*獏良による世界設定説明講座
*名前と人格の関係について。

*堅苦しいので、途中まで読めば十分話がつながります。(本当に)

*(まとめはあとがきにございます)



地球に国境線をひいたのは、
紛れも無い人である

唯我論者の誤謬 -9.二つの世界-





「外だぁ・・・。」

人が行きかう生きた道。

確かに昨日は実際に外を歩き、街を眺めたのは事実なのだが、
街を歩くのは本当に久しぶりだったと思う。

「どのくらい前なの?」
「うーんとね・・・2年くらい・・・かな・。」
「2年も?」
「うん。」

拾われてから、ずっとあの建物の中だった。
階段の上り下りはあったので、足が弱るということは無かったし、
外を覗くこともあったので新鮮な空気というのも懐かしいことは無かった。
だが人の活気というものに触れるのは久しぶりで、
2年より前を思った。

「色んなお店があるね!」
「そうだね。ここら辺はそこまで高級住宅地ってわけじゃないけど、
まだ余裕があるお店が多いからね。」
「ふーん・・・あ、朝ごはん食べないとね!」
「うん。僕もお腹が空いたよ。どのお店にはいろうか。」

二人は目に付いた喫茶店へと入った。
「懐かしいなぁ・・・。」
「そうなの?」
「ボク、ずっと前は喫茶店で働いてたんだよ。そこで一回会ったんだ。」
「アレに?」
「うん。」

獏良がバクラの名を出さぬことに違和感はあった。
だが、何となく出してはいけないのかと思って聞き返すことはしなかった。
2年間、基本的に沈黙が美とされた。
二人組みでくる客は、少年と関係が無い職業的な取引をすることも少なくなかった。
酒を注ぎながらそれを耳にしたとしても、口にしてはいけない。

バクラの職業が表に出来ないことであるだけに、
やはり黙っておくべきなのだろうと思う。

初めて会ったのに、まるで以前から一緒に居るかのような、
他愛の無い会話をする二人の前に、クラブハウスサンドが運ばれてくる。
こんがり焼けているパンにレタスやトマト、ハムの代わりに照り焼きが挟まっている。
「おいしそうだね!」
「遊戯君も食べなよ。」
「ボク、殆ど食べられないんだ・・・。昨日も折角のハンバーガーだったのに、
半分しか食べられなかったんだよ。」
「今は少ししか食べられなくてもそのうち一杯食べられるようになるよ。
遊戯君はまだ成長途中なんだからね。」
「うん!」

二人は仲良く一皿のサンドイッチを食べて、
ゆっくりと珈琲を味わう。

「珈琲豆って売ってるかなぁ。」
「部屋で淹れるの?」
「うん。久しぶりに淹れたいなぁって。」
「確かこの商店街の先にあったと思うよ。いつもいい香りがしててね。
アレも喜ぶよ、きっとね。」
「ありがとう!でも、ボクお金持ってないよ。」
「遊戯君が気にすることじゃないよ。」
「でも、」
「多少は受け取ってきたよ。それに不足しても僕があとでしっかり請求しておくから。
ああ見えてもね真面目に払ってくれるんだよ。お金に対する執着が無いんだろうね。」

明日の存在さえ信じていない男が、金など溜め込むことは無い。

ただ缶コーヒー一杯分で働かされるなど真っ平で、
大金積み上げてでも人を殺してほしいと言って来る依頼人をあざ笑うのが好きなだけだった。
それに、金はあって困らないというのが彼の主義で、
いざ必要になったときに手持ちがあるに越したことは無い。
弾や銃、食費の購入以外の使い道が無いだけに、
ケチというわけでもないらしい。

遊戯が何を買おうがたぶん文句は言わないだろうし、
請求したところで言及はしてこないのは知っていた。


何を買おう、何が欲しい?と今後の予定を楽しく話していた二人の会話を
4台の車は騒々しいサイレンの音で邪魔をしながら、
ガラス窓の向こうを走り去っていった。
その後を救急車が追ってゆく。

「騒がしいなぁ・・・それにしても警察が仕事をしてるなんて珍しいね。」
「そうなの?」
「もうここら辺の街じゃ見かけなくなったからね。
昔はしょっちゅう出入りしてたんだけど、色々あって、相手にしてくれないよ。
でもまぁ最近は問題も多いし・・・放って置けない状態なのかも。
その上これだけ来るってことは、よっぽどのことなんだろう。」
「ふーん・・・。」

2年というのは予想以上に長い月日らしい。
遊戯の知っている社会はすっかり影を潜めているようだ。
それとも平和だったのは遊戯の住んでいた街だけで、
他はこんな状況だったのかもしれない。

「浦島太郎って大変なんだ。」
「?」

昔読み聞かされた御伽噺の主人公の苦労にうんうんと頷いて、
不思議そうにしていた獏良にニコリと笑いかけた。

珈琲を空けて、店を出る。

室内では気づかなかった騒がしさに気を取られた。
「・・・事件か・・・。」
「お巡りさん一杯だね。」

珈琲豆を手に入れるには、そこを通るしかない。
獏良は遊戯を右手に繋いで、さっさと黄色いテープの横を通り過ぎようとした。
だが、担架に乗せられている恐らく被害者であろう者が子供だと気づいた時、思わず足を止めた。

「了君?」
「あ、ああ、ごめんね。」
「誰か怪我しちゃったのかな。」
「・・・怪我だったら良かったのにね。」
「え?」
「たぶんね、もう間に合わなかったんだよ。」

治療されている様子はない。

昨日、その人は自分の明日の存在を疑ったのだろうか。

分らない。

その命を奪ったものは何か。
通り魔か、誘拐犯か、不慮の事故か。

「ほらほらどいてどいて。」

ぼんやりとそんなことを考えていると警察に注意された。

「何があったんですか?」
「殺人事件だよ・・・ったく、お陰でこんな街にまで来なきゃけねぇとはなぁ。」
「お偉いさんのお子さんなんですね。」
「ああ。昨日の夜誘拐されたとかって通報があってな、犯人は要求をウダウダ言った後、
さっぱり連絡はとってこねぇで、いきなりコレだぜ。
こっちの身にもなってくれよ。
これで帰ると、『どうしてうちの子を助けてくれなかったんですか』っていうんだぜ?
うんざりだ。」

警察官の姿をみて、何だか遊戯は怪訝な顔をしていた。
たぶん彼の知っているお巡りさんとは似ても似つかないのだろう。

「あんたらは何かしらないか?ここら辺で愚民を見なかったか?」
「犯人ですか?見てないです。ねぇ?」
獏良はとぼけるような声をだして、遊戯に同意を求める。
一瞬驚きつつも求められた行動をする。
「う、うん。」
「ほう、坊主かわいい顔してんじゃねぇか。」
漸く遊戯の姿に気づいたらしい警察官はその頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「まぁここら辺の街に住んでる奴は大丈夫だろうが、
見たとこじゃよさそうなもん着てるし、良いとこの坊ちゃんにでも間違えられたら、
どんな目にあうか分ったもんじゃないぜ。
ここら辺は“愚民”がウロウロしてるからな。」
「そうですか。お疲れ様です。」

逃げるようにして獏良は立ち去った。
少し行くとあの妙な騒がしさは消えて、街はいつもの顔に戻る。

「やな感じだったね。」
「・・・そうなの?」
「いきなり遊戯君の頭を撫でるなんて、どうかしてるよ。
でも色々しゃべってくれたね。」
「でもボクよくわかんなかったよ。なんで殺されちゃったの?」

ああ、そうだ。本来、殺される理由などないはずだ。
この社会の中にいるだけで、自分の感覚が麻痺していくようだ。
殺されて当然だと思ってしまう。

「今はね、平和じゃないんだ。それは遊戯君も分るよね。
そもそも平和だったらアレも違ったと思うよ。
もっとまともな職業についてたか、或いは・・・まぁそれはいいとして、
平和でもない、けど、普通でもない、そんな社会になってしまったんだ。」


遡れば5年前。

「社会は二つになったんだ。」
「ふたつ?」
「他の国と仲が悪かったんだ。それで景気が悪くてね。
でも、それじゃあこの国の皆がダメになっちゃうっていうんで、
お金持ちとそうでない人とに別けたんだ。
お金持ちのお店でそうでない人を雇う、お給料をだす。
そのお給料を使うことで、お店が儲かる。お給料が出せる。
この国だけで経済活動を活発化するシステムを作ろうとしたんだ。
でも、そんな簡単に行くわけもない。
それに、外国との仲もだいぶよくなって、お店で出来たものを外国へ出すようになったんだ。」
「お店が儲かるの?」
「そうだね。一杯売れるね。」
「そしたらお給料もあがるね!」
「・・・それはダメだったんだ。」

利益を生むには、
原材料を安くし高い金額で売る。
さらに、
人件費を削る。

だが、人件費を削れば給料も下がり、労働者は買えなくなる。
さらに外国へ輸出することで、国内の商品は減り、価格は更につり上がった。

「政治をする人は皆お金持ちだ。美味しいものは食べたいし、高い服が着たい。
もし彼らの取り分を減らして働く人にお金を出そうという考えがあれば、
こんなことにはならなかったかもしれないけど、そうは行かないよね。」

貧乏人はより貧乏人になった。
ただ働き同然という者も少なくなかった。
だが彼らを餓死させぬために食料だけはまともに用意された。
死ぬことも許されなかった。

隣で働く者の名前など知らない。
雇っている人間も自分の名前など知らない。
自分が誰であるのか、分らない。
自分が自分である必要が無いのだ、
自分を失った人間は、隣で働いている誰かと何が違うのか。


思えば楓という人間は遊戯ではなかった。
2年まえ、見知らぬ男に連れられて、良く分らない暗がり店内で、小奇麗な男が大金を積み上げて遊戯を引き取った、
その瞬間から、
遊戯という人物は眠り続けた。
その間その体には楓という名がつけられて、その身を売った。
2年も娼館に居たのだが、誰も遊戯を知らない。
そして、
匣の中で遊戯は目覚めた。
呼び起こされたのだ。

「きっと苦しいね・・・。」
「そうだね。でも、黙って働かされている人だけじゃない。」

獏良はふと細い路地にある自動販売機を指差した。
「?」

一見自販機とは分らなかった。
フタが無残にも引き剥がされている。
中の鉄板は拉げており、
粉々になったプラスチックがキラキラしていた。

「ボロボロだね。」
「バールでこじ開けられたんだ。彼らなりの抵抗の形、なのかな。」
「彼ら?働いてる人?」
「うん。労働者の、20前後の一部がね、自分達を“義民”と呼んで、戦っているらしいよ。
上の人間はそれを“愚民”と呼んで差別してるみたいだけどね。
前は自販機壊すとかで済んでたんだけど、最近は色々事件を起こしててね、
さっきの事件も彼らのせいじゃないかっていわれてるみたいだね。」

自分達の待遇の改善を求め、
金持ちを妬み、子どもを誘拐してきて、
そして殺した。

「彼らのせいにするのは簡単さ。動機は十分だし、
警察も楽なんだよ。」

了がそれを快く思っていないらしいことを感じた。
遊戯は自分のうちに疑問がフツフツ湧いてくることに気づいたが、
知らぬフリをして、話題を変えようと思った。


「そういえばさ、二人は兄弟なの?」

よく似てるよね!との補足によってその二人が了とバクラを指すことは判った。
遊戯としては了の気分を変えるつもりで聞いたのだが、
了は首をひねって表情は硬い。

「わからないんだ。」

疑問を呈したいのは遊戯なのに、了もまた不思議そうな顔をしている。

「僕とバクラは、一体どんな関係なのか、わからないんだ。」

了は事を整理するようにポツポツとしゃべりだした。

「彼は・・・急に僕の前に現れたんだ。僕は驚いたよ。
どうしてこんなに似てるんだろうって。
でも向こうはあんまり驚いてなくて・・・。
生き別れの兄弟が居るなんて話は母さんからも聞いてないし・・・。」


僕は彼を知っている。
何に関しても雑で粗暴で、でも妙なところはかっちりしてて、
それほど馬鹿じゃないし、彼なりに考えをしっかり持ってる・・・。
でも、知らないんだ。
彼と僕の関係がどんなものなのか、彼は一体何者なのか。
僕は彼の名前さえしらない。


「バクラじゃないの?」
「うん・・・。僕と初めてあったときに、『じゃあバクラでいい。』って。
彼がバクラと名乗り始めたのはそれが最初だよ。」
「ふーん・・・。」


そもそも名前とは一体なんなのか。
名前とは誰が決めるものなのか。

誰かがそれを楓と名づけたら、
それは楓になるのか。
たとえ本人が他の名前を名乗ったとしても、
楓でなければいけないのか。
その理由はなんだ。

「ボクは楓じゃない。」

自分は楓ではない。
自分の名は遊戯である。
それは何故だ。

最初に遊戯と付けられたからか?それとも親がつけたからか?
名づけの親が娼館のオーナーというだけで、
大差がないことに見える。

だが自分は遊戯だ。

何故?

「ボクは遊戯だ。」
「遊戯君?」
「ボクが自分を遊戯だって思うから遊戯なんだ。
きっとバクラだって自分をバクラだって思ってるからバクラって名乗るんだ。
だから、それがバクラの名前なんだ。」

バクラに本当の名前があったとして、しかし了が幾らその名で呼んでも振り向かないかもしれない。
だが「バクラ」と呼んで無愛想に振り向くのであれば、
それが名前でないのか?

「そうだね。彼はバクラだ。」

自分でもよく判らないまま彼をバクラだと思った。
返答に遊戯はにこにこと笑っていて、
何だかどうでも良くなった。

「さ、もうすぐ珈琲専門店だよ。」
「うん!・・・あ、いい香りがするよ!」

了の手を引いて駆け出した。
振り回されているのは楽だった。





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堅苦しい話でした。

此所まで読まれた方、お付き合いいただきありがとうございました!



この話で説明したかったことは前半が全てです。

1.特権階級と労働者の完全二分化したこと
2.労働者の中に義民と名乗る集団が居ること

1の説明は了が遊戯に適当に説明しているので、事実ではありません。
イメージとしては、
格差社会とでも思っていただければ十分です。
全員が特権になることなど不可能であるので、
現時点での特権民は自分の地位を守るべく、労働者を犠牲にした的な。
普通の格差社会との違いは、労働者にあったはずの権限(選挙権・団結権など)が剥奪されたこと・・・?
基本的人権とか無視無視です。

なので、2のように集団をつくること事態が問題です。
どんな時代にも反体勢力ってもんは居るもんです。



以上が、前半の内容。


後半は、

極論、
自分の名前を疑問に思ったことってないですか?
という話。

HNとか考えるたびに思うことがあるんです。
このサイトで管理人をしているときは41という名前なワケです。
でもブログに行くと別の名前があって、リアルネームがあって。
じゃあ自分は誰なのか。

社会で生活する為には、戸籍に登録されている名前じゃないと色々不便だからそう名乗っているだけで、
自分の名前が嫌な人は、別の名前を名乗ったっていいんじゃないのか。

むしろなんで自分が嫌な名前を名乗っている必要があるのか。
現実で41と名乗ることの何が問題なのか。

そもそも名前というのは自分と他の子を区別するために親がつけるのではないのか。
当人に決定権がないのは何故か。

ある人は戸籍に○○という名があったとして、
でも「○○」と呼ばれても振り向かない。
「■■」と呼ばれて振り向くのであれば、その人の名前は■■ではないのか。

名前が無いというのはいけないのか。
名前がなかったら隣の人間と同じになってしまうからいけないのか。
それぞれの個体に別々の人格が宿っているのに同一人物になるわけが無い。
ただ、社会的に見れば全員同じである。所謂カオスという奴になる。
それを回避するために名前でもって区分けしているだけ?
キーボードと指が別々に物であるのは、別々の名称があるから、という説があるようですが。

まぁ名前が無いというのは不可能で、誰かしかが名乗りだすことでしょうけれど。



そういう意味でのネットというのは不思議ですね。
此所で41が「武藤遊戯」を名乗ったら武藤遊戯になってしまうわけです。
なりきりではなく本人になるわけです。

ただ『遊戯王』の武藤遊戯と別人であるだけで。

この世の二次創作の海馬瀬人が何十人何百人と居るのに、
全員が別々の人物なんです。
「ここの海馬瀬人はカッコイイ」とか「このサイトの海馬瀬人は変態」とか。
元は全部『遊戯王』の海馬瀬人のはずなのに。

不思議だ。

と、思いません?


こういう話を始めると本当に止まらないんですよね・・・危険だww


(09.03.01)AL41