魔師

Ep.2  「またキミの担当だね」


この数日間だけ待ちに待っていた新学期。

オカルトは嫌だが、偶然知り合った友人たちが転入してくるのだから、
城之内は決して悪い心境ではなかった。

人数の減った教室は、適当に前へと詰められていて、
偶然にも城之内の後ろの席2つが空いている。
此処にあの紅葉2枚がやって来るのは何となく予想できたし、
彼らが近くに居る限り、オカルトに対する脅威は半減される。

特に、遊戯。

あの時のあの安心感を城之内はここ数日といえど、忘れてなど居なかった。
あれが特殊能力から来るものか、本来の性格から来るのか良くわからないが、
目がかち合い、微笑むだけで一瞬に凝り固まった神経がほぐされる感覚に陥る。
流石に物が飛んでくる(ポルターガイストというらしい)のは反射神経頼りだが、
遊戯の能力が未知数であっても、悪魔祓いのアテムがいるのだから、
そのうち学校の現象も解決する。

遊戯の声や温もりを反芻するたびに心から恐れが除かれて、前向きになれる。

オカルト云々以上に楽しい学園生活になる気がした。


「おはよう!ねぇ、城之内、知ってる?」

朝から元気よく現れた隣の席の住人は、なにやら得意げである。

「よう、杏子。で、何がだよ?」
「こんな学校に転入生が来るんだって!」

得意げな杏子には申し訳ないが、此方は既に名前も理由も知っているので、思わず得意げになる。

「城之内サマを嘗めんなよ!」
「何それ、あんた知ってんの?」

折角の特ダネがまさかあの城之内に知れているとは、杏子もがっかりである。
だが、がっかりの前に不思議だ。
「何で知ってんのよ?」
「超能力。」

はぁ?と、はっきりそう切り捨てて、
杏子はまだ不服そうにしていた。
だが、からかうには丁度いい素材である。
杏子は校長室に入っていく当人を見ている。
城之内がいう事が真実か否かなど、すぐに結論は出てしまうのだが。
「へぇ、じゃあエスパー城之内に、質問ね?転校生はどんな人?」
「紅葉で、ぱっとみソックリなんだけど、一人は子どもっぽくて、一人は頭の切れそうなヤツだぜ。」

これは、如何に

「えぇ?転入生は1人よ。」


「はぁ?」
「・・・」
「・・・?」

城之内は思い出す。

俺は、遊戯に触れた。
普通にたむろして、遊戯はコンビニにまでよって、パンを買った。
だから、存在するはずだ。
やはり遊戯は中学生だったのではないか?

いや、まて、
あの、怨霊を焼き殺すようなアテムが居たのだ
あの炎は俺の目に映った、霊視などできるわけも無い俺にでも、だ。
なら、アテムは、霊を実体化させる能力があるのではないか!?
そうすれば、若しかしたら・・・

遊戯は、小学、もとい中学の時に死んだアテムの双子の弟で、
アテムはそれを実体化させて一緒に住んでいるのではないか!?

じゃあ、俺が触れたあの温かさはなんだろう。
遊戯の魂の温かさ・・・?

遊戯は・・・


城之内は見る見る真っ青になり、目は死んでいる。
紅葉、という決定的な特徴を掴んでいる城之内の予言は、
杏子さえも気味悪くさせた。
それは、城之内が言い当てたことであり、いい当てたのが城之内だったからだが、
からかっていいのかいけないのかも良く判らず、場には、いかんともしがたい空気が流れる。
その状態から脱却できたのは本田が空気を察せずに入ってきてくれたお陰だった。

状況を理解できていない本田に、一々説明はせず、
本田は歯がゆそうにしていたが、夏の土産話があれば話題づくりに苦労などいらなかった。
一度盛り上がってしまえば、さっさと気持ちも切り替わってしまう。

そして、丁度いい時に、チャイムが鳴り、教師が面倒な様子で入ってくるのだ。


始業の鐘がなっても、教室は埋まらなかった。
出席をとっても、欠席の多さは目立ち、教師もついには「こいつもか」と諦めている。
1学期は我慢していても、不登校になった生徒も多く居るのだろう、
城之内は深く賛同した。

「えー、今日は、転入生が、」

教室がざわめく。
「どんな人か」や「男か女か」とか一般的な意見も有れば、
「物好きなヤツがいるな」という、独特のものも聞こえた。

城之内にとっては勝負である。

あれがホンモノだったのか、ウツロなモノだったのか。

一度は疑った自分の感覚だが、
それでも疑いきれないのだ。
忘れなかった、あの温もりが。


「静かにしろよ、お前ら。」
形だけの言葉で宥め、教室のドアをあける。
「入ってきなさい。」

そういわれて、担任の後ろについて出てきたのは、

「今日から、このクラスに入ってきた“アテム・イシュタール”君だ。」


遊戯の姿は無かった。

めんどそうに入ってきたアテムは教室を一瞥すると、
城之内と目が合い、なにやら少し安心した様子を見せた。

担任が、アテムの適当な説明をする。

エジプトから来ただの、
転入が決まったのが遅かったため、制服が間に合ってないだの言っている。
しかし、その説明の中には、
彼が仕事で来たということは入っていなかった。
隣のクラスの胡散臭いヤツと違って、極秘任務ということらしかった。

だが、城之内にとってそんなことは既に知っている情報だ。
説明の間、城之内は必死に遊戯はどうしたのか?と目と手で訴えかける。
アテムはそれを見て、内容を理解したらしい。
が、
「城之内、何さっきからソワソワしてるんだ。」
担任にも違う意味で見つかった。

「いや、その、」
「お前は、本当に落ち着きの無い、」
新学期早々文句では流石に胃がもたれる。
城之内は露骨に嫌そうな顔をするが、扱いに慣れている担任がそれをみて止めるわけは無い。
しかし、
「先生、相棒は今医務室で休んでるんで、後から来ます。」
と、アテムが割って入った。

これに担任だけでなく、城之内が反応を示したのは、当然のことだ。
「え、遊戯、倒れたのか!?」
思わず出た言葉に、杏子を含め教室が驚きの声をあげるが、
アテムはいたって冷静で、
「校舎に入る前にな。」
と親指で背後を指して補足する。

入学早々の出来事に、担任も一瞬焦る。
「そうか、大丈夫なのか?」
「少し滅入っただけだろうから、すぐに治る。」
「じゃあ紹介は来た時でいいな。なんだ、城之内と知り合いのようだし、
あれの斜め後ろ、真崎の後ろが席でいいだろう。」

「城之内、アテム君に変なこと吹き込まないでよ。」
と一部から非難が出て、思わず反論するが、担任に止められる。
所謂悪ガキの城之内が教師の気に障ることは当たり前で、
彼が注意されることは緊張ではなく、ささやかな和みすら産み出す。
それは、何時もの高校生活が帰って来たことの徴だった。


制服が間に合ってないアテムは他の学校の制服を着ていた。
半そでのブラウスにネクタイが締められていたが、
席に着くなりさっさと緩めてしまう。
緩められた襟元から、黒のチョーカーと金のアンクが覗いていた。

「城之内君と同じクラスで助かったぜ。」
「俺も同じクラスでついてるぜ。」
「ちょっと、何で城之内、知り合いだったの?」

杏子が好奇心旺盛に振り向いて、問いただしてくる。
アテムは遊戯と違って端整な顔立ち、割と“カッコイイ”タイプであるから、
女子人気を得ることは、想像できない方がどうかしている。
まぁ、かといって女遊びをするようなタイプにも見えないのだが。

「知り合いっていうか、一度会ったことがあるんだ。」
「相棒が城之内君に世話になってな。」
城之内が役立つなんて珍しいこともあるものね、と言いつつ、自己紹介。
「私は、真崎杏子。よろしくね?杏子ってよんでね。」
「ああ。よろしく。」
アテムは淡々としていて、笑っているのかも分からない。
城之内がそうであったように、杏子も何処か冷淡な印象を受けた。

「それにしても、遊戯大丈夫なのか?」
あのもやしが倒れたというのだ。分かるような分からない様な。
「下見に来ていればこんなことにはならなかったと思うんだが・・・。」

と、いうことは。

倒れた原因は、ほぼ確実にこの学校のオカルト問題が絡んでいるといえそうだ。

担任のこれからの話を適当に聞き流していると、
アテムはふと何かに反応し、廊下の方を眺めた。

「どうした?」
「いや・・・。相棒が来るみたいだ。」
「?」

今後の予定を説明し終えたが、担任はなにやら配布するプリントを職員室に置いてきたらしい。
「一寸取りに行って来るから、どっか行くなよ。」
と、ドアを開けて、廊下を見ると、
よく似た紅葉が居たらしい。
「ああ、武藤君。丁度いい。」
その言葉に教室は再びドアへと意識を向けた。

端整なアテムが“相棒”と呼ぶのだから、どんなのが出てくるのかと思えば、

小学生が。

身長の低さだけでなく、鞄を背負っているのが尚小学生度を上げている。
アテムと同じ制服を着ているのに、どうしてこうも印象が違うのか、不思議だった。

なよなよとしたモヤシに、クラスの女子は少々がっかりした模様だった、
だが城之内は分かった。
空気がアテムのときと違うのは、
男の見る目が違うからのようだった。割と標的を見るような目で見ている。
それが、何の標的であるのかは分からないが、
喧嘩も弱そうで、運動が苦手そうな遊戯は、イジメの対象に成り得そうである。

まぁ、アテムが居る限り、そんなことにはならないのであろうが。

生徒の前に立たされてモジモジ俯いている。
双子じゃないの!?という意見は、「遠い親戚だそうだ。」という教師の一言によって解決される。
キミの席は窓際で、一番後ろだが、どうせ前のでかいのは寝てるから、
黒板が見えないことは無いだろう、といわれて遊戯がやっと顔をあげると、
手を上げている城之内と、斜め後方で笑っている(他の生徒には判別できない)アテムが映って、
漸く笑みを零した。

相変わらず、印象的な笑みだった。










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