*バク表
*甘めです
カミ紛争、勃発
「ママーかみむすんでー!」
バス停で待っていると、幼稚園生と思しき少女が自転車の後ろに座って、
必死になってこいでいる母親にねだった。
半分はサラサラと風になびいていたが、
半分は確りと三つ網になっていた。
そういえば、三つ網など最後にしたのは何時だったか。
した、というのは別に自分のことではなく、
子供の頃に疑問になって、一度教わった記憶はあるが、それを実際したことがあるようなないような。
「(って、ボクもまだ子どもだね)」
何となく幼かった頃のことを思い出すが、
そこには余り哀愁を感じなかった。
遊戯には自信があった、
今が一番だ、という。
暫くしてやってきた混んだバスに乗り込み、彼の大好きな学校へと向かう。
学校、それこそが彼にとって今が一番だと思わせてくれる大切な要因のひとつ。
学校まであと少しのところ、混雑した道路の真ん中、信号で止まっていた間、
朝のせわしない町を眺めていた。
同じ高校の制服を着た人々が流れ行くその中に、
あの影を見つけた。
相変わらずダルそうにしている姿に安心し、目で追う。
するとやがてバスが動き出した時に、
ふと目があった。
「(まさかね。)」
あんなダルそうにしているのに、動き出したコチラのことなど見えるわけが無い。
自分の思い過ごしではないか、願望の幻を見ただけではないかと良い宥める、
だが、確信に変わる。
コチラに向かって軽く右手を上げた。
その姿はすぐに見えなくなってしまったが、
遊戯の瞼には確り焼き付けられて、
先にはなかった焦燥感に駆られる。
一瞬見せた優しい目に飛び出したくなる。
バスの中、何人いるかわからないこの中の誰かでしかない自分でも、
彼の目には確りと、他の誰でもない自分として映っている。
何時だって自分の存在を認めてくれる彼に会いたくて仕方がなかった。
バスを降りると、下駄箱まで走っていく。
しかし見つからない。
「(もう教室行っちゃったかな)」
教室へ行けば会えるというのに、その時間さえもどかしい。
さっさと靴を履き替えてしまおう。
そう、下を向いていたのだが、
「っ!」
頭が上がらない。
「えっ、あ、ちょ、」
「何、朝から人ンことガン見してんだよ。」
ふぇ?と情け無い声を上げて何とか後方を確認すると、
「バクラ君!」
漸く出会えた、そう感じた。
まるでついこの間のことだったように思う。
バクラから告げられた言葉は、嘘のようだった。
嘘だよね、冗談なんでしょ?と問い返そうとしたが、それを必死に飲み込んだ。
嘘だとしても、そう告げられたことが嬉しかったから、
僅かそれが数十秒の話であっても、嘘などにはしたくなかった。
ああ、そうだ。嘘じゃなかった。
走行中の混み合ったバスの中から自分を見つけてくれる。
嘘では為せない筈だから。
愚問だとは解りながら、答えを聞きたくて問う。
「何で解ったの?」
バクラは一瞬嫌そうな顔をして言葉を濁した後、
「お互い様じゃねぇか」と行って逃げた。
思えば人込みの中からバクラを見つけたのは遊戯だった。
「だ、だってキミは見つけ易いよ。」
「なんだよ、俺が奇行でもしてるみてぇじゃねぇか。」
「そうじゃなくってさ。」
「なんだよ。」
別に大したことではないのだ。
だが、何となくいうのが恥ずかしくなって、
「秘密だよ。」
そう言い、押さえつけていたバクラの手から逃れた。
するとバクラは少し怪訝そうな顔をしたあと、悪餓鬼のようにわらって、
「あとでたっぷり聞き出してやるぜ。覚悟しとけよ。」
と、放課後の約束を取り付けた。
遊戯はそれに元気良くうなずいただけだった。
放課後、掃除が終わると既にバクラの影はない。
直接聞いたことはないが、恐らく、一緒に帰るのは嫌なのだろう。
だが、今日は彼の部屋へ行ってもよいといわれているし、
遊戯は放り出されたままの箒を片付けて、約束の場所へと駆けて行った。
何時もの場所、何時ものドア。
表札に名はない。
しかし間違えるはずも無く、
チャイムをならすと、すっかり着替えていたバクラがドアを開けてくれる。
「相変わらずおせぇな。」
「仕方が無いじゃん。」
「押し付けられたっても、簡単に手ぇ抜いちまえよ。」
「先生が来たんだよ。」
遊戯がいけないわけではないのだが、
バクラは会いたくて仕方が無かったのだから責めるような口調になってしまうのも仕方が無いことだった。
鍵を掛けチェーンもする。
2人の空間が成立すれば、漸く恋人になれる。
ドアに薄い体を押し付けて、奪うように口付けても遊戯が文句などいうことはなく、
キミはせっかちだね、と恥ずかしそうにしてくれるだけだ。
小さな手をとって、部屋まで連れて行く。
先に指を絡めたのは遊戯だったが、バクラもまた強く握り返す。
妙に片付けられた居間のソファにドサリと腰掛け、また座るよう促す。
遊戯は隣にちょこんと座り、隣の体温に身を任せた。
それからは、言葉にする必要も無いような他愛の無い会話がなされる。
時折笑ったりからかったりして優しい時間を過ごした。
「そろそろ寒くなってきたな。」
「もう秋だもん。服も入れ替えなきゃ。」
「たりぃな・・・。」
だるがっていたと思うと、ふと何かを思いついたらしい。
「どうしたの?」
「ん?あ、ああ。なぁ。」
「何?」
なぜか次の瞬間にはソファから落ち、バクラの下敷きになっていた。
「ちょ、な、なんで!?何今の!?」
「お前あったけぇな。」
「そ、それだけ!?」
ちっせぇし、あったけぇかと思ったんだよ、と単純な行動を端的に説明する口調は、
別に嘘を含んでいないようだ。
ただ、嘘ではなさすぎて、少々恋人の機嫌を損ねた。
「ちっさいって何さ。」
「ホメ言葉。」
「褒めてないよ。もう・・・否定は出来ないんだけどさ・・・。」
暫くそんな押し問答を繰り返していたのだが?
「バクラ君?」
「・・・。」
「あれ?もしかして。」
寝てるの?
聞いたところで帰って来たのは寝息と思しき息遣い。
これは珍しいと、顔を覗き込もうと思ったのだが、
上手い具合に見えない。
「いいや、バクラ君の寝起きを目撃できるし。」
そのためには起きて居なければ成らないのだが、
小さくないくせにそれでもやはり人間の温もりが寝ている男から伝わってくる。
どんなに冷たく言いあしらったとしても、本当は暖かい人。
遊戯がバクラと出会って、否、バクラと付き合うようになってからとても強く感じたこと。
伝わる温もりにその証拠を得た気がして嬉しくなる。
まるで母が子を見守るように、遊戯はそっとバクラに頭を撫でた。
本人が聞けば怒り出しそうな言葉が口を付いて出た。
「バクラ君の髪、優しいね。」
そう呟いたとき、ふと思い出したのだ。
自転車の後ろから、髪を結ってとねだるあの風になびいた髪。
流石に4,5歳の幼稚園児の髪と比べてはいけないのだろうが、
自分とは異なる髪に一種の憧れを覚える。
そして。
のそのそとバクラが違和感で目覚めたのは一時間後。
気づけば体に遊戯の学ランがかけてある。気を遣ってくれたのだろう。
その遊戯は反対に眠っていて、幼い寝顔に思わず見入る。
「寝てても口説いてるようなもんだろ、この顔は。」
その顔が自分のものになったというのが今になっても信じられないし嬉しく思う。
寝室からタオルケットを持ってきてかけてやる。
「保育園の昼寝だな。」
満足そうに呟いた後で、何か飲もうとガラス戸の前を通り過ぎた時、漸く気づいた。
「保育園児よりは器用みてぇだな。」
ため息を零したあとで、にやりと笑った。
「あ、あれ・・・ボク、寝ちゃった・・・。」
遊戯が目を覚ましたのはそれから30分ほど経ったころだ。
自分の上に何か温かいものがかかっていて、ぬくぬくしていると、
「ねぼすけめ。」
詰りながら現れた。
「バクラ君お布団ありがと・・・。・・?あれ、髪・・・お風呂入ったの?ぬれてる・・・。」
ワシワシと髪を拭いている。
その顔は何か言いたそうで、しかし悪戯顔でまぁ、ちょっとな、と言葉を濁す。
バクラが再びソファに座ると、遊戯もその隣に座って、
タオルケットを互いにかけてくっつく。
「冷えちゃうよ?こんな時間に・・・」
「ま、貧乏パーマになるよかマシだな。」
「びんぼうぱーま?」
「そ。」
「どんなの?」
「そのうち解るぜ。っつーか、お前自分がしたこと覚えてねぇのかよ。」
「したこと?うーん・・・」
まだ寝ぼけているらしく、
隣でぬくぬくしている頭では思い出せないのだろうか。
なんだっけなーと言いながらまた寝てしまいそうだ。
「そういや、聞き忘れてたな。」
「なにを?」
「バスの中から俺を見つけた理由をな。」
「あっ、あれは・・・。」
学校では恥ずかしいことでも彼の部屋であれば何だか簡単に口に出来てしまう。
それは2人だけという空間的な問題か、
彼がそれを促すという精神的な問題か。
「キミの髪・・・何処に居ても解るよ。」
「俺と似たようなやつがいるじゃねぇか。」
「髪だけじゃないよ、でも、キミのときはドキってするんだ。」
そう、ゆっくり手を伸ばし、まだ生乾きの髪に触れる。
「風にさ・・・なびいて・・・・・・・!!!ああああ!!!」
突然大きな声を上げて、大きな瞳がはっきりしてくる。
「髪!バクラ君ほどいちゃった!」
「あたりめぇだろ!っつーか何男の髪で三つ網なんかしようとすんだよ。」
「昔習ったんだけど出来るかなって思ったんだ。朝ね女の子がしてて、それで思い出して・・・。
ボク、ちゃんと三つ網出来てた?」
「ああ。お陰で髪を洗わなきゃいけなくなったんだがよ。」
「ボ、ボクのせい!?」
「だから貧乏パーマになるっていっただろ。パーマなんて勘弁だぜ。」
寝ぼけていた頭が色々動き出して、遊戯は漸く色々と合点がいった。
しかし1つ疑問が残った。
「でも三つ網なんかして、パーマになんかなるの?」
「今実験中。」
「実験?え?」
バクラの髪で実験中な訳が無い。
となると。
「あああああ!!!」
遊戯の前髪の一部が、丁寧にしかし確りと三つ網になっているのが触ってもわかった。
「ねぇ、やだ!これなに!?」
「三つ網。」
「ちょっと!とって!ボク、パーマになっちゃうよ!ボク悪気があったわけじゃないんだよ。」
しょげる遊戯は少々寂しいので解いてやったが、
跡は残っていて、一層しょげてくれたが。
自分のうねうねになった髪を指でなぞっている。
可笑しくて仕方が無かったが、笑ってしまっては嫌われそうだ。
「直してやっから。」
「お願いします。」
縋るような視線にドギマギしながら、しかし一言余計だった。
「俺としちゃあ、そこまで似合ってねぇわけじゃねぇと思うんだが。」
遊戯は顔をかぁっと赤くさせて、怒っているのか照れているのか解らないが、
いずれにせよ隣で暴れそうだ。
遊戯が文句に口を開くよりも早く、この口を塞いだ。
「ずるい。」
「嫌か?俺のこと嫌いになった?」
「バカだよ。何言ってんの。」
そう一見貶しながら、学校では到底囁けない一言。
「大好きだよ。」
甘く煮詰まりすぎた空気を飽和させるように、
「おきるまでに髪、直してね。」
そう再び遊戯はバクラの隣でタオルケットにぬくぬくしながら目を閉じた。
起きた遊戯が余計パーマになって居る自分の髪に気づいて、再び喧嘩をしたのはまた別の話。
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リクエストありがとうございました!
髪にあこがれる遊戯、といただいたのですが、
・・・大★失★敗!
遊戯がからかわれて終わりました;
激しくスランプで申し訳ない;
お粗末さまでした;
(08.10.18)AL41