緊張する。
何故だろう、何時もと同じはずなのに。

この玄関の前には何度も立っているし、
何度もインターホンを押したことがあるというのに。

雪が舞い始めた、さっさと暖かい部屋に入りたい。
だのに、
寒いから指が動かないのか?
いや、やはりこれは緊張なんだ。



アテムは12月31日、所謂大晦日の夜に、武藤宅を訪れていた。
手には土産の品がある。

決闘でさえ味わわない。
固まった指でゆっくりとインターホンを押す。



自力本願




一週間ほど前のこと。
終業式の日だ。

遊戯がアテムの机までやってきた。
「ねぇねぇ。」
その時の遊戯は少し緊張していたというか、普段とは少し違う感じで、
何となく新鮮だったし、はにかんでいるのが異様に可愛かった。
「なんだ?相棒。」
「キミさ、年末年始、実家に帰るの?」
「エジプトにか?いや、帰らないぜ。」

冬休みは短い。
それにアテムは日本に居たかった。
なんせ日本には遊戯が居るのだ。

その時アテムが思ったのは、初詣を一緒に行かないか?という誘いではないか、と言うことだ。
アテムから誘うつもりだったし、
メールでも良い様に思えた。

だが、予想は微妙に外れていた。

「日本に居るんだ、ご家族が来たりはしないの?」

遊戯がご家族、というと違和感があった。

「いや?それがどうしたんだ?」
「あのね、」

何故遊戯が恥ずかしがっていたのか、良くわからなかった。
実際に理由を聞いても、その時は理解できなかった。

「ママが、『アテム君が1人ならうちに呼んだら?』って。」

新年1人で迎えるのは寂しいでしょう?って。

ママが言ったことをそのまま繰り返したから、「ご家族」だったのか、と思うと、
思わず笑いそうになったが、
遊戯の母親らしいと思う。

「だが、家族団欒の邪魔にはならないか?」
「いいんだよ!ママがそう言ってるし、じーちゃんもそうだねって。それに。」

人前であからさまな態度を取りたがらないくせに、
学校の教室で、遊戯はぽーっと赤くなって。
「ボクだってキミと一緒に新年迎えたいもん・・・。」

そんなのを断れるわけが無い。
断る理由も、断る気もなかったのだが。
お言葉に甘えさせて貰おう、といえば、
遊戯は本当に嬉しそうな顔をして、子どもの様に飛び跳ねた。
飛び跳ねたい気持ちはアテムも同じだ。
今年もメールで新年の挨拶だと思って居ただけに、
遊戯と一緒に過ごせることが本当に嬉しい。

それからメールなどで連絡をして、
31日はアテムが夕方に行くことで決まった。
遊戯は大掃除に借り出されてアテムの迎えにはいけず、
アテムは1人で向かうことになった。




そして、この始末だ。



遊戯が居れば簡単に上がれてしまうのに。

しかしここで時間を潰すわけにもいかない。
固まった指でインターホンを押した。

はーい、という女性の声と、階段を軽快に降りてくる足音。
階段を転がり落ちないかと不安になったが、
ドアを開けたのは満面の笑みをたたえた遊戯で
ふっと肩の力が抜けた。

「アテム遅いよー!待ちくたびれたよ!」
「すまない、相棒。」

ドアの前でウロウロしていたとはさすがに言えない。

「アテム君、いらっしゃい。」
「今日はありがとうございます。」

土産を渡して丁寧に礼を述べると、
遊戯と同い年なんて信じられないわね、と
幼い息子を揶揄し、案の定遊戯は拗ねていた。
にっこり笑う母親を見て、遊戯に似ていると思った。

「夕食はまだだから、お部屋で待っててね。」
「行こう!」
「遊戯、片付けはしたの?」
「大丈夫だよ、」

あとは遊戯に引っ張られていった。

「大変だな、じーさんの店の掃除もあったんだろう?」
「まぁね。じーちゃん腰弱ってきたし、ボクはバイトもしてないから、
少しくらい手伝わないと、お年玉がかかってるんだ。。」
「はは、成程な。」

いつもの様に遊戯の部屋へと引き篭もった。
遊戯の部屋はそんなに汚くない。
せいぜいカードが山になっているくらいだ。

ベッドの上にアテムを座らせて、遊戯も隣にぴたりとくっついた。

「外、寒かった?」

そっと、アテムの手に触れる。
ひんやりとしていた。
「寒かったぜ。だが、今日はいい。」
遊戯の暖かい手をぎゅっと握り返して、
「暖めてくれる相手が居るからな。」
と笑う。

「恥ずかしいよ。」
「何時ものことだろう?」

そして、いつもの様に優しく唇に触れると、
伝わった温もりにまだ僅かに緊張していた心がほぐれるのを感じる。

「今日は来てくれてありがとう。」
「礼をいうのはこっちのほうだ。お陰で相棒と新年を迎えられる。」
「ボクもだよ。キミが帰国しちゃったら電話になっちゃうし、
時間差もあるからね。」
「二週間程度じゃ帰る気にもならないぜ。最も、何週間でも帰りたくないんだがな。」
「冬休み短いよね。」
「そうだな。二週間なのに宿題が出るのは理解できないぜ。」
「・・・どうしてそう思い出させることを言うの?」

さっぱり手をつけていないのだろう。
普段であればからかってやるのだが、今回ばかりは遊戯も忙しかったのだろう。
冬休みに入ってアテムと会うのは実はまだ2回目だ。
亀のゲーム屋でもクリスマス商戦はあるし、大掃除に加え、新年の準備も待っている。
お年玉をもってやってくる子どもたちの期待には応えたいところだ。

「宿題なんかやだなー・・・。ずっと休みならいいのに。春までさ・・・。」
「そうだな。ずっと休みなら、」
ずっと一緒に居られるのに。

言葉にはしなかったが、重なった視線はそれを伝えてしまったらしい。
遊戯は顔を火照らせながら、微笑んだ。

「明日も暇?」
「相棒と一緒に初詣に行く予定はあるが。」
「奇遇だね。ボクもだよ。初詣ってさ、15円しか入れないのに、色々頼みすぎだよね。」
「そうだな。俺は、来年も相棒と過ごせますように、って頼んでおくぜ。」
「そんな」

遊戯が口を開いたところで、食事だと呼ばれた。
カツオだしのいい香りがしてくる。


夕食を済ませると、居間のコタツにもぐりこんで、
チャンネルを適当に回す。

「年越し決闘か・・・物好きだな。」
「キミは誘いがあったりしなかったの?」
「プロではないし、金にも興味はない。商業目的では出たくない。
それにどうせ3学期前に海馬が相棒を誘いに来て、イザコザが起きて、
結局俺が受けて立ってやるぜ。」
「良くわかんないけど、皆で新春決闘大会だね!」
「そうだな。デッキは組んだのか?」
「一応ね。まだ調整中だけど。」

テレビで放映されているのは見せ決闘である。
ゲーム好き一家故か、皆で見ていた。
コタツの上には色々つまむものが用意されていて、
「なんだか息子が2人になった気分だわ」と遊戯の母親も楽しそうにしている。
双六もまた熱中して試合を見ていた。
派手に演出されているが、実際は大したことが無いように思える。
「もうちょっと画期的なコンボは思いつかないものか。」
「さすがに難しいのかな・・・?」

それぞれ文句をいいながら、楽しんでいたのだが、
アテムはそっとコタツの中の遊戯の手に触れた。
遊戯はそれに驚いていたが、番組に集中している祖父が気づくことはなく、
丁度席を立っていた母親が見ていることもなかった。

「(少しくらいならばれないだろう?)」

覗き込んだアテムの目はいたずらっ子のように訴えていて、
遊戯もそっと握り返した。

コタツの熱より温かい。

それから母親も戻ってきたのだが、二人は手を離さなかった。
見えない場所で密かに、しかし人前で手を握り合うのが、
恥ずかしいのだが、どこか嬉しい、不思議な感覚を2人は覚えていた。
それと同時に覚えるのはもの寂しさ。

本当は、もっと、もっとくっついていたい。

しかし流石にそれは適わず、指を絡ませたままで、
テレビを見ていたら今年も残すところあと10分になっていた。

遊戯の母親は風呂に入っており、湯冷めしないよう寝るつもりらしい。
双六も途中までは一緒だったのだが、老体に徹夜は厳しいらしく、
すっかり寝室で寝込んでしまっていた。

この家の中で起きているのは2人だけだ。

遊戯は繋いでいた手を離して、ドアをしっかり閉めてしまう。

「2人っきりになっちゃったね。」
「楽しそうだぜ、相棒?」
「キミもね。」

再びコタツに潜って、今度はぴったりとくっつき、
アテムは遊戯の体をさらに引き寄せた。

「年越しどうする?」
「『年越した時、俺地上に居なかったんだぜ』とかそういうやつか?」
「そうそう。キミと過ごせるカウントダウンだから、何か特別なことがしたいよね。」

それは単純な言葉なのに、
何故かふと寂しくなった。

来年は、どんな風に過ごすのだろう。
一応日本にいられるはずだ。
だが、
遊戯の傍に居られるのだろうか。

「アテム?」
「いや・・・なんでもないぜ。」

本当は、これから毎年一緒に過ごしたい。
一緒に居るのが特別ではなく、当たり前のことにしたい。

「相棒、」
「何?」
「俺達は・・・来年も一緒に過ごせるのか?」

遊戯は不思議そうな顔をした。
聞かなければ良かったと思う。
幸せな時間に、妙なことを言うものではない。
まるで別れる事を前提としたような、そんなことは言わない方がよかった。

「・・・すまない、そういう意味じゃ」
「出来るよ。」

何時もよりも少し高めの声で告げられた一言は、不思議な口調だった。

「一緒に過ごせるよ。キミが、それを望んでくれるなら。」

それから少し寂しそうに笑った。

「だから、神様なんかにお願いしないで。」

ボクが、キミと一緒にいるかどうかは、キミ次第なんだ。


そこまで告げた幼い人は今にも泣きそうだった。瞳には悲しみが映る。
泣かせたいわけじゃない、
ただ、笑っていて欲しいだけなのに。
こんなにも愛おしく思っているのに、何故こんなことになるのだろう。

「俺は、絶対に手放さない。」

遊戯の肩を強く抱きしめた。
俯きながら小さな声でうん、と言うのを聞き逃しはしなかった。

手を強く握る。

「遊戯」

久し振りに名で呼んだ。
遊戯は呼ばれて俯いていた顔をゆっくりあげる。

「年が変わっても、年齢が変わっても季節が変わっても、
変わらないものは此処にある。」

俺の気持ちはずっと変わらない。

顔を近づけるとゆっくりと瞳が閉じられて、
優しく口付けた。
溶けてしまいそうなほど熱く甘く、何も聞こえないし何も考えられない。

言葉よりも明白に伝えられた想いに、
遊戯は頬を染めた。

そっと目を開けば、
優しく微笑む恋人の瞳にかち合う。

「ふふ。」

笑いが零れればアテムもつられて笑った。
額をぶつけて、まだ感じたりない体温を求める。

「来年も一緒だね。」
「ああ。」

そうだ、カウントダウンが始まってしまう。
2人は慌ててテレビに目を向けた。
花火が上がっている。

「あれ?」

テレビの前で人々が声を上げている。
時計に目をやると、15秒もすぎていた。

「あーあ、ジャンプするの忘れちゃった!もう。キミのせいだ。」
「これは感謝されるべきところだぜ。」
「何で?」
「相棒はさっきいったじゃないか。『特別なことをしたい』ってな。」
「うん。・・・うん。・・・うん?・・・あーー!!」

15秒前は多分。

「うーーー・・・恥ずかしいよ。」
「特別な年越しだろ?」
「もう・・・調子がいいなぁ。」

文句を言いながら、アテムの胸に頭を預ける。
「年越しちゃったけど、どうする?」
「相棒はどうしたい?」
「うーん・・・初決闘でもする?」
「ああいいな。」

2人はコタツを挟んで向かい合って、デッキを取り出す。

「なんだか、夢見たいなお正月。」

互いのデッキをシャッフルしながら呟いた。

「ボク、今年は最高の1年になる気がする。」
「俺は、」

デッキを戻してセットする。

「俺は毎年最高の1年にしてやるぜ。」

断言したアテムの言葉は力強くて、遊戯は嬉しく思う。
手札を引いて、目がかち合い、
声がそろう。

「デュエル!」



最高の1年の幕開け。





---------------------------


と、いうことで、新年でした。
在り来たりな感じですが、平和な感じがこの2人には似合うように思うので。


王様に「さっそく姫初めしようぜ」とか言わせようと思ったんですが、
新年早々下ネタというのもあれなので諦めました。



と、下衆な後書きですが、

多分、今年も閉鎖はしないと思います。連載が終わるまではしないように努めます;;
へっぽこ管理人AL41と駄サイトH2Aを
今年もよろしくお願いいたします!


(09.01.01)AL41 謹賀新年!