*バク表
*盲目の相棒
*久し振りすぎて、注意書きの書き方も忘れた





「大切な話があるんだけど。」

膝の上でそういう姿は、何だか普段と違うものに見えた。
改まってどうした、と笑うことは出来なかった。
ただその理由は自分のうちに秘めていることで、
前から解っていることだった。

好ましいはずのことに、素直に喜べないのは、ただ、我侭故であった。



別々の同じ心




出会いはそんなに珍しいものではなかった。

夜の8時を回る辺り、バクラは自宅へ戻るところだった。
彼の性格ゆえか、この近辺の治安の悪さはなんとも思っていなかったのだが、
これは彼が初めてこの治安の悪さを嫌悪した出来事だった。

丁度寂れた公園の前辺りである。
少年と思しき姿がしゃがみこんで辺りを手探りしていた。
しかしその様子に違和感を覚えたのは、近くに転がる白い杖が原因だった。

「あんた、大丈夫か?」

「!?っえ!?」

普通に声をかけてしまったが、思えば相手は探すのに夢中でコチラの足音など聞いていなかっただろうし、
周りの様子など良くわかっていないだろうこの少年に対して、
思えば失礼な対応だったかもしれない。

「いや、なんだ、探しもんか?」
「え、あ、ごめんなさい、お邪魔でしたか?」
「そーいうわけじゃねぇけど・・・此処らへんは治安が悪ぃし。」
とりあえず白杖をとって、彼の近くに置いた。すると、探り当て少し安堵したようにそれを強く握る。
しかし彼の右手はまだ何かを探しているようだった。

「どうした?」
「メガネが・・・。」
「メガネ?」

明かりの乏しいこの近辺ではそれはアスファルトに溶けてしまって、見当たらない。
バクラは柄にもなくそのメガネを探した。
歩き回って踏んでしまったらいけないと思うとウロウロ出来ないのだが、
周囲にあるはずには違いない。

何故だか必死だった。

すると、公園前に停めてある、いや本当は放置されたままだろう錆びたいくらかの自転車の下に何かが光っていた。
足元に気をつけながらそこまでいって拾い上げれば、
「こいつか?」
小柄な少年には不釣合いそうな、拾い上げたサングラスを差し出すが、差し出してからバカだと思った。
見えるわけが無いのだ。

改めて歩み寄って、その手に触れさせると、何か印があるらしい、
それを見つけ出すとほっとした様子を見せて、
口元をほころばせた。
その目はぎゅっと瞑られていた。

それが非常に気になった。

彼が目を患っているだろうことは解っていたが、
かといって、光が無いといったとしても、
その映らない瞳は閉じられたままでいいのかと思った。

極論、何故だかその瞳が酷く気になったのだ。

後から考えたことだが、
彼は非常に愛らしい顔をしていた。
こんな時間に1人で歩いているのが信じられないような幼さで、
その顔には一体どんな瞳が埋められているのか気になったのかもしれない。

兎に角その少年が気になった。
それは彼らしく被写体としてか、
或いは彼らしくなく、人間として、か。

少年は確りとサングラスをかけると、漸く本調子に戻ったらしい。
白杖を手に、ゆっくりと立ち上がった。
「ごめんなさい、どうもありがとうございます。」
僅かに緊張した口調で、しかし怖気ずくことなく確りとした声色だった。
「大丈夫か?」
「はい、ちょっと人とぶつかって・・・。」
情けなさそうに笑う様子をみてはっとした。
「あんた、財布は?」
「え?」

マンションの掲示板に貼ってあったことを思い出した。

そして案の定、少年は結局財布を見つけられなかった。

「大事なもん入ってたのか?」
「お金だけです・・・。」

カードだのなんだのないらしく、被害は最小限だったと思われるが、
少年は非常にショックを受けたらしく、
あのバクラの興味を引いた顔を俯かせた。

それが気に食わなかった。

普段のバクラであれば、「気づかなかったお前が悪い」と言うところだったが、
彼はそんな事を知らなかっただろう。
大して入っていない財布を摺るために少年を傷つけていった男を心底詰った。
それと同時に、妙な独占欲に駆られた。

そのまま少年を家へ送った。
少年がバクラを信用しなかったら最後だったが、少年が信じてくれた。
それがより、独占欲を高める。


それが最初だった、
バクラが、少年、武藤遊戯とであったのは。


それからと言うもの、バクラは必死に遊戯と出会う機会を作った。
遊戯が気になるのは、被写体としてか人間としてか、
その答えを探るように遊戯と言葉を交わした。

遊戯は非常に素直な少年、少年といっても17になるのだが、
心は正しく少年で、バクラの話を楽しそうに聞いた。
もし彼がその目を見せてくれているのであれば、キラキラと輝いていたことだろう。

彼の性格と、黒い欲が折り重なって、2人はすぐに打ち解けた。
遊戯が服を買いにいくとなれば、バクラは喜んで付き添い、
服の色もわからぬ遊戯に自分が似合うと思った服を着せる。
道を歩く時、そっと腕を掴む小さな手。
ただの男同士であれば訝しげな視線を送られるそれでさえ、
白杖と不釣合いなサングラスがそれを認めなかった。

からかう様にソファの上で遊戯を腕に閉じ込める時、

それによってバクラの独占欲を満たすのだ。

傍から見たものが2人をどう評するのかわからないが、
一見遊戯はバクラの手の内の愛玩動物であった。

それは完全な所有。だが、バクラが所有を主張する時、
同時に恐れが彼を襲った。



もし、遊戯の目が見えるようになったら。



自分が遊戯を腕の中に閉じ込めておけるのは、
遊戯が視力を失っているからであって、
もし、見えてしまえば、自分の腕など掴まずとも、何処へでもいけるのだ。
もう、バクラは不必要に成ってしまう。

だから不安だった。
一生来なければ良いと思っていた。
そして、
それはやってくる。






「大事な話?」
「そう。あのね、ボク、」


遊戯の声は嬉しそうであった。

「ボク、目の手術するんだ。
新しい技術で、見えるようになるかもしれないんだって。」

「・・・かも、ってのは、そうじゃねぇかもしれねぇってことか?」
「うん・・・。」
「確立は?」
「半分半分だって・・・。」
「結構あれなんだな。」
「でもね!」

珍しく大きな声を出したと、体を小さくする。

「思うんだ、失敗してもさ、今と同じなんだ。だから。」


出会った頃の遊戯は、非常に消極的だった。
風景なんてものは自分と関係が無いものだといって、
すごいね、とだけ口にしては自分のうらやましい気持ちには目を向けなかった。

バクラが罪深いのは、
それを上へ向くよう促してしまったことか。
今まで見たもの、写真として切り取ってきたもの話をした。
山がどれだけ深いとか、紅葉がどれだけ不思議だとか、
海がどれだけ広いとか、鯨がどれだけ大きいだとか、
結局、遊戯が光を求めたのは、バクラがいけないのだ。

その上見せたくないものは黙ってきた、
死んだ弟を背負う兄が唇をかむ姿も、戦火から逃れるため河を渡る母子だとか、
遊戯の世界にそんなものを入れぬようにしてきたのに、
もう、バクラの介入など無いまま、遊戯は膨大な量の情報に押し流されるのだろう。


「でも、ボクの目が弱いのは変わらないから、サングラスは手放せないんだって。」

「そうか。」


手術が成功する可能性など、何パーセントでも同じだった。
根拠はないが、成功するとしか思えなかったのは、
物事は常にバクラにとってマイナスにしかならなかったから。

だから、
その前に遊戯を深く傷つけてやりたくなったのだ。
深く深く傷つけて、
何処の誰であっても癒せぬほど深くまで爪を立てて、
永遠に呪縛を解かせまいと思った。
堪えていた理性の紐をプツリときれば、それでいいだけの話だった。

しかし、これだけ耐え続けてきたそれが、そう簡単に切れる訳もなかった。
ゆっくりと、剃刀でそぐように。

「なぁ、遊戯・・・見えるもんはよ、お前が思うほど綺麗なもんばっかりじゃないんだぜ?」
「わかってるよ。だって、
キミとはじめてあった日だってそうだったもんね。」

財布を摺られた遊戯を助けた、それが最初だった。

何も遊戯が何も知らないと決め付けるのは間違っている。

汚いことなど思えば目に見えることだけではないのだ。
五感のうち1つでもかけると、他の感覚が鋭くなるという。
恐らく遊戯は、彼を嗤う声を聞いたことがあるだろう。

「そんなこと判ってても、見てぇのか?」
「見たいんだ。」
「怖くねぇのか?」
「怖くないわけじゃないんだ。」

遊戯はバクラが嫌がっていることを言及しなかった。


「でも、どうしても見たいものがあるんだ。」
「なんだよ。」


内向的だった遊戯は、何故、こんなにも強くなったのだろうか。
バクラから引き離そうとするその動機は一体何なのか。

畳み掛けるように疑問を投げかけようと口を開いた瞬間に、声が被った。


「ボクは、キミが見たいんだ。」


開きかけた口は開いたまま、ただ声は出なかった。


「ボクは、キミを見てみたいんだ。キミを知りたいんだ。
キミの撮った写真を見てみたいんだ。キミと同じ風景が見たいんだ。」


バクラは、自分と遊戯の間では、互いの気持ちに違いがあると思っていた。
たしかに違った。
だが、それはただ求め方が違うだけで、求めるものは同じだった。

「ボクは今まで・・・自分が何も見えないことを嫌なものだとばっかり思ってた。
でも、もしボクの目がキミの目と同じだったら、ボクはキミに会えなかったかもしれない。
あっても、キミはボクのことなんか、気にしなかったかもしれない。
だからね、少しだけ、嫌いじゃなくなったんだ。」

遊戯の言葉は真っ白だった。
誰がどう聞いたとしても、恐らく真実だとわかるほど、
心、そのものの言葉。

「ただね・・・手術して、怖いことがあるよ。
もし、ボクの目が見えるようになったら、
キミはボクに構ってくれなくなるかもしれないってさ。」

バクラが遊戯を変えたように。

「んなわけねぇだろ。」

バクラもまた変わった。
今までなら素直に伝えやしなかった言葉だったというのに。

自分と同じ不安を抱えていた遊戯に、心は強く共鳴して、
歳の割には小さな体をぐっと引き寄せた。
遊戯は少し驚いたようにしながら、バクラの首を探り当て、そっと腕を回し、
より温もりを感じる。

ただ、コツリとメガネのフレームが当たった。
邪魔だった。
それはこうして触れ合うのを邪魔するだけではない、
バクラの前で隠しつづけるのだ。

「なぁ。」
「何?」
「お前の目が見えるようになって、そのサングラスを取れるようになったら、
お前の瞳が見たい。いいか?」
「うん。」
「ほんとか?」
「ほんとだよ!約束するよ!」

裏返りそうな声で返事を貰うと、何だか可笑しくなってしまった。
妙に素直な自分に気味の悪さを覚えるが、どうにもならなかった。

「遊戯。」

声をかけてから、その頬に触れる。
そして擽ったそうにする様子を意に介さず、
唇に触れる。
小さくて、柔らかい。
触れたい。

「なぁ、一寸、特別なことしようぜ。」
「特別?」
「俺が、お前の目が見えるようになっても、お前を手離したりしねぇっていう印。」
「うん。?」

遊戯を顎をくいっと持ち上げて、
その肩をより引き寄せて、
予告をした唇にそっと触れる。

それは恋人らしいものでも、外国人の挨拶とも違う。
想いの熱さを告げるには丁度よかった。

「ねぇ、今の、何?」
「何だろうな。」
「なんだか、変な感じ。」
「そうか?」
「うん。・・・すごく、ドキドキするんだ。」

こんなのは初めてだ、と無垢に笑い、もう一度寄り添う。

「もっかいすっか?」
「いいよー・・・ボク、しんじゃいそう。また今度ね。」
「今度・・・ねぇ。そーいや、手術、決まったのか?」
「ううん。未だだよ。」
「決まったら言えよ、見舞いにいっから。」
「うん。バクラ君が居れば、ボク、怖くないよ。」


失敗を僅かでも願ってしまった自分が情け無いと苦笑しながら、


ただ、今は、手術の成功と、その先にある遊戯の笑顔を待ち望んでいた。






---------------------------------

リクエストありがとうございました!

この遊戯は先天性ではないようですね・・
障害関係は、表現とかに悩んでしまいます;


激しくスランプで申し訳ない;

(08.10.14)AL41