊戯はそれに抗いもせず、ただ泡を眺めていた。
ごぼり、
ごぼり、
それはまだ続く。
良く見ると、鍵の辺りから湧いている。
『遊戯様。』
「うん、すごく嫌な予感がする。」
鍵がふわりと水中に浮かび上がり、怪しげな7色の光を帯びて、
その光は染み出すようにプール全体へと広がってゆく。
気泡が更に増え、プール全体が沸騰した湯のようである。
それは次第に激しさを増してゆく。
「開くよ、時空の扉が。」
本能の察した恐ろしさゆえに遊戯はアルゴールにひしとしがみついた。
『遊戯様、下がりましょう。』
「でも・・・見守らなきゃ・・・。」
それが鍵を持つもののサダメか。
とはいっても主の命には代えられない。
フェンスギリギリまで下がり、様子を見守っていた。
泡で鍵が良く見えない。
だが、恐らくそこが時空の切れ目になったのだろう。
ちょうど鍵があるだろうと頃から、水飛沫と共に、
一際大きな気泡からどっと水柱がのぼった。
そして、まるで軟体動物の足のようにうねるのだ。
「来た・・・。」
『私の傍を離れないで下さい。』
「うん。」
プールの水全てが、津波のようにうねりあげて、
旧き神が姿を現す。
水は次第に例えるならば蛸のような姿をなして、その身長は学校の校舎と同じほどにまで達する。
本体と思しき球体にふっと巨大が眼球が出現し、遊戯とアルゴールを見据えた。
サルビアブルーの禍禍しい瞳は見据えながら、何を訴えるつもりなのか、
まじまじと遊戯の顔を眺めていた。
「あなたは・・・。」
アルゴールの腕の中からそっとそれへ腕を伸ばす。
「ごめんなさい、ボク、あなたを呼び出すためだったんじゃないんだ。
ちょっと、その・・・色々あって・・・。」
それを聞いているのか居ないのか。
巨大な瞳は何も言わない。
暫くすると、それは視線をそらし、校舎を眺める。
そして寄り多くの足を伸ばし振り回す。
必死に庇ったのだが、
霊体の守護者では水飛沫から遊戯を守ることは出来ない。
無論水のそれがそんなことを気にするわけも無く、
太いホースのような足はそれ自体が生き物の様に暴れ周り、何かを求めるように校舎をたたきつけていた。
そしてそのままずるずると、巨大な水の塊はゆっくりとプールから抜け出して、
宙を漂った。
その大きな瞳で校舎の窓を覗きまわっていた。
『遊戯様、いきましょう。』
「う、うん・・・、・・・あ!」
水のなくなったプールの床に、鍵が残っていた。
「よかったね!濡れなくてもとれたよ!」
『・・・。』
無邪気に喜ぶ主は、既にびしょ濡れだった。
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