*長め
*でも前回よりは読みやすいと思う。



社会を二つに別ける、
それは複雑な物事を単純に考えることのように見える。
だが、
単純にしようとすればするほど、問題は複雑になってゆく。


唯我論者の誤謬 -11.異種の同胞-





「お帰り!」
「ったく元気だな・・・。」
「うん!今日は楽しかったよ!」

仕事から戻ると遊戯はソファで脚をバタバタさせながら、テレビを見ていた。
見たことの無いマグカップが小さな手に包まれている。

「買ったのか。」
「うん!色々買い物したんだ。でもバクラのお金だったんだよね・・・?」
「拾われてる分際で余計な気は遣うんじゃねぇよ。
お前は体以外何の所有物もねぇ、そんなやつに請求するほど貧しかねぇし、
俺も金持ってても使うって決まったわけじゃねぇからな。」
「ありがとう!」

にこにこと笑っている。
人に礼を言われたのは久しぶりに感じる。

まるで自分と正反対の存在だ。
自分は演じることは出来ても、本当に笑うことなど出来ない。
まして、誰かに愛想よくする必要性も感じない。

だが、遊戯は愛想を良くすることでしか生きてこられなかった。

「適応能力・・・か・・・。」
「なに?」
「いや・・・。」

バクラは何時もの場所までやって来て、
胸に仕舞っていた銃とナイフを机の上に放り出して、伸びをすると、
浅く腰掛けた。

テレビでは一般人が偉そうに非難している。
議論の余地は無い。

「ニュースなんか見てんのかよ。・・・また誘拐殺人か?」
「おうちが焼けちゃったんだって。」
「金持ちの家が焼けようが崩れようがどうでもいいな。」

犯人の特定は無理だろう。
なんせ労働者など誰も彼も同じなのだから。

次のニュースへ変わる前にCMが挟まった。

炭酸飲料のCM。
世界の人々が楽しそうに飲んでいるだけの安上がりなCM。
炭酸の音が印象深いだけのそれ。

「こんなCMで誰が飲みたくな」
「コーラ!」
「え?」
「コーラ買うの忘れてた!」

CMはいかんなくその効果を発揮したらしく、
この少年を一人、扇動することが出来た。

「そういえば、近くに自動販売機があったよね!」
「ああ、玄関ロビーを出て、左にいって、もう一回左に曲がって少し行ったところにな。」
「ボク買いに行ってくる!バクラも飲む?」

この少年は、きっと、甘い物嫌いな自分でさえも
「美味しそうだ」と思わせるような飲みっぷりを発揮するのだろうことは予想できた。
昨日のあの100円のハンバーガーが高級に見えたのと同じように。

「まぁ今日飲まなくても冷蔵庫に入れときゃお前がいつか飲むだろ。」
「うん!じゃあ2つね!」

遊戯は嬉しそうに今日購入したショルダーバックを掛けると、
いってきまーす!と声を上げて、此方に手を振りながら出て行った。

「お気楽なやつ・・・。」

ぐったりする。
テンションが高い人間とは一緒に居ると疲れる。
だが、感じることは、
遊戯が自分を巻き込む気が無いということだ。
隣に居るから気を使っているだけで、
彼は彼の価値観を押し付けてこない。

物足りなさを感じながらソファに横たわった。

CMが終わり、次のニュースへ。


「海馬重機がKCへ・・・か。社長さんも思い切ったことするもんだな。」

睨み付けるような青い瞳。

「副社長の地位でぐうたらするほうがよっぽど楽でいいと思うんだがなぁ・・・。
昇進欲ってのはいまいち理解できねぇな。」

政府御用達だったこの会社が方向転換をすることで、
政府が混乱するのは目に見えていた。
同時に、それと無関係で居られないとも感じた。

次のニュースが流される。
誘拐殺人。
すぐそこの街で今朝発見されたらしい変死体。
キャスターと専門家は義民の犯行だと決め付けているらしい。

「・・・さぁね。」

バクラはその事件の概要を聞く中で、義民以外の人間の犯行ではないか、と
思わず数日前の新聞を漁っていたのだが、
現場を写す映像の中、あるものが映るとはっとした。

瞼の裏に、笑う姿が駆け巡った。





「左は・・・こっちだよね。」
左手をパタパタと動かして遊戯は玄関ホールを抜けると左に曲がった。

了と玄関で別れる前に見かけた赤い自動販売機。

歯が溶けるからいけません、といわれていた炭酸飲料。
喫茶店にも一応置いてあったが、頼む人は殆ど居なかった。

「懐かしいな。」

昨日から懐かしいことばかり。
ハンバーガーにクラブハウスサンド。
世間は様相を変えていても、変わらない物を見つけるたびに、
遊戯は安堵を覚える。
少し昔に戻れる気がする。

遊戯はもう一度左に曲がった。
「あれ?」

自動販売機が合ったはずの場所は覚えていたのにそこに光がない。
街頭もまばらな道だけに目立つと思ったのだが。
「自動販売機のお休みなのかな・・・。」

記憶によれば24時間営業のはずだったが、これも変わってしまったのだろうか。
電気が切れているだけかもしれないと思い、
遊戯は一応その場所まで掛けていった。

暗がりでよく見えなかったが、半径1mほどになると流石に判った。

「壊れてる・・・。」

そのドアはひしゃげている。
確か昼にも見た光景だった。

「コーラ・・・。」


壊れた自販機の前、遊戯は立ち尽くしていた。
直せるわけはない。
他を当たろうかとも思ったが、思い当たる場所を知っているわけもなく、
やっぱり帰ろうと向き直ると、声を掛けられた。

「おい。」

「え?」

思わず振り返ると、暗くて読み替えなかったが、
手元のバールが鈍く光った。

「うわぁ!」

驚いて尻餅をつき、見上げると、
彼らがヘルメットを被っているのが見える。

「だ、だれ?」
「てめぇこそ誰だよ。」
「ボク?ボクは・・・。」
「見たとこよいとこの坊ちゃんかぁ?
お坊ちゃま、こんな夜に一人でウロウロするなんて危険ですよぉ?」

声は若そうである。
馬鹿にしている口調だということは、つられて起こった笑い声に何となくわかった。
後ろにも何人か人が居ることはわかった。

「どこのガキだ?」
「ど、どこって?」
「パパは誰かつってんだよ!」
「パパなんて居ないよ・・・?」
「じゃあどこに住んでんだ?」
「えっと・・・その・・・。」
「ったくはっきりしろよ、ガキめ!」
「!?」

大きな声を出されて、遊戯は困惑した。
ただそれは自分が置かれている状況ではなく、
それに答えを持たぬ自分の存在に困惑していた。

「ねぇ、ちょっと反応がおかしいわよ?」
「とぼけてるだけだろ?」
「でも、流石にこんなことまずいわよ。」

男の後ろから女性らしき声の主がささっと前に出てくる。

「いい身なりしてるぜ?」
「だがよ、14番街のヤツかもしれねぇじゃねぇか。服なんてどうにでもなるぜ?」
「お前までコイツの肩を持つ気かよ!」
「肩を持つなんて・・・そういう意味じゃねぇよ。ただ、何処の誰の子供ともわからねぇのに、
何もリスク背負う必要はねぇだろ、っていってんだよ。」

何を言っているのか判らない。

だが逃げ出すことも無理だった。

「お坊ちゃま、てめぇは何処に住んでんだ?ここらへんか?」
「う、うん・・・。」
「じゃあてめぇは内側の人間なのか?」
「うちがわ・・・?ボク、お金持ちじゃないよ?」
「じゃあこっちの人間なのか?」

昼に聞いた話によれば、金がある人間は内側。
労働者は外側、らしい。
だが今の自分は労働者ではない。
かといって金持ちのお坊ちゃまでもない。

「・・・・わかんない・・・。」
「ケッ!ウソつくんなら、もっとマシなウソのつき方を覚えるんだな!
おい、コイツ、どっかにつるしておこうぜ!」
「本気なの?混乱してるだけじゃない!」
「だが外の人間じゃねぇのは確かだぜ?
それともお坊ちゃまは外の人間なのか?俺たちの同類なのか?」

手前の若い男は後ろの人間から何かを受け取り、遊戯の目の前に突き出した。
ビンの蓋に紙が詰み込まれているらしい。

「コイツが何かわかるか?」
「・・・わかんないよ・・・。」
「火炎瓶だ。」


ライターを突き出された。


「てめぇ痛い目にあいたくなかったら、外側の人間だっていうんなら、
コイツに火ィつけて、この壁の中に投げ込んでみろよ。」

指差された壁の向こう。
立派な瓦の屋根が見える。
それは所謂「内側」の人間の家だということは何となく判った。

「燃やすの?おうち無くなっちゃうよ?」
「いいんだよ、燃え立ってまた建てるだけの金があるんだからよ!」

遊戯はそっとビンに触れようとした。
だが、体が動かない。

「出来ねぇのか?オトモダチのおうちを燃やすことはできねぇか。」

ほらよ、聞いたか?
やっぱコイツは内側の人間なんだよ!俺たちの敵なんだ!

リーダーと思しきその男はでかい声でそれを言いちらし、
指を指して笑った。

「お前が食ってられるのは俺たちのお陰なんだぜ?
感謝しろよ、理解しろよ!
てめぇらが美味しいご飯を食ってる間、俺たちはパン一切れで働いてんだ!
よかったな!お前が怪我をすれば警察が動き、マスコミが騒ぐが、
俺たちが死んだって誰も何もいわないんだぜ!
ただ生まれが違うだけで、働く場所が違うだけで!」

男は熱り立ち、遊戯の腹を蹴り飛ばした。
パン一枚を食べるのさえ精一杯な小さな体は転がった。

「城之内!」
「名前で呼ぶのはご法度だぜ杏子。」
「おいおい・・・お前もだぜ・・・?」
「まぁ、口封じすればいいだろ?」
「だから、幾らなんでもやりすぎよ!」
「誰もみてねぇよ。やるんなら今のうち」
「待て!誰か来るぜ・・・?」

街頭の少ない通りを
影がゆっくりと此方に向かって歩いてくる。

「おうおうお兄さん方、ここら辺で小せぇのみなかったか?」

失神寸前だった遊戯はその声に意識を取り戻した。

「誰だあんた。」
「こっちの問いに答えろよ。これだから外側の人間は。」
「はぁッ!?」
「流石に聞き捨てならねぇな。」
「そう言われんのが嫌だったら、自分の振る舞いを考え直したらどうなんだ?
こんなちっせぇガキ一人をでかい大人が囲いも囲んでリンチとはな。
なっさけねぇな。」
「てめぇ!」
「やめろ、城之内。分が悪い。」

殴りかかろうとしていた男を、今まで沈黙していた男が制する。
その間に大丈夫か?と温かい指が遊戯を捉える。

「何があった?」
「あ、あのね・・・自動販売機壊れてたんだ・・・。」

バクラはそれを確認する。
大破しており、中身はもうないだろう。

「残念だったな。すぐそこにコンビニあっから、買いに行こうぜ。」
「うん。」
支えられて立ち上がる。
改めてヘルメットの男達を見た。
険しい表情。だが、目は怖くない。
きっと何かに追われている。苦しんでいる。
呆然とそう思う。

「状況から察するに、この火炎瓶をコイツに投げさせようってとこか。
だが残念。コイツはペットボトルより重たいものは持てねぇし、
その3mもある壁にぶつかるのが関の山だな。」

バクラは自分の胸ポケットから、ライターを取り出した。

「ここは変わりに俺様がやってやろうじゃねぇか。」

そう火をつけると、
一瞬ニヤリと笑って、
道路にたたきつけた。

あたりにガソリンが散布され火がつく。

その場に居合わせるものの顔が赤く照らし出された。

城之内は遊戯を見た。

服装はまさしく内側の様子であったが、
紫の瞳は高貴ながら虚無を湛えている。

「この・・・内側の人間が!」
「おーっと、俺様は内側の人間じゃねぇよ。
その証拠に良いことを教えてやろう。
てめぇらの壊した自販機には、警報機が入ってる。
音は出ねぇが、警察が来るまであと数分ってとこか。」

そういわれてヘルメットを被った男達、「義民」は、
お互い顔を見合わせてわたわたと散っていった。

「俺たちもトンズラしようぜ。」
「うん。」

バクラは遊戯を抱えあげた。

「バクラ。」

先ほど男を制した男がボソリと呟いた。
バクラもまたそれに応じる。

「こんな形で会うことになるとはな。てめぇもギミン入りか。」
「僕にもやるべきことはあるんだ。」
「憂さ晴らしなんてガキのすることだぜ。」

それだけ言って、
コンビニエンスストアへと歩き出した。

通りの先にあったコンビニに入るや否や、パトカーのサイレンが走り去ってゆく。

「ねぇ。」
「ああ?」
「ボクは、内側なのかな外側なのかな。キミは内側?外側?」
「無所属。」
「じゃあボクはなんだろう・・・」

生まれは外側。
でも労働者ではない。

社会には二種類の人間しか居ないはずなのに。
自分が何処に所属しているのかわからない。

「ボクは・・・何なのかな。」

明確化、単純化されたはずの社会なのに、
不透明で不確かで複雑なままの存在。
いや、二つに別けなければ悩むこともない。
強引に二つにしてしまったが為に複雑になってしまったのだ。

「お前は、お前だよ。内側でも外側でもねぇ。お前はお前。それでいいじゃねぇか。」

遊戯は力強く頷いた。





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前回に引き続き登場人物増加。

城之内、杏子、本田などは義民ご一行。
杏子と本田はすでに背景になりつつありますが、
城之内はこれから色々出てくる機会はあると思います。
義民の中心なので。


何でこんな話考え出したんだろうとかね、何となく思う最近であります。

やっぱり行動している方が書きやすいですね。







(09.03.24)AL41