魔師




Ep.3  「オカルトなど信じん!」



城之内が学校へ着くと。

下駄箱近辺が酷い混雑に見舞われていた。

何故か?
問うまでもないのだが。一応。

「杏子!」
「あ、城之内。」
「これ、まぁ聞くまでもねぇと思うんだけどよ・・・。」

集団から少し離れた所で傍観していた友人は、
ため息交じりに答えてくれた。

「下駄箱が開かないのよ。」
「はぁ?」

下駄箱を開けると、閉まる。
あけていない下駄箱が開く。
だが、手を伸ばすと閉まる。

「・・・解決できるヤツは居ないのか・・・?」
「アテム達、来てないのかな・・・。」

と、言っても出来る限り内密にしておきたいと言っていたし、
こんなところでは嫌がるだろうが。

「もう、上履き無くてもいいじゃねぇか。」
「危険よ。忘れたの?この間廊下に画鋲がばら撒いてあったのを。」
「・・・そういやそうだったな・・・。」

こんな学校によく来てるよなー、俺たち、そうぼやくと、
ざわざわと集団が解け出した。

「?」
「居なくなったのかな?」

それならばそれに越したことは無いのだが。
ホントに大丈夫かよ・・・と不安を口にした時、
近くの窓から覗いていた。

「城之内くーん!!杏子ー!」

可愛い方の紅葉が笑顔を舞き散らしながら手を振っていた。
後ろにはアテムも見えて、これならまた下駄箱で問題が起きても大丈夫だろうと、
2人は漸く校舎に入ることが出来た。


「2人とも早いな。」

何事も無く靴を履き替えると、
紅葉2人は鞄も持っておらず、とうに来ていたことが解った。

「人が居ない時の方が仕事し易いからな。」
「それもそうか・・・。ってことは、朝からバケモノ退治か・・・?」
「まだ本格的にじゃないけど。」

2人はこの学校の怪奇現象解決の為に呼ばれている。
そして実際に、城之内や杏子の前でそれをして見せた本物である。

彼等が居れば何時か学校にも平穏が戻ってくるだろう。

「でもよ、朝から大変だな。」
「朝から?」
「ほら、さっきの・・・。」

遊戯は首をかしげていたが、アテムは、それが、と口を開いた。

「下駄箱で問題が起きたと聞いたから、来たんだが、
俺達が来たところで丁度消えてしまったんだ。」
「消えた・・・?って、だ、誰かが退治したって事か?」
「いや・・・そういうのでもないんだが・・・俺も妙な気配を感じて・・・。」

珍しくはっきりしない口調のアテムに気味が悪くなる。
アテムにも解らないことがあるというのだろうか。

「この間のコクラノ見たいに連れて行ったってこと?」
「俺も見ていないから解らないんだが・・・相棒はどう思う?」
「うーん・・・逃げたんじゃないかなぁ?」
「に、逃げた・・・?」
「下駄箱で遊んでた子よりも、怖い人が来たから逃げたんだと思う。」

もう一人のボクが近づくと向こうが逃げる、なんてことは昔は良く合ったよ、と
何でもないように言っているが、それはアテムが怖い人だということなのか。
アテムは複雑な顔をしていた。
「気をつけてはいるんだが・・・だが、今回も俺のせいか?」
「でもそれとも違う気がする。良くわかんないけどね・・・。ただ、解決はされてないと思う。」
「そうだな。」

今はしのげるとしても、
何度だって戻ってくることはある。
土地に縛られたものであれば、動くことが出来ないのだから。

階段を上りつつアテムは適当な説明をした。

「個々の現象を解決しても、理由がわからない限り安心できない。
時間はかかるな。」

予想以上に悲惨な状態だし無理すると危険だ、と続ければ、
城之内が僅かにびびっていたが、
1人の人物の登場により、その表情は一変した。

「けっ、朝からあの顔を拝むことになるとは、ついてねぇな。」

え、何?と訊こうとした遊戯は、
突然周囲を見回し天を仰いだ。
「アテム・・・。」
「・・・ああ。間違いない。」
「?どうかしたの?」

杏子は同じように見回すが、何があるわけでもなく、
目に付いた珍しいものといえば、
背の高い同級生である。

「あ、ああ、彼は」

そう説明をしようとしたとき、
向こうがこちらに気づき、鋭い視線で一瞥してきた。

「あー、ムカツクヤツだぜ・・・遊戯、あんなのには関わらない方が、って遊戯!?」

遊戯はトコトコと男のところへ歩み寄った。

「こんにちは。」
「・・・誰だ貴様は。」

遊戯のあの愛想の良く可愛らしい笑顔に対して
無愛想且つ冷酷な声で応じたのが気に食わなかったらしいアテムは、
明らかに苛立ちを見せながら、遊戯を追った。

「え、えっと、海馬瀬人君だよね。」
「だから何だ。」
「あ、あの、ボク、今学期からキミと同じクラスに転入したんだ。
席も近いし挨拶しておこうと思って。あ、・・・ボクは武藤遊戯。それで後ろの、」

話しかけの遊戯の言葉は最後まで聞こうとせずに、
後ろの城之内と無駄に睨みを聞かせているもう一人の存在を見やって、
だからなんだ、勝手にしろ、と
遊戯の肩にぶつかったことも気にせずに、
さっさと階段を上っていってしまった。

「ま、待って!」

必死な声に一度立ち止まり振り返る。


「海馬君・・・キミが信じてる人は、キミを信じてるんだ。」


脈絡の無い言葉に海馬瀬人は何の応答もせず、再び背を向けて階段を昇っていった。


それを見守る遊戯の瞳には悲しみが映って、
余計に海馬が嫌になる。

「遊戯、だからあんなヤツと関わんねぇほうが良いって。」
「・・・。」
「相棒の言葉を無視するとは呪いたいくらいだが・・・
・・・この間のことか?」
「・・・それもあるんだけど・・・。」

この間のこと、とは以前遊戯が海馬の机から気を読んだときのことだろう。
彼の気を通じて解ったことといえば、
負のことばかりであって、
「信じる」という前向きな要素は微塵も無かったらしい様子だった。

ならば最初に会った時に言っていたことを基に考えれば、
それはたしかアテムよりも遊戯の方が敏感だということで。
恐らくアテムにはわからない何かを遊戯は感じ取ったのだろう。

「まぁ、1つ判明したことは、あの海馬という人間の性で、
下駄箱にいたものが逃げたということだけか。」

「え?」

いきなりに、それもあんまりな話だ。

「はぁ?あの、海馬が、か?アテム、寝てるんじゃないのか?」
「いや。奴が来た瞬間に、此処に居たものが逃げ出した。」
「それで、さっきキョロキョロしてたのね。」

何も見えなかったワケね。と、
始業式の日を思い出すとそれでよかった気がする。

「ま、とりあえず教室行こうぜ?遅刻になっちまう。」
「そうだな。」

遊戯の表情は暗く、まだ思い切れないところがあるらしいが、
かといって当人はさっさと教室へ行ってしまったし、
顔を合わせるのはウンザリだが、
それでも遅刻はいやなものだ。

一行は遊戯を引っ張るようにしながら教室へと向かった。



幸いだったのは、アテムが城之内の様な性格でなかったことか。


アテムの右に海馬瀬人が居るこの状況では、
アテムの左にいる遊戯は海馬を見やることも出来なかったし、
幼い顔を困らせたままではあったが、
何とか大きな問題も起きずに放課後を迎えた。

「あー・・・今日は妙なことが起きなくって済んだな!」
「恐らく、海馬の来ている日、いや、その場所では問題が起きることはないだろうな。」
「・・・逃げるから、か・・・?」
「ああ。」

教室にあの男が居ることは城之内にとって不快だが、
超常現象が起きる無いという面では、ありがたらなければいけないかもしれない。

「あーあ・・・複雑・・・。」
「まぁ良いじゃない。あんたが突っかからなければ問題にならないんだし。」
「だけどよー・・・。」

納得したくない様子だ。

「さーて、こんなお化け屋敷に居てもしょうがねぇし、
用がねぇんなら、童実野町観光でも案内するぜ?」
「そうね!私も今日は用はないし、付き合うわよ?」

友人たちの提案はうれしいものだった。

「ああ、そうだな。此処のところ仕事詰めだったし、
相棒にも丁度良い気分転換に・・・。」

だが、快く受入れたアテムとは対象に、
遊戯は沈んだままで、
「・・・相棒?」
「・・・あ、ゴメン、うん・・・。」

遊戯が人の気配等で解ったことを口にしないというのは理解できるが、
恐らくそれは重過ぎるのだろう。
人の闇を否が応でも背負う羽目になるのだから、
恐らく自分には無理なんだろうと城之内はふと思った。

「・・・海馬のこと、か。」
「・・・・・うん・・・。・・・・・・やっぱり駄目だよ!」
「え?」

ずっと何かを考えていたのだろう。
遊戯ははちきれたようにそう言い放って、ゴメン、先帰ってて!と、
教室を飛び出していってしまった。
「あ、相棒!」
アテムは驚き、それを追うが、
「城之内君、杏子、すまない、待っていてくれ!」
そう言い残し、後を追ってこないよう牽制して去った。



「相棒!」

足はアテムの方が上だった。

「相棒、何があった・・・。」

遊戯の腕を確り掴み、言うまで離さないといわんばかりで、
こうなれば遊戯も流石に重い口を開くしかない。

「海馬君は・・・いいよ、大丈夫、これはお仕事じゃない。
だから、ボク1人でするよ。」

城之内君たちが気を遣ってくれて嬉しいし、
それを無碍にするようなことだから、凄く嫌だし、悪いことだと思ってる。

「でも、ボクは・・・放っておけない・・・。」
「相棒・・・。」

こちらを見上げる瞳は真剣だった。
甘えるような目でもなく、
確かに遊戯という人間が1人で深く考え抜いた結果だと、
そう言っていた。

「だって・・・だってボクは、君が死んだら悲しいよ。」
「相棒?」
「ボクは・・・嘘でもキミに死んで欲しいなんていわないよ。」
「・・・。」
「だからボクは、放っておけないよ。」

そういうと、アテムを置いて遊戯は事件へと足を踏み入れていった。

アテムは頭を掻いてから、
「俺は・・・甘すぎるな・・・。」
とだけ呟き、その後を追った。








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