「信じられん。」
モクバの寝顔は何時もの寝顔だった。
アメリカから帰って来た時に見たかった寝顔。
「あれはモクバだ。」
「当然だ。相棒が払ったんだからな。」
「結局、何だったんだ?」
「それは後で説明するはめになるだろう。城之内君たちも知りたいだろうしな。」
アテムは海馬のベッドで安らかに眠っている遊戯の髪を梳かしている。
だがふと思い出したように、告げた。
「そうだな、二人の前で話さないほうがいいだろうことだけはいっておくか。
前の社長の海馬剛三郎は紛争地帯の政府に軍事兵器を売っていたのだろう。
ヨシュアという少年は、母親を待っていたときに、その海馬重機の武器で、
鎮圧をしようとしていた政府に殺された。母親も然りだ。」
「成程な。それでか。」
「ヨシュア少年は、カイバという人間が彼等を殺していると考えたんだろう。
恐らく父親だか家族を失っていて、個人的な恨みもあった。
“海馬”“社長”に対する恨みがな。」
「それで、死ね、か。情け無い。」
何故あんなにも動揺したのだろうか。
「俺のモクバに対する信頼など、この程度だったということか?」
「そいつはどうかな。」
相変わらず遊戯を眺めていたアテムは、そう海馬を見た。
昼の、睨みつけるような目ではない。
「もし、あの時妥協しなかったら、どうなっていたことか。
結局モクバを救えたのは、相棒の力だけじゃない。
俺は相棒の力だ、お陰だと言いたいところだが、相棒はそれで済む人間じゃないし、それは事実でもない。
相棒は、恐らくこういうだろう。」
あの時の決断が、弟を救えたのだと。
あの時、弟の信頼を裏切っていたら、誰がどうモクバを救った?と。
「間違いじゃないだろ?」
結局、救われたのはモクバだけではない。
その言葉によって海馬もまた、失いかけていた兄としての存在を救われた。
そういうことなのか。
「フン。つまらん。」
自分までオカルトに助けられたなどと、許せない、認められない。
海馬はアテムから目を離し、
「目で見た今でさえオカルトなどというものは信じられん。」そう、言い放った。
だが、
「だが、俺は現実を認められないほど弱い人間ではない。
・・・貴様等だけは認めてやる。」
アテムは笑った。
海馬は2人を認めるほかなかった。
だが、そうだとしてもこの見下すような視線と行動が気に食わない。
「何が可笑しい。」
「いや、昔の俺に似ていると思って。」
「何故俺が貴様の子供時代を似なければならんのだ。」
「さぁな。」
そう簡単にあしらった後、
地下での遊戯と同じように、アテムは空に向かって話しかけ、
それからわかったと一言言うと、
何もなかったかのように海馬に話をふる。
「城之内君が目を覚ましたらしい。事情を説明しないと納得はしないだろうから、
先に言って説明しておきたいんだが、2人は今何処に居る?」
「それよりも貴様、今何をしていた?」
「話だが?」
「話?1人で、か?」
そういった後に思い出した。
此処へ来る前に、学校の屋上で、ソリッドビジョンを呼び出していたことを。
確かあの時は「ソリッドビジョンではない」と言っていた気がするが・・・。
「あれはなんなのだ。どう見てもブラック・マジシャン・ガールではないか。」
「そうだな、その説明も必要だったか。」
だがいずれにせよ、後で聞かれるだろうし、
2度説明するのも面倒だ、城之内君たちのところへ言ってから説明させろ、と
相変わらずの態度で、それは気に障るのだが、
理解出来ないことが理解出来ないままであることを非常に嫌がった海馬はさっさと
連れて行きたいところだった。
だが、
「遊戯は大丈夫なのか?」
「ああ。もうだいぶ安定したし、襲われることはないだろう。」
「襲われる?」
「それも後で適当にな。」
そう言い、立ち上がると、また空に向かって「よろしく頼んだ」と言い放ってから、
海馬と共に部屋を出た。
紅茶を差し出されながらも、さっぱり手に付かない。
2人は部屋を見渡すのに急がしかった。
どこの博物館だの美術館か、いやいや何時代の何式建築なのかといわんばかりの装飾で、
正直なところ海馬の趣味とは思えない。
杏子など、海馬は鉄板の部屋で寝泊りしているのではないかとさえ思っているものだから、
意外で仕方が無い。
城之内など先のこともあり一層呆けている。
暫くすると、
「城之内君、気分はどうだ?」
漸くアテムと家の主が姿を見せた。
「え、あ、お、おう、大丈夫だぜ!」
「フン、あれ如きで気を失うなど、愚かしい。」
「か、海馬、てめぇ!!」
「事実でしょ?」
「・・・。」
事実の前に返す言葉がなく、城之内が黙りこくっている一方で、
遊戯の姿が見えないけど・・・と杏子が案じてくる。
「相棒は休んでいる。久しぶりだったからな。」
「ねぇ、結局、なんだったの?」
アテムの説明は、先の海馬への説明を簡略化したものだった。
プライバシーという概念はあるらしい。
「でも、アテムは全然倒れたりしなかったのに・・・。」
「俺と相棒は仕事の仕方が違うからな。」
相棒は、正しくモクバがそうだったように、霊を宿すだけの力がある。」
「イタコ、ユタ・・・シャーマンということか?」
「あぁ、そうだな。」
オカルト嫌いな割りに単語があっさり出てきたのが可笑しかったが、
知識があってのオカルト嫌いというのは、なんだか納得がいった。
「だが珍しいな。女がすることの方が多いと思っていたが。」
「まぁ、そうだな。確かに女がすることも多いが・・・。」
そこまでいって、何かを考えているような仕草を見せる。
だが、何か覚悟を決めたかのように言葉を続けた。
「相棒は異常だった。この手の力に長けていた、それで1つ使命が課せられている。
・・・これ以上の話は、俺たち個人の問題ではなく、家の問題だ。」
「なんだか複雑なのね。」
「・・・勝手に複雑にしているだけだ。」
城之内はその言葉にはっとした。
そういえば最初にあったときも同じことを言っていた気がする。
そう、話が丁度区切れた時、話し声が聞こえてくる。
遊戯だ。
「激しい独り言・・・ってわけじゃねぇんだよな。」
「ああ。そうだな、紹介する必要があるか。」
遊戯が相変わらず空気と会話しながら、こちらの姿を見つけると、
おはよう、と駆け寄ってきた。
「相棒、調子はどうだ?」
「いいよ。全然問題ないよ。海馬君のベッドってすっごく寝心地がいいんだよ。」
海馬君ありがとう、とニコニコと笑う。
海馬は気にするな、当然ことだと、昼とは異なった対応を見せた。
それは海馬の中で遊戯という人間の存在が変わったことを意味していて、アテムは何処か安心した。
社会に殆ど出ていない遊戯が他人に受け入れられることは嬉しかった。
「相棒、俺たちがあんまりにも独り言が激しいんで、説明を求められてるぜ?」
「え?あ、そっか、皆には見えないんだよね。」
そう、こちらが驚きたくなるような言葉をポロっと零す。
「とりあえず呼び出すか。」
アテムは、指を鳴らしただけだったが、彼の後ろには、
「昼間のマジシャン・ガールに、ブラック・マジシャン・・・。」
ソリッドビジョンのようだが、なにやら1人でに動いている。
「マハード、何処に居たんだ?」
『お師匠様ったら、まい』
『マ、マナ!も、申し訳ありませんマスター。』
「いや、構わないが・・・。これから暫く色々と関わることになるだろうから、
挨拶の1つもしておかないといけないだろう?」
『私がマハード、隣の彼女がマナ。我々はマスターと契約している使い魔です。
以後お見知りおきを。』
そう、華麗に礼をしてみせ、マナもそれに続く。
これに驚いたのは他ならぬ海馬だ。
「使い魔だと?それは、」
「M&W。創設者ペガサスも同類のようなものだ。
だが、M&Wをあそこまで面白いゲームへと作り上げたのは、他ならぬ彼の才能だろうがな。」
それは暗に「ペガサスが此処からヒントを得た」といっていた。
「ペガサスと知り合いなのか!?」
「ああ。相棒もそうだぜ?」
「うん。楽しい人だよね。」
ニコニコ笑いながら、僕も紹介するね、と
遊戯はアテムと異なり、両腕を左右へ差し出すと、
右には白い魔導師、左には大剣の男が姿を見せる。
「右がセラエノ、左がアルゴール。えーっとね、M&Wで言えば、サイレントマジシャンとサイレントソードマンかな。」
『初めまして。』
『右に同じく。』
アテムの使い魔とは異なり、無口で真面目そうな様子だ。サイレントと言うだけのことはあるか。
「俺たちは彼らと契約している。霊みたいなものだから普通は見えないんだが、
力を加えれば見えるようにはなる。」
始業式の日に遊戯が職員室の事情を知っていたのも、
図書館の場所さえわかれば調べ物ができるのも、
モクバの居場所を探っていたのも、
「みんなのお陰なんだ。」
いつもごめんね?と労いの言葉を受ける白い二人だが、当然のことですからと応じるだけで、
そしてすぐに姿を消してしまっって、少し冷たい印象を受けた。
「どうかしたのかな、気に障ることでも・・・?」
「大丈夫。ただ気を遣ってくれてるんだと思うよ。仕事が終わった後は、ボクもまだ全快してないから。
あとアルは恥ずかしがり屋さんだから、早く隠れたかったんじゃないかな。」
使い魔にも恥ずかしがり屋が居るのか、と感心してしまう。
「そういえば、先程何か言っていなかったか?」
海馬は思い出したようにアテムを見た。
「そうだったな。海馬ならば先の話をある程度理解しているだろうから、詳しい説明は省略するが、
疲れている相棒は憑かれ易い。それで襲われることが多々ある。」
「モクバのようになる、ということか。」
「ああ。」
「だが、何故モクバが・・・。」
「似てたんだ。」
遊戯の言葉に視線が向く。
「モクバ君とヨシュアは何処か似てた。
だからヨシュアはモクバ君を選んだし、モクバ君も抵抗し切れなかったんだ。」
寂しかったんじゃないかな、と言いかけてやめた。
海馬にも海馬のなすべきことがあって、好きでモクバを一人にしているわけではないと解っていた。
「モクバ君が良くなるまで、出来るだけ傍に居てあげた方がいいよ。」
「・・・そうだな。」
兄が傍にいること、それがモクバにとって最も大切なことだと思った。
暫く豪華なお茶の時間を楽しんでいたが、帰宅の時を迎えた。
「モクバが目を覚ませば、恐らくお前たちに会いたがるだろう。
呼び出すことになるかもしれんが、」
「いいよ、喜んで!ボクもモクバ君とお話してみたいから。ね!」
「そうだな。」
「じゃあ、また今度ね!約束だよ?」
「ああ。」
手を振り家路に着く。
本人の前では口にしなかったが、海馬の表情が変わっていたことには気づいていた。
「あれが本当の海馬君なんだね。」
そう呟く声は楽しそうで、アテムはまた複雑になる。
また、溝が広がる。
この想いに、何時まで自分が耐えられるのかなど、知る術は無かった。
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