Ep.1 「そーゆーの苦手なんだ」
学校が嫌だ。
行きたくない。
サボリたい、が、そうもいかない。
愛しい夏休みがとうとうあと2日で終わる。
宿題なんてものは終わって無いが、
城之内にとってはそんなこと日常茶飯事というか、
やっているわけがないというか、
寧ろ宿題に触れるという奇行を行えば、晴天が雷鳴轟くか、海が凍るといっても過言ではない。
だから、それは大した問題じゃない。
ではなぜか?
授業が嫌だから?
生憎、今の学校は崩壊寸前である。
まともに授業が成り立たないのは、はっきり言ってとても好ましい。
よってそれはどうでもいい。
だが、行きたくない。
無論、それには理由がある。
チョークが飛んだり、ふざけて階段から突き落とされそうになることは、
他の学校でも起こりうるかもしれないが、
誰も触ってないチョークが飛んだり、
誰もいないのに、一人階段から突き落とされたりすることは、他の学校でも見受けられるのだろうか。
もし、一般的であるのなら仕方が無いと受入れざる終えない。
他にも、
窓ガラスが割れたり、
教科書が燃えたり、
花瓶が破裂したり、
突然ピアノが鳴り出したり、
校舎の裏庭の金魚が2倍に膨れ上がったり、
一番後ろの列の生徒の真後ろに、消しゴムが投げつけられたり、
屋上から誰かが飛び降りる姿が目撃されても、死体が見つからないとか、
朝教室に入ると、天井に赤茶の文字で意味不明の言葉が書き付けられていたり
してさえいなければ、学校へ行くことは拒まない。
喧嘩上等の城之内が嫌いとするオカルト現象が、一学期から続いている。
入学してまもなくだった。
城之内の頬スレスレを、シャーペンが飛び去っていったのは。
しかも、怪異現象が起きるようになったのは、
何でも自分たちが入学した後からだという。
気味の悪さに、転校していった生徒も少なくは無い。
だが、借金を返しながら学校に通う城之内に、そんな余裕があるわけもなく、
更に高校を出てさっさと働きたいと考えていたものだから、
こんなところで足踏みをするわけにいかなかった。
だから、学校に行かなきゃ行けない。
でも、行きたくない。
情報通の友人に話を聞いても、
未だ学校のそれは治っていないらしい。
2日後には、またあのお化け屋敷に通う羽目になるのだ。
憂鬱で仕方が無い。
城之内は、そんな気持ちを払拭すべく、
大切な妹の下へ見舞いに行っていた。
視力が著しく低下している妹は、愚痴る兄に、
「でも、目に見えるわけじゃないんでしょ?」と笑う。
目に見えないからこそ怖いのだと思うが、
もし目に見えたとしたら、どうだろう。
すっごく美人のないすばでぃなお姉さんが、チョークを投げ飛ばしてくるのなら、話は別だが、
戦時下の軍服を着た少年兵だったりすれば、怖いに決まっている。
「静香、俺だって怖ぇけど、学校いくんだから、お前もちゃんと治療受けろよ。」
「うん。」
強引だったが、城之内は妹にそういいつけた。
寧ろ、静香が病と必至に戦っているのだから、自分だって我慢し居なければならない、と、
自分を奮起させるためだったといえた。
病院を出て、
電車を下り、すこしぶらっとして行こうなどと思い、信号待ちをしていると。
季節はずれの紅葉。
もとい、男子中学生が目に入った。
気になったのはその髪型だけではなく、
妙にキョロキョロしながら信号待ちをしていたからだった。
Tシャツに白いブラウスを羽織り、下はジーンズというごく普通の格好であるのに、
何だか涼しげで、根拠は無いが纏う雰囲気に惹かれるものがあったのかもしれなかった。
よく見ると手には一枚の紙が広げられている。
根本的に人の良い城之内は、迷子にでもなったのだろうと見当をつけて、
さっと歩み寄り声をかける。
「あんた、どうかしたのか?」
当たり前のように声をかけると少年はこっちが驚くほど驚いて、城之内をまじまじと見つめた。
「あ、え...。」
少年は城之内を見上げていた。
妹よりも小柄な少年の大きな瞳は、アメジスト色の、透き通った瞳。
それはまるで心を見透かしているような、不思議な目をしていて、
何故か悪いことなど企んでいないのに、いたたまれない気持ちになり、
「いや、何か困ってそうだったから・・・。」
と、まるで建前に聞こえる本音を漏らすと、
少年はやっと何かを理解し、微笑んだ。
それはまた非常に印象的な笑みで、
いたたまれない気持ちになった自分を包み込むような優しさがあったように感じる。
「童実野埠頭に行きたいのだけれど、道が分からないんだ。」
城之内の好意に甘えるように、少年がそう問に答えれば、
本当に救われた。
「時間もあるし、案内してやるよ。」
「本当?ありがとう!」
信号が変わると、城之内についていくように少年は歩き始めた。
「この町来るの、初めてなのか?」
「うーん・・・ボクらは昨日引っ越してきたんだ。だから、未だ全然分からなくて。」
城之内は“ボクら”という言葉に引っかかった。
そういう言い方をすると、家族で引っ越してきたように感じられない。
だが、中学生が引っ越してくるのに家族と一緒ではないというのも違和感がある。
「(まぁ、俺も似たようなもんか。)」
しかし、それ以上に不思議なのは、何故引っ越して2日目に、埠頭になんか行くのだろうか、という事だ。
気になったが、いきなりそんなことに触れるのはどうかと思い、留まった。
「童実野町は結構広いからな。まぁ、ムリに覚えようとしなくても、いいんじゃねぇか?」
「そうかな、ありがとう。キミは、あ、」
「俺は城之内。あんたは?」
「城之内君か・・・ボクは武藤遊戯。」
武藤遊戯
「城之内君は、童実野町に住んで長いの?」
「んー、まぁな。武藤、」
「遊戯でいいよ。」
「遊戯か。変わった名前だな。」
よく言われるよ、と遊戯は笑う。
祖父がゲーム好きで、そう付けたのだと説明する様子は、男である遊戯に対して失礼かも知れないが、
“可愛らしい”という表現が良く似合っていた。
男らしくない、とか女っぽいと言うよりも、中性的と呼ぶのが適切だった。
「(俺が中学の時でも、男でこんな中性的なのは居なかったな・・・)」
そう思うと、遊戯は小学生なのではないかとさえ思えてくる。
可能性はあるが、
小学生にしては妙に確りしているし、ボクら発言の解釈が難しくなる。
ボクら発言は、若しかしたら年の離れた兄さんやら姉さんと一緒に来たからかもしれない。
まぁ、最近の小学生はませているし、考えすぎの気もする。
「(やっぱり、人の家の都合に口出すのは止めておこう。)」
そう、思ってはいても、
何だかこの武藤遊戯という少年に心惹かれるものがあった。
アメジストの瞳?紅葉頭?小学生といっても過言ではない幼さ?可愛らしい笑み?
何に惹かれたのか分からないが、
何故だろう、あの無垢そうな瞳の先を少しばかり覗き込んでみたくなったのだ。
あれだけ澄んでいるのは、覗くように誘っているからかもしれなかった。
だが、心を見透かされては拙い。
「埠頭に用があるなんて珍しいな。」
これならば、不審な質問ではないだろう。
瞳の奥を覗きたいという好奇心の根源は、
アメジストの瞳でも、紅葉頭でも、小学生といっても過言ではない幼さでも、可愛らしい笑みでもなく、
「お仕事の相手が待ってるんだ。もう一人のボクも先に行っちゃって。」
言葉の端端から溢れる、謎めいた言葉なのかも知れなかった。
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