*オチみえみえ
斜め上をいく
陸が見え始める。
疎らに見える明かりの多さが懐かしく感じる。
これといって日本に帰って来たいという気持ちを意識していなかった海馬は、
今更になって気づいて苦笑した。
近年、入国管理が厳しくなっている。
密入国の大幅な増加に伴い、個人の飛行機では入国審査が厳しくなった。
海馬は不本意ながら民間の空港会社を利用して日本へ帰国することにしたのだ。
彼は日本に執着など持っていない。
弟も任せた仕事に取り組んでいて今はアメリカに居る。
実は海馬自身も仕事が全て片付いたワケではないのだが、
日本に市場基盤があるからには日本に帰って来ざるをえない。
帰ったところでやることは山済みだ。
自身が空けていた間、部下に毎日詳細な報告こそさせていたものの、
自分の目で見なければ不安であるし、新たな問題が起きていることも考えられる。
この肩の凝りは長旅の疲れだけではない。
しかしそれでも此処へ帰って来たかったのには理由があるのだ。
機体が着陸し、ゲートへと隣接していく。
ドアが開くとさっさと降りて真っ先に携帯電話を確認する。
電源をつけた瞬間に、思わず苦笑して、
僅かな期待と共にセンターに問い合わせる。
仕事からは山のように電話やメールが送られてきているが、
流石に欲しい人からは無い。
他の恋人と言うものがどうなのか知らないが、
海馬の恋人は向こうから連絡を殆どしてこない。
恐らく、珍しい方だとは思う。
メールであれば海馬の仕事の邪魔には殆どならないと何気なく伝えているが、
それでも思い出したように1通2通来る程度で、
その後はさらさら送ってこない。
此方が送れば反応するのだが。
寂しいことに違いは無いが海馬は余り強く要望しなかった。
無理に送ってきたメールでは何か機械的な感じがするし、
殆ど送ってこないからこそ、送られて来た時は非常に嬉しい。
そう考えて我慢している。
そんな恋人だからこそ、なのだろうか。
本当ならば、直行で彼の家へ行って驚かせたいとさえ思っている。
だが、友人の多い彼は何かと何処かへ出かけている気もする。
其処まで考え至ったとき、丁度アドレス帳を開いて改めて気づく。
帰国したいと感じた理由。
小さなモバイル越しにはいくらでも声を聞けるし、姿も見られる。
だが、所詮は記録でしかない。
コロコロと表情を帰るあの顔をこんな小さな媒体に収められるわけも無く。
一ヶ月あの顔を見ていないと不安になってしまう。
昔は散々、あの男を依存症と詰っていたが、
気づけば自分も依存症になっていたらしい。
付かず離れずの距離がそうさせるのか。
海馬は躊躇い無く電話をかけた。
『もしもし?』
遊戯は案外早く電話に出た。
家に居るのだろう。
「俺だ。」
『海馬君?うん、あれ、どうしたの?もしかして帰って来た?」
「何か都合が悪かったか?」
『全然。』
今何処に居る?
聞こうと思ってやめた。
家であれば社に戻る前に顔だけ出していこう。
少し驚かしてやりたいし、
そのまま連れて、離さなければいい。
『海馬君今何処?』
「空港だ。」
『じゃあ着いたばっかりなんだ、お疲れ!」
「座っていただけだ。」
座ってるのも疲れるじゃない、と笑う。
今はどんな顔をしている?
予想は出来るのに、それでも見たいと感じてしまう。
『海馬君、これからすぐ会社に行くんだよね。』
「そうだな。何だ、会いたがっているのか?お前にしては珍しいな。」
『別にいいじゃないか。』
冷やかすと一寸照れたような声で反論してくる。
早く、会いたい。
「これから荷物が届く。電話は切るぞ。」
『うん。気をつけてね!』
名残惜しいが、しばしの別れだ。
どうせ今日中には強襲して連行してしまうのだから。
切った後には待受けが目に入る。
アメリカに残っている弟と日本で待っていた遊戯。
犬のように遊んでいる姿を見て、ゆっくりとした至福の時間を過ごすには
暫く時間がかかりそうだった。
流れ行く荷物から自分のものを取り上げて、車を待たせている場所へと向かう。
その時に携帯が鳴り、
仕事か、と慌てることなく取り出すと、
窓には『遊戯』と表示されていた。
その慌てぶりは可笑しいほどだったが、同時に彼が必死である証みたいなものだ。
「遊戯か?」
『うん。何か声が楽しそうだね。』
「お前から電話がかかってくることは中々ないからな。」
『そうだね。電話、かけて欲しい?』
「いや、いい。それで何だ、どうかしたのか?」
『ううん、ちょっと驚かせようと思って。』
何を思い立ったのやら。
海馬はまざまざと驚かされた自分を笑い、お前には叶わないと呟く。
「お前の声を聞いていると会いたくなる。」
本来なら迎えにいくつもりだが、
お前が社へ来てくれているほうが早く会える。
「時間は有るのか?」
『うーん、一寸無いかな。』
「お忙しいことだな。」
取り巻き共を思い出してはイライラするが、
遊戯は自宅の店番もしているのだから、取り巻きが原因とは言い切れないのだが、
そう考えてしまうのは嫉妬に違いなかった。
『一寸ね、人待ちなんだ。』
遊戯に待ってもらえるとは贅沢なヤツだ。
思わず嫉妬する。
「誰だ、それは。」
『秘密だよ。でもね、大切な人。』
大切な?
海馬にとっては最大の禁句。
理由はなんでもない、海馬は遊戯の最も大切な人になりたいのだ。
形式的・見かけでは恋人という体裁だが、遊戯の心にはまだわだかまりがあるのだ、
それを取り除くことで、海馬はやっと遊戯の最も大切な人になれる。
その意思を阻止するのはヤツだけで充分だというのに、新手か。
「ほう、それは意地でも聞き出す必要がありそうだな。」
『その必要は無いよ。それよりさ、』
不思議な話だが、
海馬は携帯を右耳にあてていたのに、
何故か左から遊戯の声がするのだ。
「ボク、小さすぎて見えないかな?」
極上の皮肉で以って告げられた言葉は、確実に機械を通した声ではない。
思わず振り向く。
「お帰り、海馬君。」
会いたかった人が其処に居た。
「ゆ、遊戯・・・?」
「何、そんな幽霊でも見るような目で見ないでよ。」
遊戯はそういうと、海馬の隣にならんだ。
「磯野さんに聞いたんだ。それで今日は待ち伏せ。不思議なことなんかないでしょ?」
海馬の嫉妬した相手は海馬だった。
「来るなら来ると言ったらどうだ。」
「えー、だから『驚かせようと思って』って言ったじゃん。」
まざまざと2回も驚かされた。
「電話した時、驚いてたよね!今もだけど。」
遊戯は罠にかかった大人をみた子どものようにクスクスと笑う。
海馬はさっきの自身の驚きようを思い出して恥ずかしくなって、
「俺をはめるとはいい度胸だな。」
そう虚勢を張るほか無かった。
遊戯はいつもこうだ。
海馬のがっちり固まった思考の斜め上を行く。
それを楽しんでしまっている海馬に文句は言えないのだが。
「だが、電話もしてこないくせに良く来たな。」
「だって電話しないで会うときの方が喜び倍増する気しない?
それに、ボクだってキミに会いたかったんだよ。」
驚かせちゃってごめんね、と謝りつつ、
海馬を磯野が待つ車へと誘う。
「驚かせた代償は払ってもらうことにしよう。」
「しかたがないなぁ・・・。じゃあ、今夜ね。」
余裕を持ってそう返してきた遊戯に、海馬は再び俄かに驚かされていた。
海馬の予想外のことを言い出すが、
それは決して下ではない。
そう、斜め上をいくのだ。
走り去る車の上を旅客機が飛んでいった。
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海表、空港ネタ。
何だかんだ言いつつ、結局闇表も海表も表が待っているという話。
冒頭が無駄に長いのは、
余りに話が短かったからです(それでいいのか)
(08.02.24)AL41