*痛いシーンがあります;;;;
*血とか出てます;;;
*今回は特に、口が悪い回です。
*必要なのか必要じゃないのか良くわからない回(笑)
唯我論者の誤謬 -7.冥闇の刻-
自室の、座りなれた椅子へ座った。
思えば長いことこの椅子の上にあった。
敬った時も、憎む時も。
だからこそこの椅子の上で嗤ってやろうと思ったのだ。
だが一切嗤えぬ。
あの男は死してなお、自分の記憶を激しく切り裂いた。
痛い。棘が刺さったような痛み。
心臓は抉られたと叫ぶかのごとく悲鳴を上げて、
瀬人は机にうっつぷした。
なんだということだろう。
確かに義父を殺すよう依頼したのは自分である。
そしてそれは死んだ。望んでいた死である。
憎悪を秘して来たのは何故だ。
求めていたものが手の中に計算どおりに転がり込んで、
それで充分この心が満たされるというのに。
満たされると同時に、切り裂かれて、
押し込んでいた罪悪感がドロドロと溢れてくる。
「これでいいんだ。」
ああ情け無い。
だが、自分の思索を本当に制御できるものなどいない。
どれだけ自分に語りかけても、頭は既に罪の意識におぼれている。呼吸が出来ない。
そんなことは誰でもあることだ。
葦が人であるためには考えなければならないのだから。
だが、
自分が月並みな人間であることが許せない。
「俺が良いと言っている!」
瀬人は机の上に置いてあったペンを握り、自分の左腕に突き刺した。
ジワリと青いワイシャツが赤く染まる。
それを見る眼に感情はなかった。
頭が暴走しすぎて、体と分離してしまったのか、痛みを感じない。
いや、恐らくは、
腕の痛みよりも心の痛みが酷かったからであろう。
呆然とそれを見ていた。
使用人が部屋にやって来た時、それは茶色になっていた。
後から思えば好都合であったか。
瀬人は敬愛する義父を失った哀れな養子を演じる必要はなかった。
食事を拒否したことは、傍目には悲しんでいるように見えたであろう。
食事が喉を通らない、
口を動かすことも億劫で、ベッドに横になる気もない。
こんな時こそ誰か夜伽でもあればよかったのかもしれない。
誰かを滅茶苦茶にすれば、自分の心も紛れるだろう。
たとえそれが一時の麻酔のようであるとしても、今はないよりマシだと思う。
持ち出してきたファイルを開く気力はない。
触る気力も起きなかった。
手当てを受けた左手が握力を放棄していたこともあって、
瀬人は着替えもせずにベッドへ向かう。
ベルトを引き抜けば少しは楽になった。
シャワーは明日浴びれば良い。
眠りに付こうと見慣れた天蓋を眺めて、
嘗て慙愧にも羨望にも、真っ向から立ち向かった日々を思う。
「これでいいんだ。」
心はゆっくりと再生を始めた。
細胞が活発に分裂をして、切り裂かれた傷を消してゆく。
もう少し時間が取れればよい。
夜伽、この感情の矛先にできるものが居ないのであれば、
他の方法で心を紛らわすしかない。
戸惑っていた思索の中に、問題を1つ投下してやったのだ。
死者には無い未来の提議。
無事に海馬重機工業の代表取締役という地位を手に入れた。
だが、問題はここからだ。
この地位を手に入れたかった目的は、
現在調整中の軍事兵器の開発を中止することだ。
「非人道的」などと言うつもりは無い。
そんな事をいう資格がそもそも存在しない。
別にその兵器で誰が死のうとどうでもよい。
戦争など始めたやつも応戦したやつも敗者だ、そう瀬人は思う。
今の状況は決して悪くはないものだ。ただ、
ただ、自分の作った兵器が、あの男の功績になることだけが許せなかった。
無論、理由はそれだけではない。
今の政治家に自分の作った武器を持たせたくないのだ。
現在の政治は混乱している。
停滞、に近いのかもしれないが、
何をしでかすのか解らない恐怖がある分、混乱といえよう。
もっと適切だが、非道徳的な言葉で言えば、
イカれている、が一番であるが。
ああ、そうだ、今の政府は正しく薬物中毒である。
浮かれ、周りの様子が見えていない。
一流企業であっても、それが安心出来るかと言えば怪しいものだ。
今であれば幾らでもヤツラは金を出して、新兵器を言い値で買うだろう。
しかし、金として機能するか見込みは無い。
信用できない国の国債など誰が買うものか。
今のこの国、特にこの都市は
火薬を使いながら火薬を作っているのだ。
誰かが煙草の火を落とせば、
たちまち焼け野原である。
この屋敷も持たないだろう。
いずれにせよ、兵器開発から撤退することは決めている。
問題は、
軍需で甘い蜜を吸ってきた重役共をどうするべきか、だ。
首を切っても構わないのだが、
大幅な構造の改革は社会へ疑問をもたらすに違いない。
軍需からの撤退自体、社運をかけた大事には違いないのだが、
重役共を切ったとすれば、先代社長と自分の間に軋轢があったと噂されるだろう。
生まれたばかりの事業がスキャンダルで潰されるなど情け無い。
今は新たな事業が無事波に乗せることだ。そしてヤツラの首を切れば良い。
それまでをどうやり過ごすか。
妙に殺しても問題になりかねない。
ここは一見何も無いかのように見せるべきか。
もし、ヤツラの首を切る都合のよい理由があればいいのだが。
瀬人はベッドから抜け出して、パソコンの電源を入れる。
左手はまだ痛い。
心もまた溺れたままだ。
だが、立ち止まっている場合ではない。
剛三郎という男が残すものは資本だけでよい。
軍縮の波に飲まれて沈没するくらいなら、宙に浮き、回避するのみ。
これからは海馬重機工業は海馬コーポレーションとして新たに進み始める。
剛三郎を消し去ることは宇宙へ旅立つシャトルがブースタを切り離すのと同じ。
否、外部燃料の如く大気圏で燃え尽きてしまえ。
そして残るは自分の名であるべきだ。
パソコンのOSが起動したのを見て、USBメモリを差し込む。
大量のファイルが出てくる。
あの男らしく、フォルダ分けが適当である。
ソフトが作ったフォルダの方がわかりやすいとはいかがなものか。
多数あるなかからメールのバックアップを見つけた。
それを開き、差出人をリスト化する。
自分が送ったもの、役員、政治家、他企業の役員などが並ぶが、
「医者?」
医師と思われる人間からのメールを見つけた。
何処か悪かったのだろうか。
まぁ今となってはどうでも良い話だ。
役員の、とりわけ重役5人のメールを確認する。
一人目のメールを確認していた時、
気になる単語を見つけた。
「蛇?」
蛇という単語がさっきから目に留まる。
その瞬間に背筋に悪寒が走る。
蛇と呼ばれる人物。
蛇という単語は恐らく誰かのコードネームだということは流石にわかる。
だが男か女か。
蛇でフォルダ内を検索する。
大量のファイルが検出される。
「(今日全てを確認するのは難しいな・・・)」
しかし、体を駆け抜けたこの悪寒。
少しでも尻尾がつかめないだろうか。
いくつかファイルを開くと、それが政府関係者であることがわかる。
国に兵器を売っていた会社であれば関係があることは当然のことだった。
瀬人自身も知っている顔はある。
「(だが、蛇と呼ばれる人物は・・・)」
剛三郎が蛇と直接連絡をしたことはないようだ。
人を介して連絡を取っているらしい。
義父が一企業の取締役として接していたのであれば、
自分も蛇と会う機会はあるように思う。
だが、例えそれが世間では黒であろうと、顧客をコードネームで呼ぶ必要があるのだろうか。
たとえ商品が兵器であっても、隠されるものではない。
疑問は膨れ上がる。
そして、
あるファイルを開いた時、
疑問は危機へと変わった。
瀬人は慌てて
会社内の生産タスクの確認をする。
「我が社で生産しているわけではないだと・・・?」
自社の兵器を他者に作らせることはしない。
情報が漏れることを恐れていたからだ。
しかし。
「無い・・何故だ!」
USBメモリ内を検索にかける。
その間に自分は紙の資料を漁る。
しかし無い。
「ここの屋敷にあるのか?それとも社か?」
その可能性は充分にあるのだが、嫌な予感だ
見つからない。
立ち上がり、部屋の棚の所定の場所を探す。
だが、無い。
「クソッ!」
読まれていたのだ。
瀬人が海馬重機工業を軍事から撤退させることを。
だからこそ外へ持ち出した。
ああ、あの資料1つあれば、
国家予算どころではない。
「あれは、危険だ」
心の傷はすっかり癒えた。だが、
今度は激しく捻り潰される。
机の上頭を抱えた。
眠れない夜だった。
頭が冴えてしまったのか。
「生きるために生きる・・・ねぇ・・・」
生きることに何の価値があるのだろうか。
そもそも自分の命に価値はあるのだろうか。
この時代にそんなものは存在しない。
失われた日々。
自分の存在を失い、隣の人間と同じになる日々。
自分も他人も存在しない中で、
生きるとはなんなのか。
生きる必要があるのだろうか。
「・・・ま、人の自由か。」
自分の命に価値を与えられるなど、ステキなことだ。
一々否定する必要も無い。
夢を見ている人間に、「お前は夢を見ているだけだ」と語っても、
信じないのと同じ話だ。
存在しないものの存在を信じ続ける自由くらいはあってもよかろう。
結論が出ても、バクラの頭は冴えたままだった。
部屋から出て、居間に降りると、
起きているといったはずの遊戯はソファの上で眠っていた。
大して大きなソファでもないのに、すっぽりと収まっている。
自分の着物を掛け布団代わりにしているらしい、白い襦袢が見える。
ああ、そうだ遊戯の寝る場所を考えて居なかった。
大丈夫とか言っていたが、案の定寝ているし、このままでは
多分風邪を引くだろう。
そうなると色々厄介だ。
「ったく、世話が焼ける・・・。」
バクラは遊戯を抱えあげた。
どうせ今夜はもう寝られないのだからベッドを譲ってやろうと思ったのだが、
それにしても軽かった。
背丈の小ささだけではないだろう、
安いハンバーガー1つも食べられないのだから。
「そんなんじゃ生きてけないぜ?」
細い手首は、力が強いわけではないバクラでも折れそうなほど細い。
寒さになど耐えられなさそうな体。
温かくなさそうな着物。
「・・・。」
よぎったことを口にはしなかった。
暫く、その寝顔を眺めていた。
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社長が焦っていた件に関しては、次かその次当たりで説明になると思います。
当初の予定ではこの回は存在しなかったのですが、
社長もメインの1人のわりに、社長側の事情が無さすぎたので。
次は遊戯は主体。
段々人が増えますw
(09.02.02)AL41