*キスあり
*今日は6月●日です
日を越え、形を越え
日ごろの行いが悪い。
バクラは寝込んでいた。
正真正銘の風邪である。
恐らく原因は、夜ふらふらと外を徘徊していたことであるが、
引いた以上、理由を問いただしたところで治るわけでもなかった。
本格的に熱が出て、学校は昨日休み、今日も休んだ。
サボリではない欠席は久しぶりで、
いや、最近はサボっても居なかったので、もっと久しぶりだった。
なんせ彼に会うためだけに学校へ行っているようなもので。
毎日律儀に登校してくる彼に合わせれば、自然と毎日登校の一見優良生徒だ。
お陰で意中の人とはつい最近何とか意思の疎通に成功し、
特別なものへと至ることが出来た。
それでか、昨日もその彼、遊戯からメールが届き、
別の熱に浮かれたりして、口元が緩むのを抑えられない。
「(今日も可愛い顔してんだろうなぁ。)」
当然だ。
2日も顔が見られないというのは、やはり寂しい。
潔く休み、さっさと治すのが先決だと判断した。
当然だ。
しかし、そんな計画を邪魔するコールがなった。
ドキリとしたのは無論、遊戯からではないかと思ったからだが、
現実はそう甘くない。
風邪が悪化しそうな相手だった。
『風邪治った?』
「切っていいか・・・?」
『何でそんなに機嫌が・・・まぁ何時ものことだったね。』
「用件はねぇのかよ・・・切るぜ?」
『まぁだるいんなら仕方が無いね。』
それは何やら含みを持った言葉で、引っ掛かりを感じたが、
問いただしても、「気のせい」で済まされて、切られた。
「・・・何の電話だったんだ・・・?」
すっきりせず気持ち悪いが、それでも再び布団へもぐる。
だが、頭を巡るのはあのニュアンス。
「仕方が無い・・・?だるいんなら・・・?」
しかし考えるにはあまりに材料がなく、
バクラはそのままウトウトと眠りについた。
そのまま朝まで寝ていればよかったのだが、覚めてしまったものは仕方が無い。
目を覚ました時、時計は11時半を指していた。
「・・・中途半端に寝ちまったな・・・。」
寝た時間が悪かったらしい。
携帯の窓を見ると、メールが届いていて、
それはやっぱり遊戯だった。
ニヤニヤしながら開ければ、遊戯らしい心配する言葉と、
早く会いたいという特別な言葉が並べられていて、
優越感を覚えた。
こんなメールをもらえるのは世界で自分だけだとそう思う。
友人だからではなく、特別な存在だからだ。
なぜならこれが逆の立場で、遊戯が熱をだしたというのなら、
滅多に出さないメールを出すに決まっている。
「特別な・・・か。」
友人とは違う。
何らかのイベントがあればまず2人になれる権利がある。
遊戯が大勢を好むとしても、多少のワガママを言えるのは自分だけで、
大勢が遊戯を求めたとしても、遊戯を奪い去れるのもまた自分だけだ。
例えば、クリスマス、正月、それに、誕生日。
「・・・誕生日・・・?」
二種類の熱で溶けかけていた意識は、
冷や水を浴びせられたような感覚に陥る。
「た、誕生日ってよ・・・。」
そういえば、そういえばだ。
前、こんなに距離が近づくより前に、誕生日の話をしていなかっただろうか。
確か遊戯の誕生日は、6月。
ふたご座と真珠が似合うな、と思ったから間違いない。
だが、今日である確立は30分の1じゃないか?
そう疑うよりも先に思い出したことは、夕方の電話。
「だるいなら仕方が無いって・・・もしや!?」
確認するべきだったのだが、時計は15分過ぎていた。
遊戯の家まで走って15分、いや、13分で辿り着いてやる。
特別な存在であるのなら、
電話でしか祝わないなど、あまりに寂しくはなかろうか。
遠くに住んでいるとか、仕事の都合とかであれば問題であろうが、
自分の風邪など大した障壁ではないだろう?
バクラは都合など考えもせずに、飛び出していった。
※都合が良すぎるが、途中雨が降り出したのは演出の都合である。
土砂降りとは行かぬまでも、夏の様相を見せ始めた天気は、
気まぐれに病人に追い討ちをかけた。
遊戯は寝ようか寝まいか、テレビを見ながら悩んでいたところだった。
と、いうのも、今夜は特別なのだ。
誕生日だからというよりも、母親と祖父が法事で泊まりだったので、
遊戯は叱られる心配もなく堂々と徹夜が出来るということだ。
ただ、明日は授業があるし、無理はできないのだが。
そんな中、携帯電話が鳴った。
どきっとしたのは、それが特別な人からのものだと解ったからだ。
風邪を引いて寝込んでいることは知っていたが、やっぱり顔が見たいな、なんて思っていた頃で、
嬉々として電話に出たのだが。
後ろに聞こえる車と雨の音。
「そ、そと・・・?」
バクラは何故か息が上がっていて、まともな言葉を発しない。
だが、遊戯はまさかと思いつつ、玄関へ駆け下りていった。
すると案の定、ガラス越しに見たかったはずの姿がある。
「ば、バクラ君!?」
長い髪はびしょ濡れで、伸ばされた指は冷え切っている。
「だ、大丈夫!?」
いかにも疲れ果てた様子で、駆け寄った遊戯に凭れかかって来た。
「ちょ、ねぇ!」
「チッ・・・間に合わなかった・・・。」
「え?」
「・・・12時過ぎだ・・・。」
頭が混乱しているのだろうかと、遊戯はとりあえず座らせて、
その顔を覗き込むと、驚いた。
「顔、やばいよ!?熱あるんでしょ!?」
「なぁ・・・お前、誕生日・・・。」
「もう、そんなことより!早く、暖まって!」
必死だった。
良くわからない人だとおもっていたが、心底解らない。
バクラが無事風呂から出てきたのを見て、改めて思う。
「悪ぃな。」
「・・・もう。」
遊戯はバクラに布団に入るよう命じたが、バクラは従わず、
むっとした遊戯を見てから、彼を抱え上げてベッドへ座った。
バクラはとりあえず5時からの自分の行動を説明した。
無論、聞き終わった後の遊戯は呆れた顔をしたが、
寸分たりとも喜ばなかったかといえばそうでもない。
「雨が降ってくるとはなー・・・。」
「そうだよ。天気予報でも言ってたくらいだよ。」
「今日テレビ見てねぇや。」
病人なのだから仕方が無い。
だが、病人だからこそ、安静にしていれば良かったのだ。
「もう、風邪、酷くなっちゃうよ。」
「けどよー。仕方がねぇじゃ無ぇか。」
こうでもしなければ、遊戯には会えなかった。
「電話でいいのに。」
「俺が嫌なんだよ。まぁ・・・結局、間に合わなかったんだけどな。」
「ボクは気にしないよ。そう思ってくれただけで充分・・・。
それにボク、キミに誕生日言った記憶がないし・・・気づいてくれただけで嬉しいよ。」
「ったく、お前は・・・。」
相変わらず無欲なものだ。
それだけ無欲だと困るものがある。
「誕生日、なんかやろうか。」
「えー・・・欲しいもの特にないし・・・。」
だが、恐らく今日、学校の輩から何か貰っているだろう事は予想の前のはなしだ。
自分も何か贈りたい。
だが、今の自分には贈れるものなど何もない。
後で何かできるだろうが、できれば今がいい。
「じゃあ、こん」
「なぁ。」
「ん?」
「俺が今、お前にやれるもんは1つしかねぇ。」
「・・・。」
「風邪、やるわ。」
色気も何にもない言葉に唖然として、ええええええええええ!!と思わず大きな声を出してしまうが、
バクラは遠慮などせずに、恋人をベッドに押し倒した。
「ちょ、ちょっと。」
「丁度いい移し方がある。」
予想が出来たお陰で少し冷静になり、目の前の顔を観察してみると、
熱があるのだろうこの人の顔は珍しく赤く染まっていて、なんだか新鮮だ。
そんな事を考えているうちに、唇が触れた。
絡んだ舌は、普段より熱く感じる。
どうやらこの風邪は即効性があるようで、
遊戯の体は途端に熱くなり、胸が痛くなった。
長いキスから開放されて、漸く息をつく。
「んっ・・・はぁ・・・。」
「移ったか?」
ムードも何もない言葉に苦笑しつつも頷いて、体が熱いよ、とぼやいた。
「ま、お前の風邪が治ったら、なんかおごってやるよ。」
「もう・・・。キミらしいけどね。」
クスクス笑う遊戯が愛しくて、
そのまま布団をかけて二人引っ付いた。
どうせお互いに風邪引きならば、くっついたところで何でもないだろう。
「おやすみバクラ君。」
遊戯がそうふっと笑って目を瞑り、暫くしてから寝息が聞こえるまで見守って、
漸くバクラ自身も眠りに着いた。
優しい夢をみた。
翌日、遊戯が風邪を引いたか否かは、また別の話。
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あえて一日ずらしてみました。
バク表でほのぼのって久しぶり?
「何で俺だけネタっぽいんだ?」
と言う声が聞こえるような気がしますが・・・
3つのうち最初に書き終わったとか大きな声で言えない
(08.06.05)AL41