『あ』




遊戯が学校を休んだ。
なにやら熱を出したらしい。

それは教師が言っていた。

おかげで、
さっきからアテムは10分置きに携帯を見ている。

連絡がない。


決めたわけでもないのだが、
お互いに何気なく時間を合わせて登校している2人。
いつも通りにきたはずのアテムは、その日遊戯を見かけなかったので、
少し不安になりながら登校したのではあるが。

的中してしまったのだ。

熱がある人間が、携帯でメールを打つのか解らない。
だが、
一応、アテムは恋人なのであって、
一言位何か送られてくるんじゃないかな、などとちょっと思っているのだ。

要は溺愛する恋人からメールが欲しいのだが。

無論、此方が送れば返信してくれるような人なので、
アテムが送ればいい話なのだが、
寝ているだろう人を起すのは悪いと思うだけの配慮はある。

それで、昼休みまで、
ひたすらメールが来るのを待っていた、という理由だ。

だが、一向に来ない。
何度センターに問い合わせたのかもう解らない。

昼になっても起きていないのだろうか。
そんなに熱が酷いのだろうか。


様子が解らないために、より一層不安になる。


どうしようか。
メールを出してみるべきか?
だが、迷惑になる事だってあるし・・・

とはいっても、
昼はちゃんと何か食べて薬を飲むに違いない。
あのママさんなら、きっとそうするだろう。

起きているには起きているだろうが・・・

それに、
連絡1つ寄越さない恋人とはどうだ?
俺が心配性なのは、相棒が一番知ってるに違いない!

そう決心し、
アテムはやっとメールを送った。

そして再びずっとセンターへの問い合わせのターン。


「(俺は何をしているんだ・・・)」

流石にそう思い、携帯を仕舞おうとするが、
仕舞った瞬間に返事が来るかもしれない。

まさか自分がこんなに未練たらしいとは、
流石に可笑しいが、
携帯を見ていると、より情けなくなってしまう気がする。

「(こんなんじゃ、相棒に頼ってもらえないぜ。)」

遊戯に、強がった演技が通じるとは思っていないが、
それでも頼れる恋人で居たい。

アテムは断固たる意志で携帯を胸ポケットにしまった。


それでも不安なものは不安だ。
そして、ポーカーフェイスのアテムにしては珍しく、
顔に出ていたらしい。

「アテム、どうした?」
「いや、特に、」
「遊戯、熱があるって言ってたけど、大丈夫かしら。」
遊戯からメールとか無いの?

杏子はそう心配してくれる。
アテムに来ていないというのなら、
他の誰にも来ていないだろうということは、流石に解りきっていた。

「メールは出したのか?」
「一応な。」

何とか強固な意志でしまった携帯だが、
あっさり出てきてしまう。

自分の意志の弱さにはゲンナリするが、


出した瞬間に、携帯が震えた。


「あ、相棒!?」
「すげータイミング!」

城之内が言って出したら来たというのが、
アテムには僅かに悔しさを感じるが、
それよりも返信内容が気になる。



『だあじようぶたよ、あ』







「・・・?」
「・・・?」
「・・・。“だいじょうぶ”・・・『大丈夫』、なのか・・・。」

大丈夫が打てない時点で大丈夫ではなさそうなのだが。

「結構やばそうだな。」
「そうね。家に誰かは居るの?」
「居ると思うが。」

これだけ酷いと、見舞いに行っていいものか。

「大勢で押しかけるってワケにはいかねぇよな。」

城之内はアテムの胸中を察したらしい。
何といっても、遊戯の親友だ。
恐らく、遊戯やアテムが何も言わずとも、
2人に関係は知れているだろう。

「俺は今日バイト入れちまったし、アテム俺の分も見舞いに行ってきてくんねぇか?
杏子、それでいいだろ?」
「え、うん。遊戯にプリント渡さないといけないしね。」

じゃあ、アテムよろしくね。

友人の気遣いが心にしみる。

「それにしてもよー、『あ』ってなんだったんだろうな。」
「『あ』、『あ』、・・・んー、アテム?『大丈夫、アテム』・・・何か変よね。」
「読点と句点を打ち間違えた可能性もあるからな。」
「そうね。でも『明日』とかなら、どうかしら。」
「あー、なるほどね、明日は行けそう、とかそういうのってことか。」

遊戯のことだから、途中で送信しちゃったのだろうとは思うが。
あ、
それは非常に気になる文字だった。

無論、い、だの、うを入力したかったのかもしれないが。



放課後、
アテムは教師から預かったプリント一式、学年末で量が多いのだ、
そして、一応清涼飲料水などを手に遊戯の家へ向かう。

途中、彼の頭を支配していたのは、
さっきの『あ』のことだ。

自分の名前であれば?
それは非常に嬉しかった。
遊戯はメールのときはアテムと入れることがあったし、
何より、恋人と意識している時は、割と「アテム」と呼んでくれる。
遊戯が熱に浮かされただけだとしても、そう意識してくれていることが嬉しい。

それ以外に、何かあるか?

あ、

あ、


・・・

その後思いついたのは、
アテムにとって都合のいい、
しかし遊戯が言わないだろう言葉ばかりだった。

自分で考えて自分でドキリとしている自分自身が、
恥ずかしくて、彼らしくもなく俯いて歩いた。

きっと『明日は行けるよ』とかが妥当なのだとそう、
より多くを求める心にケリをつけてインターホンを押した。

遊戯の家には相変わらず人のよいママさんがいて、玄関を開けてくれた。
「あら、お見舞いに来てくれたの?」
「相棒、調子、悪いんですか?」
「ちょっと熱がでちゃってね、昼間に薬飲ませて、今は横になっているわ。」
「会えますか?」
「ええ。」
そう、差し入れに礼を述べてから招き入れてくれた。

相棒の部屋には何度も行ったことがある。

人がいるから、流石にあからさまなことは出来ないのだが。
そのもどかしささえも好きだった。

ドアをノックする。


すっかり母親が来たものばかり思っているか?
驚くだろうか。

「熱は下がったか?」

アテムは得意げにそう顔を出したのだが、
布団に包まり、紅い顔をしている遊戯は、特に驚く素振りを見せないのだ、
これは少々寂しい。

「やっぱり、来てくれた。」
「解っていたか?」
「解るよ、」

包まっている遊戯は、
何時も以上に幼く見えて、愛おしい。

無理に体を起そうとする遊戯を止めて、ゆっくりと横にさせる。

「解るよ、キミの足音がした。」
「階段のか?」

うん、と頷く。

予想以上に遊戯の熱は酷く、
頭は重そうだった。

これではメールを打つのも一苦労だろう。

額にはタオルがのせられていたが、すでに温かくなっている。
酷く汗をかいているのは解った。

「相棒、水分はちゃんと取っているか?」
「んー・・・。」

持ってきた飲料水を渡すと、
それを飲むために遊戯はもそもそと体を起した。
恐らく遊戯には開けられないので、あけてやる。
遊戯は俄かに嬉しそうな顔をしてくれた。

遊戯が飲んでいる間、
アテムは額のタオルを冷やしなおす。

「汗が酷いな。」
「でも、朝よりずっといいんだ。だから、明日は行けるよ。」
「『明日はいける』・・・か。」
「なに?」

不思議そうな顔をするので、
メールの話をした。
みんなの予想が『明日はいける』であったのだ、と。

ただ、アテムは自分が欲しいと思った答えは言わなかった。

「それは、」

ちょっと、違うよ。

そう、恥ずかしそうにして、でも優しい顔をしていうのだ。

「“明”日は、“ア”テムに“会”えるよ。って。」

会いたかったんだもの。

「相棒、そんな顔は反則だぜ?」

本当はぎゅっと抱きしめたくて、
キスがしたくて仕方が無かったけど。

「相棒、今日はゆっくり休んで、明日、学校で会おう。」

そのときのアテムは、
本人の無意識であったが、
酷く優しい顔をしていたのだろう。

遊戯は、甘えるような顔をして、
コクリと頷き、布団にもぐった。

遊戯が眠りにつくまでアテムは隣に寄り添っていた。

熱が移ったわけではないのに、
胸のうちはずっと熱いままだった。





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偶然の産物。





(08.03.09)AL41