*キス有り
2人ぼっち
「海馬君らしいなぁ。」
普段であれば眉を顰めたくなるようなことだったが、
今日ばかりは嬉しかった。
海馬から話があったのは、彼らしくもなく一週間も前のことで、
今日の午後5時に近くのホテルへと招待された。
何で?と疑問に思うことは愚問か。
今日は、他ならぬ遊戯の誕生日だったからだ。
普通の友人であれば学校で祝ってくれるのだろうが、
海馬がそれをすると可笑しいくらいだ。
それに、2人きりの時間が嬉しい。
学校から足早に帰ると、場違いにならない程度の服に着替えて、
迎えの車を待った。
今日は、良いことばっかりだ。
「なんだか、不安になるね・・・。」
友人に誕生日を祝福された記憶は遥か彼方。
確かに去年は祝ってもらえたが、
それより前は友人なんかいなかったからなんでもない日も同然、
なんてことは当然のことだった。
誕生日なんか忘れてしまえば良いと思ったこともあるが、
子どもの遊戯にそんなことができるわけが無く。
こんなに楽しい誕生日なんて、夢でしか見たことが無い。
だからなんだか現実味もない。
そんなに良い日があるとは思えなくて、
海馬が事故にあうとか、ホテルが武装組織に制圧されるとか、
自分があっけないミスをして台無しになるとか、
そういうことが起こるのではないかと、不安な気持ちもあった。
「最後のが一番可能性が高いな・・・。」
気をつけよう、と1人誓って、
やってきた車に乗り込んだ。
なんのことなくホテルへ着くと、なんのことなく案内されたのは、
最上階だった。
何でも一番でなければ気に入らない彼の性格を思えば、
自分が「こんなところじゃなくても」とか「高くないの?」と問うこと自体が間違いだと気づけた。
驕って貰うのは何時ものことだが、
今日はこういった全ては、恋人が自分のために選んでくれたこと、してくれたことだと、
そういう意識が強くて、彼のワガママを全て聞き入れたいと思う。
まだ姿を見せぬ恋人のことを思いながら、遊戯は案内された部屋のソファに静かに座っていた。
彼が遅刻をするのは何時ものことだが、
もう40分も待っているのだが、一向に連絡もないと流石に不安になる。
そわそわして持ってきたゲームも手につかず、
遊戯は不安な気持ちを忘れようとするかのように、ウトウトと眠ってしまった。
誰も居ない教室。
誰も居ない部屋。
1人だった。
校門で待っているが、
通り行くのは仲良くさそうなグループだけで、
誰も自分に声はかけない。
日が落ち始めて、人もない。
もう帰ろうか、
いや、
もし、自分が帰ってしまったら、
待っている人はどうなるの?
その人も1人になってしまうの?
いや、本当は誰も1人ではない。
待ち人も本当は約束なんか忘れていて、
どこかで誰かと楽しくおしゃべりしていて、
「やっぱり1人じゃないか、ボクはやっぱり一人ぼっちだ・・・。」
―遊戯―
真っ暗な世界から声が聞こえる。
何処だろう、わからない。
だが、闇に浮かぶ白い指。
何の確証もなく、ただ縋るようにそれをとった。
「遊戯。」
目を覚ますと、待っていた顔がそこにある。
「海馬君・・・?」
「驚かせるな・・・。」
遊戯が体を起すのを手伝いながら、頬を拭った。
「え?」
「お前は夢でも泣くのか・・・。何があったかと・・・。」
「ボク、泣いてた?」
「見れば解るだろう?」
泣いていたらしい。
「・・・怖い、夢。」
「フン、そんなもの・・・と言いたいところだが、
俺が待たせすぎたのがいけないらしいな。」
海馬の腕の時計を覗き込むと、針は8時を過ぎていた。
「すまない、仕事の都合とはいえ・・・
6時ごろに連絡をやっと入れられたんだが・・・。」
そういわれて思わず携帯を確かめると、確かに海馬からの数回にわたる着信が記録されていて、
メールもだいぶたまっていた。
過度な辺りが彼らしく、思わず笑ってしまう。
「もう、こんなに出さなくたって。」
「仕方が無いだろう。」
お前が出なくて不安だったのは俺も同じ話だ、と、
彼らしくもないことを言うので一層可笑しかった。
「もう、キミのお陰だけどさ。」
「何の話だ?」
解っている。
あの夢から連れ出してくれたのは、紛れもなく彼の声と指だったのだと。
「何でもないよ。それよりさ。海馬君お帰り。」
何処へ帰って来たというんだ。
などと味気ないことを言いそうになって、
思えば遊戯が家で待ってくれている時は大概そう言ってくれることを思い出し、
今戻った、と不器用に笑い返したのだが、
「あれ、帰るって、此処海馬君の家じゃなかったね。」
唯の勘違いか。
だが、唯では返したくない。
「なんだ、お前の元に帰って来た、と言うことを言っているのかと思ったんだが。」
「えっ!あ、あー、そういうことで。・・・うん・・。」
「構わん。それよりも、今用意はさせているが、」
腹はすいたか、と問う前に、遊戯の体がぐぅっと返事をして、
可笑しくなって笑った。
「お腹すいたよ。」
「もう少し待て。そう、その間に・・・。」
「何?」
不思議そうな遊戯を自分の膝の間へ横向きに座らせて、
スーツの内ポケットから取り出した。
「あ・・・。」
実際手に取ったことはないが、ドラマで見たことはある、高級そうな小さな箱。
「恋人と言うのはこういうものを贈るのだろう?」
開けろ、と手渡されて、恐る恐る開けてみると、
「シルバー?」
「プラチナだ。」
白く光るシンプルな指輪が収められていた。
ドキドキする。
まさか自分がこんなものを手にするとは思いもしなかったし、
まして手にするのであれば渡す側だと思っていただけに、
貰うと貰うで困るものだ。
「ねぇ・・・。」
「何だ?」
海馬は思った以上に反応の悪い遊戯に、少々がっかりしつつも、
眉を顰めてくるので、無愛想になりつつも反応した。
「あのさ、これ、何処に嵌めればいいの?」
まるで他人のものを持っているかのような初々しい様子とともに、
漸く合点がいった。
遊戯はこのことさえ夢だと思っているのではないかと。
そして、反応と同様にどうすればいいのかが解らないのだ。
「嵌めてやろうか。」
「う、うん。」
遊戯の手からそれを取って、
箱から指輪を外し、箱は適当に机へ。
遊戯はただ呆然としていたが
海馬が迷わず左手を取ると、見ものだった。
手をそっととり、ゆっくりと薬指に嵌めると、
それと比例して幼い顔が燃え上がりそうなほどに赤く染めるのだ。
「あ、うぅ・・・。」
「不満か?」
首をブンブンと横に振って、男の顔を見上げた。
大きな瞳には涙が溜まっているが、それが先とは違うものだと、
そんなことは海馬でも解った。
「嬉しい・・・。ありがとう。」
言葉だけではなくそれを態度に示して、
珍しく遊戯から口付けを受けた。
甘んじてそれを受ければ、温かく溶けてしまいそうなほど柔らかく。
「最高の礼だな。」
「もう。それより、何でボクの指の・・・」
「お前が寝ている間に計った。」
「・・・計画的だね。」
「無論だ。俺が今日遅刻した以外は全て計画通りだ。
もう食事の支度が出来ただろう。」
面白い男だ。
彼がそう言い放った途端に、「食事の用意が整った」との連絡を受ける。
「流石だね。」
「当然だ。」
抱えていた遊戯を降ろし、用意がされた隣室へ向かうと、
まず目に付いたのは、夜景だった。
「すごい・・・綺麗・・・。」
普段はKCから見ている夜景だが、今夜は違う。
KCが見えるのだから。
「凄いね。キミの城は高いよ。」
「当然だ。俺の城だからな。」
あまりの返答が楽しくて笑うと、当人は何が可笑しい?と聞いて来る始末だ。
机の上には豪華な食事が並べられていて、
そして何より目を引いたのは、
「ハンバーガー!」
「お前の好物だろう?」
と、言っても、遊戯が普段食べているのものの数十倍はする豪華なものだ。
無論国産和牛である。
人を払い2人きりになると、席に着き、
海馬は何のことなくワインを手にしているが、
妙に似合っていてもやっぱり一応突っ込んでおく。
「未成年じゃないか。」
「それを律儀に守っているやつがどれだけ居るんだ。」
「・・・。」
やっぱり無駄だったが、
何だかそれさえ楽しくて。
「なんか、今日、ボク笑いすぎだね。」
照れくさそうな遊戯に、
何時ものことではないかと心の中で思いつつも。
「そんなこともあるものだ。」
そう遊戯にグラスを持たせた。
涼しげなガラスのぶつかる音が響いて、
赤い液体が恋人の喉へと流れて行くのを見て、
遊戯はまた笑った。
ボクは、一人ぼっちなんかじゃない。
------------------------
恐らく最も普通な感じで、
何方かが書いていそうなネタ。
社長くらいしかこんなこと出来ません。
本当は遊戯がベッドへお誘いするシーンまであったんですが、
海馬が長いのは悔しいとのことで(誰が?)、
カットカット。
(08.06.04)AL41 Happy Birthday!YUGI